「甘えん坊第四王子の異世界奮闘記!〜目指すは家族の完全攻略です!〜」
ボクはりゅうと。にほんっていう国で、お父さんと一緒に暮らしていた。お母さんはいない。おぶつだんに置いてある写真がお母さんだよって、毎朝おぶつだんを拝むお父さんにそう聞かされている。兄弟もいないひとりっ子だから、おうちにはお父さんとボクと二人っきり。
夜、お布団の中でお父さんが絵本を読んでくれているうちに寝ちゃって。おうちのお布団で寝ていたはずなんだ。それなのにどうして、今のボクは知らない部屋で目を覚ましたの?
「起きられましたか、リュート王子」
知らない女の人が起きたばかりのボクに声をかけてくる。ほいくえんの先生じゃない。ここはどこ、お父さんはどこ。大きなベッドから飛び降りて部屋から逃げ出す。
「王子! お待ちください!」
女の人の叫び声を聞きつけて絵本に出てくる兵隊さんみたいな服を来た大人達がボクを追いかけてくる。見た事のない建物の中、必死に走って大人達から逃げる。長い長い廊下を走り抜けて見つけた、ほんの少しだけ開いたドアの隙間。追いかけてくる兵隊さんに見つからないよう、ドアの中へと逃げ込んだ。
逃げ込んだ先はたくさんの本棚が並ぶ図書館みたいな部屋だった。かくれんぼはあまり得意じゃないから見つかるのも時間の問題だろうけど、この部屋ならきっとしばらくは見つからないはず。
「誰だ!」
しまった、この部屋には大人がいたのか。つかまる前に逃げなきゃ、なのに動けなくて。だって、その大人の人は……。
「お父さん……?」
「何だ、リュートではないか」
目が覚めて、初めて出会う見知った顔と声。ボクのお父さんと同じ顔と声を持つ人。
「外が騒がしいが、どうした。なんの騒ぎだ」
「……ちがう……。ちがう……!」
違う、この人はボクのお父さんじゃない。似ているけれど全くの別人。どこ、お父さんはどこ。ボクのお父さんはどこにいるの。
「お父さん、どこ!」
「お前の父はここにいるぞ」
「違う! おうち帰る! おうちに帰りたい!」
「お前の家はここだ」
「お父さん! お父さん!」
「本当に一体どうしたと言うのだ、リュートよ」
ボクをつかまえようとする腕から逃げて、部屋の外へ飛び出す。ドアの前、広い廊下が広がっているはずのそこには、ずらりと兵隊さんの格好をした大人達が並んでいた。
「リュート王子! こちらにいらっしゃいましたか!」
「……もう、もうやだぁぁ!」
もう嫌だ、もう嫌だ。どうやって来たのかもわからない場所で目が覚めて、たくさんの大人たちに追いかけられて、お父さんに会えたと思ったら別の人。もう嫌だ、おうちに帰りたい。もう嫌だ、お父さんに会いたい。
目からぼろぼろと涙が落ちる。男なら泣くな、お父さんとの約束破っちゃった。
「やだ、やだ! おうち帰る! ボクおうち帰る! お父さんのいるおうちに帰るの!」
「リュート!」
お父さんによく似た人がボクをつかまえて抱き上げる。
「大丈夫、大丈夫。お前の家はここだ、お前の父はここにいる。大丈夫、大丈夫。私は何処にも行かんぞ、リュート」
泣きわめくボクを軽々と抱っこして、お父さんと同じ手つきで背中をとんとん叩かれる。この人はボクのお父さんではないのに、どうしてお父さんと同じなの。
「お父さん……、お父さん……」
「ここにいるぞ」
「おうち帰る……」
「そうだな、一緒に帰ろう」
お父さん、お父さん。ボクを置いて行かないで、ひとりぼっちは嫌だよ。ぎゅっと抱きついた温もりもお父さんそっくりで。大きな声を上げて泣いていたけれど、気付いたらボクはもう一度寝てしまっていた。お父さんによく似た男の人の腕の中で。
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