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友人代表スピーチ 【ショートショート】

 ただいまご紹介に預かりました、新婦友人の村瀬亜沙美と申します。黒岩純平さん、真希さん、この度はご結婚おめでとうございます。ご両家の皆様もおめでとうございます。誠に僭越ではございますが、お祝いの言葉を述べさせていただきます。

 真希さん……ううん、親しみを込めて、あえて真希と呼ばせていただきます。真希との出会いは中学2年生でした。休み時間、私と同じように一人本を読んでいた女子が、真希でした。本には私の好きな作家の名前が記載されていました。「私も山重やましげさん好きなんだ」、思い切って話しかけたのをきっかけに私たちは意気投合し、仲良くなるまで時間を要しませんでした。山重さんや他の作家の本も貸し借りし合い、感想を共有する時間はとても楽しいものでした。

 夏休みは一緒に宿題もしました。真希の読書感想文の内容に心を打たれました。私の提案で2学期から交換ノートも始めました。ただの日記なのに真希の文章はいつも面白く、将来は作家かライターにでもなるのだろうなと思っていました。同時に、彼女に負けたくない想いも芽生えた私は、心を動かす文章を模索し、ノートにアウトプットし続けました。それでも一向に敵いませんでした。

 中学3年の夏、交換ノートは突然終わりを迎えました。真希に初めての彼氏が出来たのです。それが新郎の黒岩君でした。現実世界の充足によって言葉を紡ぐ必要性を感じなくなったから書くのを辞めたい。そう言っていました。

 私と真希は高校で離ればなれになりましたが、週1ペースで会っていました。茶髪にカラコン、地雷メイクにNiziUの履いていたミニスカート。真希はどんどん垢抜けていきました。黒岩君の話をしている時の彼女は、私にも見せたことのない満面の笑顔でした。黒岩君との時間を大切にするあまり、あれだけ好きだった本も読まなくなっていました。

 一方の私は、ひたすら文章を書き続けました。文学賞に片っ端から応募しました。何百回落選しても諦めませんでした。その熱意は、中学の頃に読んだ真希の文章が忘れられないからこそ、冷めなかったのだと思います。実を結んだ時には24歳になっていました。受賞を真希に報告したら、結婚すると返ってきました。

 涙が止まりませんでした。真希のおかげで夢は叶った。でも真希の気持ちは完全に黒岩君に向いていた。涙の二つの意味に気付いたからこそ、この場を借りて言いたいことがあります。

 私は真希のことが好きです。山重さんの話で盛り上がったあの日から、ずっと好きでした。嫌われるのが怖かったから、自分の気持ちに気付かぬふりを続けていました。でも、真希が新たなスタートを切るのであれば、私も次に進まなければならないと思い、自分へのけじめとして、言わせていただきました。

 お二人の末永い幸せを願い、はなむけの言葉とさせていただきます。
 本日は本当におめでとうございます。

(1180字)

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