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【連続小説】SNS監視委員会(最終話)

※創作短編(最終話:2508字)。

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最終話 リーダー・山辺益郎やまべますろうの場合


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yamabe0109
流行りに乗り遅れると花崎はなさきにしつこく言われ、渋々入れたThreads。その投稿練習と思考の整理を兼ねて、これまでの経緯を振り返ろうと思う。人物や団体名などは最初は実名で書いて、推敲の際にイニシャルに修正するとしよう。実際に投稿するかは知らんけど。かといって下書き保存できるかも分からんけど。

どこから書けば良いのだろう。いじめられていた中学時代と中退した高校時代は振り返りたくない。大検に合格した時は嬉しかったな。結局その後受験勉強をろくにせずFラン大に進学するはめになるのだが。

経済学部って何? 就活で1ミリも役に立たないことを4年間も学んで何になるの? あまつさえ就活のノウハウの一つも教えてくれない。ただ、やりたくもない営業職の求人が大量に来るというだけ。それがFラン大。

大学卒業後は底辺職を転々とし、気付けばアラフォーに。喉が渇いたときにはもう水は無い。人生をやり直したいと何度願っただろうか。

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yamabe0109
1投稿当たり500字制限らしいので、キリの良いところで区切る。ここからが本題とも言えるだろう。

忘れもしない2023年の成人の日。目を覚ますと17歳になっていた。ちょうど20年前の年齢だ。『大きなことを成し遂げ、後悔が全て消え去った時に元の年齢に戻れる』という誰が書いたかも分からない置き手紙だけを頼りに、自分にとっての心残りは、今すべきことは何なのかを三日三晩考えた。もう自分のことはどうでも良い。それよりも、これから大人になる“生きづらい”人々に、自分のような人生を歩んで欲しくない。

ならば、生きづらい人に生き方を教える学校を作るのはどうか。コミュニケーションや世渡り、社会人のマナーなど、勉強よりも“大人になってから必要なこと”を中心に教える学校。中高一貫みたいな感じで6年間みっちり教え込む。好き勝手やりたいから文科省の認可は必要ない。高卒認定試験さえ受けておけば大学受験もできるし就職も可能だろう。

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yamabe0109
学校行事はどうしよう。ぶっちゃけほとんど要らないと思う。文化祭や修学旅行で青春を謳歌することに何の意味があるのか。6+3+3=12。大学を足しても16。たったの16年だ。それに対し、社会人になってから定年を迎えるまでは43年もある。長い人生においてどちらが大事かといえば断然後者だ。よって学生時代は社会人になる為の準備期間という位置づけにすべきだ。青春とか言っている場合ではない。遊んでいる暇などないのだ。やはり学校行事は極力排除しよう。

長い人生において序盤の少しの期間に過ぎない学生時代。人生はまだまだこれからなのに「学校」という理不尽なシステムに苦しめられ、躓き、あまつさえリスカや自殺までしてしまう人が少なくない現状は絶対におかしい。そんな“生きづらい”人々を一人でも多く救うべく、俺たちだけの“理想の学校”を作ろう。絶対に作ってやる。そう思っていた。

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yamabe0109
「生きづらい人」を条件に、『理想の学校建設計画』の協力者をジモティーで募集した。応募してくれたのが花崎みりあと舘林正司たてばやししょうじ、共に17歳で高校中退者だった。

「計画の実現には人数が全然足りない。上手く募集をかける方法は無いだろうか」

「募集なんてしなくても、生きづらい人なんてSNSにいっぱい居るじゃん」

花崎の一言で作戦が決まった。誰にも相談できず一人で悩みを抱える少年少女は、心の内をSNSにのみ吐露している。SNSのSOSを探し出し、投稿者を特定して助けに行く。その際に計画に関する資料を渡し、興味のある人に協力者になってもらう。こうして『SNS監視委員会』は設立された。

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yamabe0109
一年が過ぎた。理想の学校に魅力を感じた入校希望者は15人ほど集まったが、計画そのものへの協力者は一人も増えなかった。そして、この一年の間に俺自身の心境にも変化が起きていた。

SNSを通じて数多の生きづらい人を見てきた。いじめ問題に苦しんでいた小左向こさむきは俺たち委員会の行動が解決に導いたし、友達関係に悩んでいた赤羽利あかはりは俺の説教がきっかけで孤立の道を選んだ。しかし、そんな感じで委員会を必要とする生きづらい人は少数だった。性のマイノリティに悩んでいた上神谷かみがみやも、学級崩壊で泣いていた名須谷なすや先生も、自分とその周囲の人だけで問題を解決していた。そんな人たちを見る度に、SNS監視委員会の存在意義を、理想の学校の必要性を問うようになった。

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yamabe0109
そんなある日、ある人がラジオでこんなことを言っていた。

「結論がおかしな方向に行くかもしれませんけど、皆さんは高校を3年間通って卒業できただけでも貴重な経験だと思って欲しいんですよ。中には恋愛しなかったとか、青春が無かったとか、ぼっちだったとか、嫌な思い出しか無い人も居るかもしれませんけど、そういうマイナスな部分も全部ひっくるめて青春だったと思って良いと思いますよ。途中で辞めるのが一番何も残らないですから」

“学生時代は社会人になる為の準備期間であるべき”という俺の考えを真っ向から否定されたような気がした。青春を謳歌したところで社会に役立つことなんてほぼ無いのに。青春なんて長い人生において無駄なものだと思っていたのに。思い違いだったのだろうか。

そこまで考えてようやく気付いた。俺はただ嫉妬していただけなのだ。青春している奴らを、学生という限られた時間を精一杯楽しむ奴らを、今は今しかないと貪欲に生きる奴らを。

現実の学校に問題点は多々あると思う。しかし、学校という理不尽なシステムから青春が生み出されるのだとすれば、その存在を否定してもいけないのだと思う。

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yamabe0109
かといって、本来は青春を生み出すはずの学校というシステムに馴染めず、青春どころではない“生きづらい人々”を無視するわけにもいかない。理想の学校を作るなんて半ば非現実的な妄想は終わりにして、もっと実現可能で効果的な解決策を考えねばならない。明日、改めて二人に相談しよう。

元の年齢に戻れる日は、まだまだ先になりそうだ。

(Fin.)

※総文字数:26987字。最後までお読みいただきありがとうございました。

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