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当方128の『ちょっとだけ自慢したい話』
おはようございます、当方128と申します。35歳独身男性です。
みょー様の『第三回 ちょっとだけコンテスト』企画に参加させていただきます。よろしくお願いいたします。
『キャバ嬢から貰った“2個目”』
「お前、今日チョコいくつ貰った?」
「うーん、あの娘と○○さんと……5個かな」
毎年、バレンタインデーの締めくくりにこんな会話が男性の間で交わされるのが古くから伝わる日本の慣習と言って良いだろう。
だが私は、“今日”という単位でチョコレートをカウントすることがとても困難である。親族を除けば、今日ではなく“人生で”まだ両手で数えるほどしか貰っていないのだから。しかも、そのうちの1個は中学2年に部活の後輩から頂いたチロルチョコ。数に入れていることすら卑怯だとつくづく思う。
それから13年もの時を経て人生2個目のチョコを貰った訳だが――。
***
コンビニエンスストア勤務1年目の2013年2月11日。
私の27回目の誕生日の前日は夜勤だった。
「実は今日誕生日なんですよ」
24時30分。気がつくと、ある常連の女性のお客様にそんな言葉を発してしまう自分がいた。
彼女の名を仮にCBJとする。つまり職業はキャバ嬢だ。20歳とは思えない大人びたモノトーンコーデだが、スカーフを差し色にすることで可愛くも見えた。時間的に仕事帰りだとは思うが、夜職の女性は通勤服もおしゃれなのだなと考えていた記憶がある。
人見知り故に常連客と打ち解けるスキルを持ち合わせない私にとって、CBJは親身になって話しかけてくれる唯一の女性のお客様だった。私も彼女とならあまり緊張せず会話を交わせた。相手の職業が職業だけに、“女性に嫌われたくない”という特別な意識を持たずに済んでいるのだろう。
「おー、当方さんおめでとう!」
自分から暴露して相手の祝福を誘う。今振り返ると好ましくない手法だった。
そして、事態は思わぬ方向へ。
「じゃあ何かプレゼントしないと!」
CBJはバレンタイン売場からQUEEN ALICEのチョコレートを1個手に取り、私の眼前のレジカウンターに置いた。透き通るような白い手が印象的だった。
「ありがとうございます。お気持ちは嬉しいのですが、受け取れない決まりなんですよ」
私は必死に拒否した。前職の漫画喫茶では鉄の掟だった“チップの禁止”。コンビニ店員の当時もお客様からのプレゼントはお断りすると決めていた。
だが彼女は長財布から野口英世を2枚出してしまう。会計をすること自体はセーフだが、これを彼女自身のものとして持ち帰って貰わねばならない。
「お客様ご自身で食べて下さい」
「いいよー、受け取ってよ」
「もっと良い人は居るでしょ。そちらにあげて下さいよ」
「だって居ないもん」
結局、CBJにお買い上げいただいたチョコは、彼女が立ち去っても私の目の前に残り続けた。こうなるなら余計なことを言わなければ良かった。
幸いにも上司の許しを得ることは出来た。チョコはそのまま美味しくいただいた。ちなみにお客様から誕生日プレゼントを貰うスタッフは他にも数名いるとのことで、そのあたりは緩い会社だったようだ。
中2以来のチョコレートはこうして手に入った。私のことをあまり良く思わないお客様も少なからず居た中、彼女は天使なのではないかとさえ思った。誕生日とバレンタインが2日しか違わないことに初めて感謝した。このことをちょっとだけ誰かに自慢したくなったのも事実だ。
一方で、お客様に商品とサービスを提供する立場であるコンビニ店員として、逆に商品を受け取ってしまったことは自主的に反省せざるを得ない。せめてホワイトデーでCBJにお返しをすることで償いをしたかった。
3月中旬。この日の夜もCBJは来店し、運良く私がレジ応対をした。
「少々お待ちいただけますか?」
今しかチャンスが無いと思い、すぐさまバックヤードからAfternoon Teaの紙袋を持ってきた。
「この間いただいたチョコレートのお返しです」
私はキャバ嬢の必須アイテムである“ハンカチ”をCBJに渡した。
「……あ、ありがとう」
彼女は少し戸惑っていた。私が人にお土産やプレゼントを手渡すといつも微妙な空気になるが、流石に今回の私は間違っていないと自分を信じ続けた。
「じゃあ私も最近誕生日だったから、プレゼント交換したってことで(笑)」
この日は惜しくも3月17日だったのと、たまたまCBJの誕生日も近かったことから、ホワイトデーの意図に気付いてもらえなかったかもしれない。シフトの都合で3月14日当日に会えなかったことを悔やんだものの、これで1ヶ月前の失敗の贖罪は果たした。そう思うことにした。
しかし、
「ハンカチだけど、来週から使うね(てへっ)」
4月に来店した時も、CBJはまだハンカチを使っていなかった。
(Fin.)
あとがき
最後までお読みいただきありがとうございました。実はエントリー作品は事前に準備していた下記『後輩を大切にしていますか?』にしようか迷いましたが、「素敵な後輩が自慢」という強引に結びつけた感じがしたのと、前回(第二回)の“少女”が“後輩”に変わっただけで話の根本が似ていると思ったのでやめました(なので「自慢」などの言葉を削除した上で『1週間毎日投稿企画』のタイミングで投稿しました)。前回との落差が激しいのは反省点ですが、バレンタイン付近にこの話を投稿できたのは良かったです。
(前回のエントリー作品)
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