【ショートショート】一目惚れ
男にとって、それは人生ではじめての一目惚れだった。
ドクンっと心臓が跳ねるのを感じた。人を好きになったことなど、今までいくらでもある。しかし、たった一目でここまで心臓が跳ねるのは初めてだった。
恋人は、いない。いた事がない。それでも誰かを愛した経験はある。
初恋は、たしか中学の時だった。
テニス部だった彼女は、友達の恋人。想いを伝えることは出来なかったが、確かに愛していた。愛とは、必ずしも相思相愛である必要はない。あれは確かに愛だった。
そんな男は、この日、本当の愛を見つけた。そして確信した。彼女こそ最愛の人だ。一目見たときから、心は彼女に夢中だった。
ここで動かなければ男じゃない。そんなことはわかっていた。しかし、男に告白の経験はない。声をかける勇気もない。
それでも、ここは男を見せるとき。
男は勇気を振り絞る。
「某日未明、〇〇百貨店にてマネキンが盗まれる事件が発生しました。目撃者の証言によりますと、50代から60代と見られる男性が、マネキンを抱えて走り去る姿を見たとのことです。警察では現在、鑑識含め犯人の聞き込みを行っています。
また、詳しい詳細が入り次第、随時報道いたします。」
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