「子どもの身長が気になったら」

皆様こんにちは。今回のすくナビ担当は、内分泌担当の宮原です。
今回は教えて！近大先生～低身長編です。小児科の外来でよくいただくご質問にお答えするシリーズです。

今回のご質問です。

「5歳の男の子です。背が低いのが気になります。検査や治療は必要ですか？」

早速ですがこれに対するお答えは、

「低さの程度と、背の伸び方によっては検査を検討したほうがよい」です。

低さの程度、背の伸び方を知るために、何はともあれまずは

成長曲線（図1）をつけてみましょう。
http://jspe.umin.jp/medical/chart_dl.html

図１

どのお子さんも多くはこの成長曲線上のいずれかのラインに沿って成長します。95％のお子さんが、－2.0SDから＋2.0SDのライン内に入ります。

図2　現在の身長が‐2.0SD以下である場合

図２

図2のお子さんのように、現在の身長が、この‐2.0SDライン以下なら、低身長としての検査を検討することになります。‐2.0SDラインは、同じお誕生日のお子さん100人が集まった時、背の順にして前から2.3人があてはまるラインです。例えば5歳0か月の男の子の場合、98.4㎝以下なら検査を検討することになります。

図3　現在の身長は‐2.0SD以上だが、伸び方が低下している場合

図３

ではこの成長曲線（図3）はどうでしょうか。現在の身長は‐2.0SDラインよりも上にあります。しかし、伸び方をみるとラインに沿わず、もう一つ下のラインに近づいているのがわかります。この場合も検査を検討することになります。

図4　急激に伸び方が上がっている場合

図４

この成長曲線（図4）は、‐1.0SDラインに沿って伸びていた身長が、急に上のラインに近づくように伸びています。この伸び方は、思春期の始まり（成長スパートの始まり）の可能性があります。最終身長は、思春期の来る時期に大きく左右されます。男の子では135㎝未満、女の子では132.5㎝未満で思春期に入ると、最終身長は男の子で86％が160㎝未満、女の子で83％が150㎝未満になることが報告されています1）。そのため図4のような成長曲線をとる場合も受診されることをお勧めします。

それでは受診したあと、どのような病気が考えられ、どのような検査を受けるのでしょうか。まず図5をお示しします。

図５

これは成長時期を3つにわけて考える図で、乳幼児期、前思春期、思春期のそれぞれの時期の成長にかかわる代表的な因子を示しています。
お子さんの成長曲線から、どの時期に成長が妨げられているかを知ることは検査を考える上でも重要であり、診断の助けになります。例えば5歳ごろであれば成長ホルモンや甲状腺ホルモンを積極的に検査することになります。

 
身長の伸びにかかわるものは他にも、遺伝、体質、ホルモン、骨や腎臓、心臓などの病気、栄養、睡眠、運動、心理状態などがあり、これらのいずれかが影響していないかも調べていきます。
身体測定、血液検査、骨のレントゲン、場合によっては染色体検査、頭部MRIなどが行われます。

手のレントゲン

原因として最も多いのが、両親も背が低いといった遺伝（家族性低身長）や体質（特発性低身長）といわれるもので、有効な治療法がないのが現状です。しかし近年、これらの一部の方に、成長にかかわる1つの遺伝子の変異が見つかるようになり、近い将来この遺伝子変異をもつお子さんに対する治療が見込まれています。家族で小柄であることは珍しくないことですが、検査結果によっては今後治療につながる可能性があります。
また、成長ホルモン治療で身長を伸ばせる疾患については、成長ホルモンの補充を行います。代表的なものとして、成長ホルモン分泌不全症があります。脳からの成長ホルモンの出が不足しているために生じる低身長であり、ホルモン補充治療を受け始める年齢の分布は、5～6歳ごろに1つ目のピークがあります。成長曲線は図3のようになることが多いです。

成長曲線が語るところは大きく、私たち小児科医は必ずこれを念頭に医療を行います。
お子さんの身長が気になった時、母子手帳、保育園や幼稚園、小学校での身長の記録を集め、ぜひ近畿大学病院小児科を受診してみてください。
 
参考文献：
1）加藤則子ら　Clin Pediatr Endocrinol 25:71-76,2016
2）田中敏明ら　日成長会誌　17:17-23,2011
3）Karlberg J Acta Paediatr Scand Suppl 356:26-37,1989
1）加藤則子ら　Clin Pediatr Endocrinol 25:71-76, 2016
2）田中敏明ら　日成長会誌　2011；17：17－23