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超短編創作シリーズ「遠くの僕が」

僕は情けない

自慢できることはなく、何を取り上げても普通である。何をせずともすでに押しなべている。
この年になるまで、全ての流行にそれなりに影響を受け、時の流れを逆らうことなく享受した。

神様がかろうじて与えてくれた特別は左利きであることぐらいだ。

そんな「左利き」は思っているほどエピソードを持ち合わせず、進んで左端に座ることと本当にはさみが切れないことぐらいである。

出来ることは右手でやるし、言われないと不便だと気が付かない。

その唯一のアイデンティティを使い、飲みの場で気になる子に声をかける。(正確には自然な態度で待っている)
これぐらいずるをしても普通な僕は誰からも怒られないと踏んでいる。
実際、初めの何ターンかのみ有効なものであって、そこから大した展開も用意できずに黙ってしまう。

そもそも、食いつきが無駄にいい子ほど僕の好みではない。
(そんな子ほど連絡先を持っている。)

あの子は違った。
隣になっても、時間が経っても僕の左手には触れず、3回ほど遠くにある届かない皿を何にも言わずによこしてくれた。
それに加えるギリギリの「ありがとう」のほかに会話はうまく続かなかったが、一つだけ聞くことができたあの子の名前の 漢字だけは覚えている。それ以降は、ただただ進むあの子のウーハイを見るしかなかった。僕よりも少しだけ早いスピードに、離されないように必死になった。

だから、気が付いたら家にいて連絡先を知らないままになってしまった。(だから、)
僕の気持ちは伝わっていないだろう。

やっぱり僕は情けなかった。