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リアルコンビニ人間

 今年3月から始めたタイミーバイトも気付けば勤務回数が20回を超えていた。スーパーのレジや居酒屋のホール、時にはホテルの朝食バイキングで洗い場を任されることもあったが、後半の10回は全てコンビニのレジ業務に応募していた。3~5時間レジ応対するだけで4000~6000円も貰えてしまうのだから、慣れさえすれば割が良すぎる仕事である。

 本職が半日勤務だった昨日も、夕方から葛飾区内某所のコンビニで勤務した。出勤時間に余裕があったので押上駅で途中下車し、雨が降りしきる中634mのアレを写真に収める(中には入らなかった)。思いがけずちょっとした観光気分を味わえるのもスポット派遣の醍醐味だ。

 16時45分、今回の勤務地となるコンビニ店舗に到着。バックヤードの事務室に案内され、店長とご対面。

「当方さんはコンビニの社員だったんですね?」

「ハイ。もう6年くらい前ですけど」

 そう、私はコンビニの店舗社員をしていた時期があった。延べ5年4ヶ月、うち4年弱は店長を任されていた。現在はレジの仕様や一部オペレーションが変更されているが、基本的な業務は身体が覚えており、6年間のブランクを取り戻すことは造作もなかった。早い話が私にとっては余裕の仕事なのである。

「おはようございます」

 女子大生アルバイトが出勤してきた。私と同じ17時からのようだ。事務室の椅子に座る私の目の前でブラウスの襟元を指でつまみ、前後に振って胸元に涼しい風を入れている。童貞を長らくやっているとこれだけでも少しドキドキするものである。

「いらっしゃいませー」

 17時、勤務開始。お客様が買い物カゴを私の元へ差し出してくる。私はカゴの中にある商品一つ一つをスキャンし、「◎◎円のお買い上げでございます」と合計金額を読み上げる。お客様はコイントレーに紙幣や硬貨を載せ、私はそれを数え、「◎◎円お預かりいたします」と言いながら
その金額を入力、会計締めボタンを押す。ドロアが開き、そこからお釣りを取り出し、金額が正しいかをしっかり確認し、レシートと共にコイントレーに置き、お客様に差し出す。近年は支払方法が多種多様と化しており、交通系マネーやクレジットカードに加え、PayPayやd払いなどスマホアプリのバーコード決済を使用するお客様も増えてきた。しかし、レジ操作が微妙に異なるだけで、どんな支払方法も基本はほぼ同じ操作で出来る。学生アルバイトでも操作できるよう、ある程度は分かりやすく作られているのだ。

 ファストフーズ(ホッターズの揚げ物類)に代行収納(公共料金などの支払い)、宅急便(メルカリなどの発送サービスも含む)、チケット発券、切手や印紙、粗大ごみ処理券など、コンビニの取扱商品・サービスは多岐にわたる。しかし、隣のレジに居た男子学生アルバイトも言っていたが「覚えてしまえば楽」なのである。基本は定型の接客用語を言うだけなのでお客様とのコミュニケーションも簡単で、レジ操作やファストフーズ作成だけなら動く範囲も限られ、立ちっぱなしでもそれほど疲れることは無い。昔は時給が低いと言われていたが、今は最低賃金の底上げもあり、1100円超えがデフォ。私にとっては“楽して稼げる”部類に入るのだ。

 そして、私がこうして週1ペースで隙間時間バイトをしているのはお金のためだけではない。コンビニが自分に自信を持てる場所であり、追われる日々の中で立ち止まって色々考えられる貴重な時間でもあるからだ。本職では毎日のように上司に怒られているが、コンビニでレジをするだけで褒められることだってある。目の前の仕事でいっぱいいっぱいの本職は気が滅入ることも多々あるが、そんな中で時々勤務するコンビニは良い気分転換になり、色々考える余裕すら持てる。

 ***

 5年4ヶ月にも及ぶコンビニ社員の経験は、同じ小売店であるはずの現職では全くと言って良いほど活かされていない。悔しかった。店長としてあんなに苦労したのに、実はほとんど何も学べていなかった、次に繋がるものは何も無かったと気付いた時、何度も後悔した。

 ただ、こうして月2万以上の副収入になっているのなら、無駄な経験では無かったのかもしれない。村田沙耶香氏の著書に出てくるような、他にとりえのない“コンビニ人間”なのかもしれないし、学生でも出来る仕事に誇りを持てることは無いだろう。本当は副収入が必要ないくらい本職で稼げるようになりたかった。しかし、勝ち組の奴らが絶対に経験することのないコンビニ勤務の良さを、今は思う存分味わっていたい。


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