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読書紹介31 「アルキメデスは手を汚さない」

あらすじ
「アルキメデス」という不可解な言葉だけを残して、女子高生・美幸は絶命。さらにクラスメートが教室で毒殺未遂に倒れ、行方不明者も出て、学内は騒然!大人たちも巻き込んだミステリアスな事件の真相は?70年代の学園を舞台に、若者の友情と反抗を描く伝説の青春ミステリー 江戸川乱歩賞受賞作。

感想

この本は1973年に刊行されていて、かなり古い作品ですが、今なお人気があり、再出版されました。

あの東野圭吾さんが、作家を志すきっかけになった本でもあります。
そういえば、東野さんの初期の作品は「放課後」「卒業」など、「学園ミステリ」「青春ミステリ」が多いです。何か関連があるかもしれません。

この作品には、次のような楽しみ方があると思いました。

1 推理小説としてのなぞ解き
2 青春小説として、「ヤング悪漢」の活躍ぶりを読む
3 男女意識や性に関する時代背景を知る
 

1.
まずは、普通に推理小説としての謎解きです。
今回は、妊娠中絶の失敗で絶命し、その周辺で毒殺未遂事件や行方不明者(のちに、死体が発見される)などが起こります。
犯人は誰か?そして動機は?
さらに、これら複数の事件のつながりは?
現代のようなスマホやインターネット、AIなどがない時代の話ですが、だからこそ、それぞれの心情描写が鋭く、深いです
どうしてそういう言動があるのか、想像力を掻き立てられました。
次のような言葉がありました。

<人間心理>
・知り合いの中に自分より不幸な人間がいることで、優越感をくすぐられる。
・腹が立つとしぜんと足がはやくなる。
・自分の断定が決定的な決め手になることを極力避けるのが一般人の常だ。
・晴らす相手のいない怒りくらい心身を苛むものはない.。
・金のない者に限って、金なんか、って顔をしたがるものです。

2.
事件の主役となる登場人物の中心は高校生です。
そして、大人に物おじせず反抗したり、言い負かしたりする姿は痛快でした。
あらためて、まじめな人より、ちょっと不良っぽい、「悪(ワル)」の方がかっこよく見えるは、どうしてなのか?考えさせられました。

ざっと、読んでいて浮かんだ理由は次の通りでした。
・怖いもの知らずで、「守り」に入っていない
・仲間意識が強い。絆と言ってもいい。
・いいことはいい、悪いことは悪いと、ごまかさず、純粋な思いが前面に出ている
・周りにこびていない、自分の思い?信念?にまっすぐな気持ちを持っている
・自分の力でやり通す、頼りがいがある。

3.
1970年代の作品で、やはり、男女関係や性についてなど、今の時代との差、違いを感じ取れるます。最後のページに出版社のおことわりが書いてありました。次の通りです。

本作品中には、身体障碍者や知的障碍者、職業差別に関する表現など、今日では差別的表現として好ましくない表現が使われています。しかし、作品が書かれた時代背景および著者(故人)が差別助長の意図で使用していない事、また本書の刊行目的を配慮し、あえて発表時のままといたしました。

考えてみれば50年前の作品です。
当時の時代背景やいろんな価値観の違いを登場人物の言動から感じることが多かったです。それは「いい」「悪い」ではなく、一つの歴史として興味深かったです。

 次のような表現がありました。今に通じるもの、それはおかしいと反対したくなるもの、様々ですが、逆に、自分がどんな価値観を持っているかを「写し鏡」として知る事にもつながりそうです。

・男の値打ちは、けじめのつけ方にある。 
 いざというときには、行きがかりを捨てて、するべきことをするかどうかで男の正念が知れる。
・男と言うものは、私的な内緒ごとは友人には打ち明けても妻には明かさないものだ。
・今更ながら、度胸を据えた女の神経の強さに戦慄を覚えた。
・女ってものはね、恋人に口止めされたら親にだって決して打ち明けないのよ。
・統計によると毒殺犯人は女性に多いそうだ。

最後に、タイトル。
有名なアルキメデス。彼の発明品によって、多くの血が流されました。
ここで、アルキメデスは、発明しただけだから「手を汚していない」と言えるかどうか。
話の流れの中でもシンクロする、似たモチーフがあったように思います。
タイトルの意味を考える。
これも一種の「ミステリー」といえると思いました。

著書情報
発行所   講談社文庫
発行年月日 2006年9月15日
      *1973年に刊行され、復刊されたました。 
値段    590円(税別)

皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです。


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