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読書紹介45 「白昼の悪魔」

あらすじ
「確かにここはロマンチックで平和です。明るい太陽、紺碧の海、しかし忘れてはいけません。日の下いたるところ悪事あり、白昼にも悪魔はいるのですよ」ポワロの言葉を裏付けるかように、美貌の元女優が扼殺死体となって発見され平和な避暑地スマグラーズ島の静寂は破られた。犯人が滞在客の中にいることは間違いない。ただ関係者には全員鉄壁のアリバイが・・・華麗なトリックを駆使して読者を魅了する女史の代表作!

感想など

今回の作品では、避暑地である「孤島(連絡橋はつながっています)」という推理作品に多い「クローズ・ドサークル」を舞台にしたミステリー作品でした。
多数の人間がいますが、ホテルの滞在客が事件に関わる人物として絞られていました。
 
 クローズド・サークルとは、外部との連絡が断たれた場所に複数の人間が閉じ込められ、その閉ざされた空間で事件が発生する設定の事です。
 
推理小説を読むと「なぜと言う動機」「どのようにしてという手口、トリック」を解明しようという思考が働きます。
ただ、解明するために、事件にかかわる人たちの「証言」を頼りにすることになります。あるいは、登場する探偵や警察が発見した事実や現場検証結果から、仮説思考が働いていきます。

読み進めていくと、事件には直接、関係なさそうな「事実」「出来事」も出てきます。しかし、事件とどうつながるのか分からず、すぐに読み飛ばしてしまいます。パズルでいえば、重要なピース(手がかり)であるのに、バラバラに提示されると、その意味やつながりが分からず、スルーしてしまうという感じでしょうか。
 
「なぜ、海岸にハサミが落ちていたのか」
「なぜ、誰も入らなかったというのに、風呂の水がぬかれたのか」
「窓からビンが投げられたのはどうしてか?」
「どうして、洞窟で香水の匂いがしたのか」などなど。
 
ハサミは切るもの。では、何を切ったのか?誰のはさみか?

お風呂。水が抜かれたということは、体を洗った後のお湯を見られたくなかったということ。
ではどうしてか?血を洗い流したのか?それとも、別の何か?

ビンがなげられたのは、誰かをねらったのか?
ビンの中には何が入っていたのか?

洞窟で漂っていた香水の香りは、被害者も含めて二人使用していました。
では、どちらが、洞窟にいたのか?
どちらがいたとしても、それぞれ、事件解決にどう影響するか?
 
こうやて、一つ一つの出来事の「なぜ」を掘り下げていくと、ちゃんと意味や必然性がありました。
 
一つ一つの意味や理由が分かると、別の事実つながっていき、まさにパズルのようにはまっていきます。

自分では解けなくても、探偵役(今回はポワロ)の事件解決編を読む時に、カタルシスを感じます。
「気持ちよく騙された自分」を笑っちゃいます。
そしてまた、懲りずに次のミステリー作品に手が伸びます。

今回のカギとなる動機も、ホテルの滞在客の中にいる犯人の誘導(うその証言)により、被害者の人物像に対して、悪い印象を持つことになりました。

これは、現実世界でもよくあることで・・・。
特に人のうわさ、自分に近い人の話は真に受けやすいので、偏った、誤ったイメージで相手を見てしまうことがあります。
改めて、気をつけようとも思えました。

作品に出てきた印象的な言葉がありました。次の通りです。

・ご自分でそうおっしゃるなら、そうなんでしょうね。

・言うだけの値打ちもないことをしょっちゅうペラペラしゃべるなんてばかげているじゃないか。

・いろいろと大発見や新発見があって、電波やらなにやらこの大気の中にウヨウヨひしめいているでしょう。その結果、あたしたちは精神不安定におちいってるんですわ。ですからそろそろ人類への警告がなされるべき潮どきが来ているのだと思いますわ。

・この世の中では人間性というものを知らなければ。どんな知識もむだというものですわ。

・ジグソー・パズルとちょっと似てますよ。まず断片を集めてくる。さまざまな色、さまざまな模様~まるでモザイクです」~そうしてその奇妙な形の一枚一枚を正しい場所にぴったりとはめ込んでいくのです。

著書情報
「白昼の悪魔」 アガサ・クリスティ
発行所   ハヤカワ書房
発行年月日 1986年4月30日

皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです

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