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自分だけの秘密基地

おはようございます。
kindle作家のTAKAYUKIでございます☆彡
とらねこさん企画、文豪へのいざない第7弾《自分だけの秘密基地》を執筆したいと思います。
みんさん、準備はよろしいですか? トイレは済ませましたか?
それではごゆったり~☆彡

実は僕、小学校3年生にしてマイホームを持っているも同然だった。
小学校2年生の時、おばあちゃんが空になった。主を失った平屋の4DKが泣いている。そこで僕の登場だ。おばあちゃんの家は僕が継ぐのだと意気込み、学校が終わって帰ってくると、僕はおばあちゃんの家で過ごすようになった。
そして3年生の11月。この日も僕は、スーパーのビニール袋を持っておばあちゃんの家のお勝手口から侵入した。手前の2部屋と玄関は使わない約束になっている。おばあちゃんが使っていたテーブルや椅子、ソファーがそのまま残っているし、玄関は防犯上開けるなってお母さんから言われていたから。
廊下を通った先に和室が2部屋ある。僕は奥の6畳の和室を秘密基地に決定した。おばあちゃんの寝室を僕なりにアレンジすることにしたのだ。
まずはふすまを閉めて、玄関に通じる木製のドアも閉めた。これで6畳間に僕だけだ。押し入れからこたつ、こたつ布団、座椅子、座布団を取り出し、セッティングを済ませた。

スイッチ、ON。
ぶわあ~んって音がして、こたつの中が赤くなった。
窓は今みたいな鍵じゃなくて、銀色のネジを押し込みながら右回りに回して鍵を閉めるタイプ。これが結構面倒くさいんだよね。急いでる時とか本当に嫌だった。
鍵を閉め終えると、僕はカーテンを閉めた。室内が真っ暗になったので、僕は慌てて蛍光灯から垂れ下がっている紐を引っ張って電気をつけた。
「これで秘密基地の完成だ」
ちょっと狭くて畳も傷んでいるけど、僕にとっては十分だ。
それに一人じゃん。僕は一人じゃん。なんかドキドキする…。
こたつから1.5m離れたところに14インチのテレビが、テレビ台の上に乗っている。僕はスーパーのビニール袋から、ファミコンを取り出してセッティングをした。
ロールプレイングの続きを始めるのだ。喰らえ~ベギラマ、ホイミで回復!

お腹が空いた…。こんなこともあろうかと、僕は再びビニール袋からカラムーチョを取り出した。これは昨日、妹と2人で食べた残りだ。僕がお兄ちゃんだ、お兄ちゃんの方が多く食べてもいいのだ。妹はこの前、果汁グミを僕より2粒多く食べた。その分のお返しだ。
カラムーチョはちゃんと輪ゴムをしてあったから、しけっていなかった。
ちなみに妹は僕と双子だけどね。全然似てないけどね。

喉がかわいた…。僕はビニール袋からコーラを取り出した。僕の家から一番近い自動販売機でさっき買っておいたんだ。100円は僕にとってかなりの出費だけどしょうがない。水道水を飲んでもいいけど、それじゃあ雰囲気が出ないからね。
それにしても完璧でしょ? 僕の段取りってやつ!
誰もいない部屋で僕一人。大好きなファミコンをプレイしながら、お菓子を食べながらジュースをグイグイ飲む。最高じゃないか。
ありがとう、おばあちゃん。

「TAKAYUKI、ご飯だよ」
お勝手口からお母さんの声が聞こえた。時刻は18時30分を過ぎていた。
僕は全ての電源を抜くとダッシュでお勝手口に向かった。秘密基地を出てからお勝手口までが真っ暗で怖いんだ。電気がつかないんだよね。お父さんに言って新しい電球を買ってもらおう。それに真っ暗だから、誰かが追いかけてくる気がして…。怖いから絶対振り向かないけどね。

案の定、それから秘密基地はみんなのたまり場になった。みんなで集まってトランプやアルカノイドを勝負をしたり、ミニ四駆を走らせたり、外で泣いている友達を助けた事もあった。みんなも秘密基地を気に入ってくれた。ずっと住んでいたいという友達もいた。さすがに断ったけどね。
だけど小学校4年生になると、僕はサッカー部に入部したから、秘密基地に行く回数は減っていった。
夜になったら僕一人じゃ行けないもん、怖くて。室内はしーんと静まり返っていて寒いし、それに急に窓ガラスがカタカタってしゃべり出すんだよ? 怖いでしょ? ホラーでしょ? 
ぜったいキョンシーの仕業だよね?

中学・高校生になるとより秘密基地に行かなくなった。たまに友達が訪ねて来た時や、母屋で喧嘩した後に頭を冷やす為に利用していた。この年代なれば夜中でも僕一人で秘密基地に行けるようになっていた。

僕が30歳の時、おばあちゃんの家を解体する事になった。誰も住んでいない家はあっという間に劣化してしまったのだ。
あの秘密基地は、今はもうない。
一人で考えながら部屋をレイアウトし、限りある食料と飲み物を用意し、母親に呼ばれるまで好きな事をして過ごしたあの秘密基地の時間は、僕の貴重な体験として今でも記憶に残っている。友達と一緒に過ごした時間も同様に。
大人になった今だからこそ、もう一度秘密基地を作る必要があるのかも知れない。あの頃の気持ちをもう一度再現する事で、もしかしたら目の前の課題やストレスを解決・解消する手立てが思いつくかも知れない。心が軽くなって、再び笑顔を取り戻せるかも知れない。

人生を振り返るにはまだ早いけど、それでも僕の秘密基地をみなさんに知ってもらえた事について、僕はどこか嬉しい。こうして記事を書いている僕の心は躍っている。

だって、あの日のドキドキが今でも忘れられないのだから………。


【おしまい】


過去の文豪へのいざないは下記よりお読み頂けます。

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