読書紹介53「エッジウェア卿の死」
感想など〔ネタバレを
含みます]
今回の犯罪、アリバイは、変装がポイント。
その人になり切ることで、そこにいたと証言もされた。
姿格好は同じで似ていても、「生きざま」「身に着けた教養」までは、なかなか生きうつしとはならなかったところに、計画が崩れるポイントがあったのかと思えた。
クリスティ自身は、自叙伝で
「私は、ルース・ドレイバーの演技を見て、この女優のものまね演出法のなんとも言えぬ巧妙さに、すっかり感動しました。ルースが、こわいガミガミ女房から、がらっと一変して、ひな菊のような清純な田舎娘となり、大聖堂で跪いている姿を見て、驚嘆しました。この女優の事を考えているうちに、忽然と、「エッジウェア卿殺人事件」の物語がうかびあがってきたのです。」
と言っている。
そう、本作のカ―ロッタ・アダムズのモデルになっている。
変装をして、自分ではない人物になる、自分を隠そうとする話はよく見聞きするけど、逆に、別の誰かを「演じる」(なりきって)、アリバイにしてしまうところが斬新だと思った。
クリスティの作品は数多くドラマや映画化されている。
今回の話を日本でドラマ(映画)にするとしたら、俳優だったら、誰がどの役になるか?想像すると楽しいなと思った。
作中のポワロの次の言葉が印象に残った。
「心理学への興味なしに犯罪に興味を持つことはできません。犯罪というのは、単なる殺しの行為じゃないんです。犯罪の背後に専門家にしか見えないものが隠されているんです。」
「犯罪は強い個性と個性の衝突から生じる」
まさに今回の犯人は、「個性的な」人であった。
この物語は、1933年の作品。
1930年代は、アガサ・クリスティにとって幸せな時期だった。
それは、若き考古学者マックス・マローワンと再婚した時期と重なっているから。
そして、それを反映するかのように、「オリエント急行殺人事件」「メソポタミア殺人事件」「三幕殺人事件」などの名作が多数生まれている。
「私は一つの作品を実際に書きあげるのには。だいたい3か月かかるが、プロットを考えだすのに、およそ三週間から9カ月かかります。」
とも語っていたそうだから、日々の生活、結婚生活がうまくいっていなければ、作品作りにも影響しただろうことは容易に想像がつく。また、自分の経験~旅行、看護、飛行機に乗った事、観劇・・・から、トリックや話の構想を膨らませていく、創作のヒントはいろんなところにあったのだなあ。
そのヒントに気づくかどうかが、天才と凡人の違いなのかも。
でも、才能ばかりではなく、創造し続ける、挑戦し続ける「努力」があったから、ミステリの女王でいられたのかな。
また、一つ、新しい作品をありがとう、クリスティ。
皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです