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三文文士くんとの対話

みなさん、おはようございます。
kindle作家のTAKAYUKIでございます☆彡

「嗚呼…テレビジョンが面白くない。ネトフリもほとんど見ちゃったし。何か他に面白いことないかな。わーん。えーん」

若人が泣き出しました。まあ確かに面白いことを探すのは大変ですし、僕が若人の時も同じように毎日面白いことはないかと探しながら、この言葉が口癖になっておりました。

時代は流れたけれども、そこは同じ人間。1日を一生懸命に生きる為には、やはり面白いことが起きなければ更なる高みを目指せないのですョ。


そこで僕がオススメするのが、このnoteです。

「君はnoteを利用して、いいねを沢山もらおうって算段なんだろ? ちがうか? だってやけにいいねの数が多いゾ。僕だって毎日noteを更新しているのにも関わらず、いいねが8しかつかない。1記事の平均いいねは5.5だョ。僕だって好きで三文文士になった訳じゃないんだ。えーい。覚悟しろ!!!」

なんと突然、どこの馬の骨か分からない三文文士が、僕を追いかけてくるではありませんか。全く、世も末ですネ。

だけど僕は焦りません。焦るどころか、三文文士の顔がはっきりと確認できるまで待ちます。

「なるへそ。君が三文文士か。あまり自分のことを卑下しない方が得策だョ。これは老婆心ながら伝えておく」

「老婆心だとぅ? それは老害の間違いだろうがッ」

広いおでこに分厚い眼鏡、さらに髭もじゃの顔を確認した僕は、その場でくるっと回ると、走り出しました。

「まままままままままてェ………」

三文文士の声が聞こえなくなったところで僕は振り返りました。すると、遥か手前で三文文士がアスファルトの上に寝転び、万歳をした状態で天を見ていました。

週5で200mダッシュを2本こなしている僕に、三文文士が追いつけるはずがありません。

僕は呼吸を整えながら、三文文士のもとに到着。三文文士のすぐ横に僕は座りました。それも懐かしい体育座りでネ。

「君はnoteを勘違いしている。noteを書いているクリエイターさんたちは、どのサイトよりも文章を読む事に長けている。だからサ、いいねの数なんておまけなんだョ。それよりも自分の為に、クリエイターさんの為に文章を書くべきなんだョ。わかる?」

僕の問いに対し上体を起こした三文文士。すえた匂いが僕の鼻腔に届きました。三文文士は分厚いメガネを外すと、Tシャツでレンズ部分を拭き始めました。

「それは分かっているサ。僕だって腐っても鯛。腐っても三文文士だ。今までにも沢山の文学賞に応募しては落選を繰り返してきた。そんな僕の書く小説やエッセイは、悪いけどnoteの世界じゃ群を抜いているのは間違いないんだ。だけどその割は、いいねとフォロワーが少なすぎるんだよ。それに訳の分からないマガジンや………」

このあと、三文文士は30分間に渡って、noteに対する不満といかに自分が三文文士のわりに頑張っているのかを、僕にアッピールしてきた。

「嗚呼…終わった? 君は喋り出すと止まらないんだネ。いっその事、芸人さんになれば? それだけ弁が立つんだからサ」

すると、三文文士の顔が膨れ上がりました。Tシャツで拭き上げたピカピカのレンズが太陽に反射して眩しい。

「君! それは侮辱し過ぎだゾ。僕には、僕には、文章を書くことしかできないんだよ………わーん。えーん。わーん」

三文文士の涙が頬を伝わって、アスファルトに黒い染みを作ります。

僕は心の中でこう思いました。

「嗚呼…面倒くせェ」

僕はひとつ大きなため息をついたところで、三文文士の背中をパンパンと2回叩きました。その背中にはほとんど肉がついていません。

「君が文章を書くことが好きなのはもう理解したョ。だけどネ、結果が出ないからと言って、それを他人やサイトが悪いと言って責任転嫁するのは本末転倒なんだョ。まずは自分の現状を受け入れ、そこから改善点を見つけて進んでいく以外に、成功はない。近道はないんだョ」

三文文士が嗚咽を漏らしました。声を上げて泣いています。それはまるで東大受験に失敗した浪人生のように。

「まずは自分を卑下するのはやめなさい。誰も得をしないんだからサ。次いで自分の結果は自分で受け止める。他のせいにしない。いいねやフォロワーを気にするくらいなら、Xやインスタグラムを始めればいい。そっちで頑張ればいい。noteはそのような場所ではないから。それと最後にもう一つある」

すると三文文士の嗚咽が止まりました。メガネを外してTシャツで涙を拭く三文文士。つぶらな瞳を見た僕は、ちょっと笑いそうになりました。

「ななななななんですか? あとひとつとは?」

三文文士が僕をガン見してきます。その表情はまるで尻の毛を抜かれたような顔をしていて、吹き出してしまうところでした。

「飯を食え。ガリガリだぞ。最後に飯を食ったのはいつだ?」

「そんなの忘れたサ」

三文文士の視線が、アスファルトに落ちました。

「とりあえず飯を食べに行こう。美味いもの食べて寝れば、明日には気力が戻っていることだろうョ。豚カツでいいな?」


このあと僕は、三文文士を助手席に乗せて定食屋さんに赴き、『豚カツ定食大盛』を注文。

「ゆっくり食べなさい!」

「〇△■※&≦☆彡」

三文文士はご飯とお味噌汁、さらに千切りキャベツをおかわりしました。

次いで満腹になった三文文士を連れて、温泉スパに行きました。

湯上り後、脱衣所で僕はコーヒー牛乳を一気飲み。三文文士は哺乳瓶で飲んでいるかのように、ゆっくりといちご牛乳を味わって飲んでいました。

車内でたわいもない話しをしながら、最寄り駅に到達しました。

「す、すいません。すっかり世話になってしまって………」

血色の戻った三文文士。身だしなみに気を付ければ、どこにでもいる普通の30代にしか見えない。

「あとは自分次第。幸運を祈るよ」

僕の声かけに対し、三文文士が力強く頷きました。

「もう誰のせいにも、言い訳もしません。全てを受け入れます」

三文文士の目に、今はっきりと生気がみなぎったのを僕は確認しました。

助手席を降りた三文文士は僕に一礼すると、駆け足で階段を登って行きました。



そうです、この三文文士こそ、10年前の僕だったのです。




【了】




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