見出し画像

読書記録22 「時生」

あらすじ

不治の病を患う息子に最後の時が訪れつつあるとき、宮本拓実は妻に、20年以上前に出会った少年との思い出を語り始める。
 どうしようもない若者だった拓実は、「トキオ」と名乗る少年と共に、謎を残して消えた恋人、千鶴の行方を追った…。過去、現在、未来が交錯するベストセラー作家の集大成作品。

感想
平行世界?というようなSF的な要素は採り入れつつも、メインは「親子の感動物語」と言う感じでした。

未来から来た息子によって、「更生させられる」と言ってもいい父親。
そして、父親も遺伝病を持つ息子を中絶するかどうかのタイミングで、生きる方を選択するあたりも、あとからそういうことか!とつながり、より感動が深くなります。

純粋な犯人あてミステリではないですが、失踪事件を追いかけたり、時生の正体がだんだんと明かされるなどの謎解きはあって、読んでいてスリリングな展開でした。

昔の「携帯電話導入ビジネス」などの時代背景も描かれていておもしろかったです。特に、自分が見聞きした、経験してきた時代なので、なじみもありました。
また、電話の広がりなどのビジネスアイデアも、当時の人の発想から見るといかに斬新だったかもみえてきました。

今回は愛知県の名古屋が描かれていて、私鉄のことでも、ちゃんと名古屋駅のホームの事や神宮前駅の事も出ていて、詳しく描写されていました。東野さんが実際に使っていたのか?取材として調べたのかは分かりませんが、作家と言うのは、こういうところの細部も描いていくのかと感心しました。
また、多くの作品の中で、その土地ならではの地名、駅名、駅の様子、乗り継ぎも書かれていて、作品を生み出すまでの「インプット力(取材)」やその整理も、創作するための大切な作業なのかなあとも想像しました。

今回は、親子の物語ともいえます。そして、「生死」に関わる内容でもあります。
関連して、次の言葉も印象的でした。

「死を前にしている人間の気持ちがあんたに分かるのかよ。ふざけんじゃねえよ。炎がすぐそこまで迫ってきてるんだぞ。そんな時にあんた、未来なんて言葉を使えるのか。それを感じられるなんて、口先だけで言えるのか。」

「好きな人が生きていると確信できれば、死の直前まで夢を見られるってことなんだよ。あんたのお父さんにとってお母さんは未来だったんだよ。人間はどんな時でも未来を感じられるんだよ。どんなに短い人生でも、たとえ、ほんの一瞬であっても、生きているという実感さえあれば未来はあるんだよ。あんたに言っておく。明日だけが未来じゃないんだ。それは心の中にある。それさえあれ人は幸せになれる。それを教えられたから、あんたのお母さんはあんたを生んだんだ。それをなんだ。あんたはなんだ。文句ばっかり言って、自分で何かを勝ち取ろうともしない。あんたが未来を感じられないのは誰のせいでもない。あんたのせいだ。あんたが馬鹿だからだ。」

言葉に「魂」が宿ると、めちゃくちゃ胸に響きますね。

著書情報
「時生」  東野圭吾
発行所   講談社文庫
発行年月日 2005年8月12日

皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです

この記事が参加している募集

#読書感想文

191,457件

#わたしの本棚

18,694件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?