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わたしの俳句集


鍵凍てるゆえ孤独の美鳴りにけり


戸締まりは一人になる時鍵凍てる


冬の暮なんて虚しい臍の穴


生きようかああして冬の月浮かぶ


病室や大きな老人の鼻暮れる


歯磨きや胡座をかいて春愉し


神経に春愁及ぶ昼の風


生臭い磯の春愁冴えにけり


春の田のそばなりマスク買う店は


おばさんやお好み焼き屋は春になる



寝転べば薫風悲しい二階かな


昭和去り廃墟の一部の扇風機


安倍死にて闇続く世や扇風機


過労死や羽根止まりたる扇風機


扇風機コードが曲がる床の上


痩せたのは貧しさからか夏の服


町寂びてただ薫風の吹きにけり


爽風に豚骨スープの湯気倒れる


注射器がまた吸い取るか血の淑気


田一枚の貧しいとんどの準備かな


鳥降りぬや近代建築冷たかり


春の雨講義は文化人類学だ


病んでより休学のまま昼の虻


春愁や皿洗わずに昼になる


寝冷えして白湯に頼るや湯沸し器


意外なる鼻汁の熱さ寝冷え人


春の地蔵肖像権が気になった


箸の跡鰻丼食う喜びか


月照れば骨美しき簾かな


夏風の髪となるように立ちにけり


電気点けず菓子探す父や秋になる


体温計挿したし秋の雲のなか


友情を忘れた者よ秋の川


青帝は寝てよい平和な昼寝である


田舎まで花飾りした青帝よ


炎帝の鎧に彫られし真赤な花


炎帝の髪焦がしたる匂いする


白帝は麻の着物か洗濯日


梅の木の如き腕した白帝よ


しばらくは黒帝黙る書簡かな


黒帝や瞳に映る寒い町


初日の出波打ち際の石の上


初旭ぼんやりと湧く海の霧


初凧や帰れぬところの木に掛かり


枯草は痛覚無くて冬の風


庭をゆく我が寒影の仕草かな


河川敷まで歩いてくれば星月夜


岩穴の蛸の瞳や秋の月


魂よ舞え月夜に死にたる虫の羽


星月夜しゃがまなくても虫の音


火恋しき魔術師火呼ぶ夕陽かな


秋の夢見れば蜻蛉の心地かな


黒揚羽左には海右には山


寺来れば葬儀のごとく黒揚羽


蛾の羽や夜明けの闇に消えにけり


 病院


粉掃けばそれは蛾なりき朝日差す


戸の裏に脅かす蛾なり昼便所


窓の蝿と過ごしておりぬ点灯前


夜が明けるベッドの窓の蝿哀れ


蝿取器毒ゼリーという人の知恵


野良猫の皮膚の筋肉夏痩せし


ドライブや名もなき小蝿加わりて


小蝿という自由な虫のありにけり


蚊柱の夕暮れの風に曲がりけり


皿抜けて大皿へ飛ぶ蝿の羽


生焼けに蝿喜びぬ鳥の足


怨んでか小蝿の死骸離れない



仏像が静かに笑う小蝿かな


蠢きや全身くねる百の蛆


蛆孵り玉葱壊れてしまいけり


蛆の母よ赤紫に腐る芽よ


ムカデ暴れむ半端な凍結スプレーに


幼くてごきぶりとて踏むことできず


夏蛙歌えば数を数えし夜


ぬるりぬるりぬるりぬるり蝸牛の殻


弁慶が倒れるまでややもりの眼


老鶯は春らしい日を待ちにけり


もう薄れて夕虹なれど醜くくて


夕立かすっかり寝ていたわたしかな


星涼し指の軟膏侘しいな


梅雨の部屋奥歯鋭く尖りけり


白熱電球無力なりけり梅雨の闇


梅雨晴や次々雲の穴開いて


いろいろな雲の姿や梅雨晴間

高台に墓石三つ梅雨の雲


梅雨曇どこか不安な棚の空き


目凝らせば糸蜻蛉にも手ありけり


突然の夏蝶の影に呆気かな


山寺や仏前で蟻は冒険す


庭園の静けさのなか蟻動く


山蟻に気づけば風の吹くところ


過疎の村蛍の川を秘するなり


手と脚は細くとも蜘蛛もがくなり


星朧みるみる消える朝日かな


稲の海とおもえば沈むは幸せか


ひとつ生えて淋しき川の荻なりき


ひとりでに盆の扇風機動くなにがいる


よく知らぬ墓の崩れに手を合わす


墓参りちぎれぬ蜘蛛の糸があり


声張れずうなだれたるや虫の夜


貴婦人の捨てるがごとくマスカット


紅葉散り尽きることなき日和かな


紅葉散る谷に吸われるごとくにも


冬紅葉ナイフで獣を捌きけり


土になる準備終えたる落葉かな


咲きたいかすっかり枯れた垂れ桜


終着駅まで千の冬木の映る窓


寂しがる峰ぞ果てざる秋景色


たった今散りぬ枯木の最後の葉


蜜柑食む乳歯のように種吐きて


蜜柑一個未来の友に渡したし


年惜しむ景色煤けて寒けれど


パンツ干す部屋で過ごすや年の暮


なぜ冬の草生えてなぜ吾寒し


草哀れアスファルト割るのち枯れて


猫じゃらしも枯れて野良猫あやせざる


チェーン店残して街路樹枯れ尽きる


サンタの仮装してレジ打ちの疲れ顔


田舎の寺よ聖樹置かれし町恋し


住職は寺の木眺めるクリスマス


悲しくて己押し込む冬帽子


口寂し冷めたるホットカフェオレに


牡蠣鍋に梅酒嗜むおばあさん


味しない風呂吹き大根噛んでおり


焼芋の蜂も好きそうなる蜜よ


冬籠り色も枯れたる木の裸


冬籠りしぶとい木の葉想いおり


暖房に向精神薬と蜜柑かな


雲美しと伝えたけれど鷹は空


鴨たちの航跡光る朝の河


微動だにせぬも水輪や群れし鴨


さらさらの川砂にある鴨の尻


着ぐるみでふくら雀の気持ちかな


父母を喪えば冬の鳥が残る


寒鯉が身を寄せあうや橋の陰


水揚げや牡蠣の雫は朝日浴び


生きていれば転がる牡蠣も食らわねば


牡蠣縮む暮らしのごとくほっそりと


祖父曰くずわい蟹の手赤くて可愛いし


単位試験前夜寝させぬ冬の蚊め


冬の蚊やよくぞ死に損ないしこと


巡回の警官も春めきうるか


泳ぐ鴨の春めきおりと述ぶ母ぞ


贅肉を熱に変えれず春寒し


春寒しスイッチを押す暗き部屋


春寒や枯木の蔦は幾重にも


春寒し白息溢れる今朝の口      


春寒く祖母の触れたる炊飯器


余寒なり屋根の楓は掃けぬまま


床踏めば足の骨あり冴え返る


浴室に春の夕陽はなかりけり


春雲の端は飛行機なりにけり


春塵を巻きあげて田のトラックよ


思い出に耽りて愉し春の塵


白黴の赤らむ柱や春の夕


雲より出て襟に差す日や春の暮れ


悲しみよ春光恐るる引きこもり


鴨たちの別れあうなり春の湖


   本句   月に柄を挿したらばよき団扇かな   山崎宗鑑

月に串を挿したらば秋の団子餅


海遠く閉鎖病棟の網戸汚れ


目の涙拭けば染みるや汗の塩


扇風機が回ってるからこそ裸足


薄着にて江戸町人のごと素足


真砂取られ浜は素足を恨むかな


白い裏地に素脚晒すか裾めくり


春めいてプラスチックがぐにと言う


返信を老人怠けて長閑さよ     


裏庭やのどかと思えば下水臭


淡月に人生の痛みの涙かな


暖かき日差せば衣類膨らみぬ


敗北や指針冴えたる空の雲


素麺や冬入りあとも残り物


冬に入る撫でればひとつ硬い髭


清ければ冬曙の星尊し


冬の風呂裸の緊張ただならぬ


 俳句てふてふへの投稿句

冬の鼻湿布の薄荷臭すごし


通院に腹痛付けて寒き朝


冬の昼沈黙選ぶ林かな


やはり祖父の訃報ぞ寒夜電話あり


十二月青葉恋しき写真かな


 自嘲

冬めきて冷凍肉になりし人


  竹原

倉照らされて竹矢来の影ありて寒し


招き猫に招かれ寒き料亭に


雨寒し常緑樹という定めなれば


祖父逝きて農機具を売る寒さかな


憎しという落とし穴ありて寒さかな


猿ずっと手を揉んでいる寒さかな


陽が遠く島震えだす寒さかな


寒星は航空機上の世界なり


生呪う青年独り冬の星


自殺決めてなぜ美しい冬の星


冬の星呆れるか海で溺れられず


冬の星死ねず馬鹿馬鹿しく帰る


冬の星やけに布団が柔らかい


冬銀河白い錠剤乗せた手は


枯山や下戸生まれたる酒の町


枯山の奥へ真っ赤な消防車


枯山の猪人里襲いけり


水の雫一つ隠して山眠る


冬の田の泥あるだけの世界かな


法廷をきんと清めよ冬の水


星空に白息太く吐きださん


寒林は墓標なりけり山眠る


晴れきってビル倒れそうな冬の空


冬青空想いを言葉にせずに居よ


冬の雲寡黙な一歩しておりぬ


鼻の形はこんなかんじか冬の風


霜降りる従者のマント旅果てず


氷る月吾と湯に浸かり笑えばよい


事務員のあくび三度や冬の星


持ち物に心入れれば寒さかな


生き別れという言葉の寒さかな


雲の峰男なれども乱れ髪


木枯らしや生傷隠す服を着る


世の中に背中を向けて夏の風


溜息して小さな牡蠣をつまみけり


冬が来て寒い音する新聞紙


ホトトギスポテチを砕く口である


こっそりと眼鏡外して月見かな


夏の朝一瞬炎のごとき夢


スプーンとスコップは似て雪がある


何も無い机寂しく雪の日は


つくしより野良猫の息する如し


秋の日やお湯を沸かせば寂しくて


滝落ちて漢字のごとき飛沫かな


月の前椅子より立てる姫の顔


蚊の命町の歴史がありにけり


冬の雨茸を汚す都市のガス


旅人が飲む水の音夏の山


ペンギンに皇帝がいて冬の山


春の山かつて貴族のいた世界


冬の日や空っぽになるテッシュ箱


冬の空一つの雲が動き出す


涼しさや頁をめくる指の爪


月浮かぶ兎居なくて石ばかり


春の星また風が吹く屋根の上


静けさや風の吹かない枯林


町にある石のすべてに秋が来る


春雨や老人の顔竜に似て


パソコンも若さが大事冬の蚊よ


精神科また秋風が吹いてくる


秋風や折り紙めいた車椅子


雨粒が雨粒を吸う夏の窓


炊飯器音出す夏の朝が来た


雲を見て今日の落葉の美しさ


星占い春の星より秋の星


馬の目に一滴の涙と月の影


喧騒やサラリーマンのビルの月


春風や散文のごとく韻文のごとく


花札で手が止まるとき桜散る


寂しさや木枯らしのなかの人の家


高校を出ているだけで夏が去る


新聞紙今日も涼しい風が吹く


爪切りや青葉若葉が揺れる窓


蝶一匹静かに橋を越えるとき


春来れば布団のような空になる


秋の水静かに滝と変わりけり


寒き日や帽子が落ちる月曜日


旅人が人相見せる冬の風


冬の日や一人の旅人微笑んで


涼しさや月光輝く窓硝子


日の光宝石の如き水を打つ


冬の雨傘を畳めば柄美し


冬の森読書のごとく静かなり


夏の雲雇われたくて笑いけり


地球の暑さ叫べるグレタトゥーンベリ


冬の日にいよいよ静かな牛の角


馬の鼻雲嗅ごうとする春寒し


ゆっくりと眼鏡外れて桜散る


残酷なほど秋空は青いのだ


老人の優しさのごとく桜あり


中年の厳しさのごとく梅の枝


幼年の笑顔のごとくタンポポは


服を干す春風誰か聞くのだろう


涼むなり施設で暮らす障害者


人権に流血ありぬ月涼し


かたつむり口はどこだと言われたぞ


声色が大人びたころ夏の風


月哀れ不妊手術はかつて徳


風鈴や在日朝鮮人の文学よ


春が来た古代のアイヌ今のアイヌ


何聞いたトヨタ本社で蝿が飛ぶ


夏の山松尾芭蕉はもう居ない


蝉のように生きて死んだぞ芭蕉の脚


与謝蕪村時雨のなかの画材かな


秋の田や小林一茶が屁をしてる


雨上がり夏目漱石月を見る


恋をして与謝野晶子は汗を拭く


春に死ぬ西行齧る山の栗


西行の杖がコツンと茸に当たる


西行も芭蕉も来ない冬の山


秋の谷織田信長が扇出す


夏の谷羽柴秀吉の髭がある


春の谷徳川家康の弁当は


夏草や兵士の他も死ぬ戦争


ギャルママは化粧をすれば口寒し


東京で米津玄師は蜜柑むぐ


恋なくも坂本龍一聴く夏の暮


落葉掃く久石譲の曲めいて


夏が来て孔子も恋に落ちにけり


冬の田を今も荘子は耕すや


秋の山宮崎駿どこへ行く


車出る庵野秀明よ冬の蝶


月夜の蚊誰かが生まれかわったか


指の数静かに数える春の風


六月の動き始めるかたつむり


夕暮れや一匹動くかたつむり


雨の夜や秋の珈琲澄みにけり


日が昇るゴーヤの花の淡いこと


生え初めてゴーヤの棘の小さかり


秋風の関東平野はビルばかり


秋に釣られて青葉知らない秋刀魚かな


馬のように日本に食われた桜かな


人の息怖さに蓮へアメンボは


最北端から最南端へ夏が来る


初恋は林檎の花の白さかな


春の風テストに詩を書いちゃった


日本語のルバイヤートもある春よ


日本刀と間違う冬の魚かな


夏の朝定食のごとき病院食


韓国の田んぼで蛙飛んでいる


中国の谷を流れる夏の川


夏終わる東アジアの田んぼかな


日中韓いずれの歴史も春を待つ


秋風や古代ギリシャの物語


やくざ居たある春の日の雲である


秋風の残せる茸を食べにけり


冬風も踏まない雪の美しさ


ノート出す地面の蝉の美しさ


酒よりもたった一度の夏の風


旅人に涼しき一日ありにけり


あなたにはご飯がなくて夏の月


死にたいと誰もが呟く初夏が来た


貧困に生きて涼しい風だけか


月浮かぶ風は静かな声となり


冬の空あなたの冗談温かい


日本や富士山越える雲の峰


たまゆらの命風鈴に似ておりぬ


窓拭いて夏の休日暮れにけり


涼しさに働こうかと決めた夜


町だったここは雪の中夢の中


靴揃えて雪に還るのか雪女


パソコンのなかの宇宙よ夏の星


冬の雲洗濯物は久しぶり


春の波ばかり聞いている人の波


春という大いなる庭開かれた


夏という明るい道を選びけり


秋という蜻蛉たちの結婚式


冬という美しい石拾いけり


年の暮れ衣類のように皺だらけ


新年という何もなき机かな


龍の影どこまで天の川なのか


自転車が壁にもたれる夏が来た


さわがしくて時計壊すと冬の海


人形が艶かしくて暑さかな


テーブルに秋雨少し瓶の耳


ゴミ箱に間違えられて秋の星


本棚に蜘蛛の巣がある寂しさよ


冷房で海辺のように静かなり


味噌汁に氷を入れる暑さかな


夏の日はイギリス人も緑茶飲む


日中韓さらさら秋の日注ぎけり


友達のフィリピン人の暑さかな


涼しさに生きてよかったと友に言う


夏の雲綺麗な水を吐く機械


借りた部屋を涼しい夕陽照らすなり


階段は誰が登っても秋の空


下がらない野菜の値段の暑さかな


涼めない時代が来たか地球丸し


 虎に翼


憲法やそして綺麗な夏の月


 虎に翼


法律もあの若竹も生きている


男とて女苦しめて悔いる暑さかな


白い雲モンシロチョウはどこでしょう


子育ての暑さを知って出生率


夏の浜自己啓発本が濡れている


そよ風に麦藁帽子の軽さかな


ただの水美味しい夏となりにけり


鳴いている蝉よ方言知ってるかい


夏来てもスポーツしない首相かな


冬の夜の窓さえ優しく感じる世


月明かり竹が静かに立ちにけり


秋の夜の生きているような機械かな


果樹園の林檎の肌の夕日かな


夏の夜の寂しい人のお菓子かな


生きたまま死ぬまで寒く立っている


人間が居なくてよかった月の空


窓の隙夏の夕陽は線になる


鳥の足扉盗むや夏の暮


缶ビールと氷河の空間よ春の昼


涼しさよ魚の口の歯が尖る


雲の峰流れて日没終わりけり


石の影歩く靴かな青芒


炎昼や野猿轢かれて赤き肉


菜園や酷暑の証となりし実が


 精神科待合室

冷房や断種法というものを知る


ヨーグルト白し夏雲のごと果実に


五十代の親も感動や入道雲


夏の雨記せば擬音おもしろし


錆の量増える町なり夏の雨


春の瀬戸内海だなあこんにちは


朝になり枇杷の種乾くゴミ袋


胡瓜なり河童の魔羅を得しごとし


針のごとトマトの汁の酸味あり


虎杖や資材置場の山で咲く


木下闇の砂で涼みいる鳩の腹


布団薄く朝日の寂しさ身に沁むや


秋されば生ゴミの臭いさえ澄むか


秋まるまる残暑が食べる今世紀


山ずらして森を拭えば蝉動く


秋されば千枚の皿枯れるのか


死にたくて夏雲仰げば生きたくて


障害は美しくなく花火の夜


清流が激しき滝となりにけり

田舎しか知らぬ人生夏の山


夕暮れや仙人ならば星の涼


ぐったりとした世の中の茂りかな


からからと転がる秋のガラス玉


夏草や小石の角に似た心


秋深く竹に変わりて泣きたいぞ


人間はなぜ存在する西瓜欲し


人間はどうでもよくて茸狩り


人間は丈夫な骨持つ橋の霜


人間は暦創りけり年の暮れ


人間は暦捨てるや年明けて


人間はいつから花見していたか


その細き手で何祈る蚊の命


秋の波白くて透明な音がする


オリオンになることはなく起き上がる


本凍てて指の熱吸う頁かな


冬の顎おもったよりも寂しげぞ


空港に異国の冷房集いけり


空港の空の眺めの夏浅し


風鈴の価値を高める暑さかな


風鈴売り音の宝石売りにけり


のっそりと小さな雲かかたつむり


くわがたが三時の針の向きである


青葉と青葉と青葉と空と青葉かな


ふとももの如きトマトの肉質ぞ


ひまわりや蛇口のごとく花垂らす


思いだすいじめや冷房寒くなり


傷付いた青葉どうして美しい


根っこより枝まで届く暑さかな


夏の田やもうしわけない人の性


夏逝くと爽やかになる時計かな


服を干す綺麗でいてよ夏の雲


びっしょりと胡瓜が泣いた塩の棘


蝶ならば哀れなりけり蛾の骸


山のいずこ梅雨の雨霧湧くところ


夏の暮欠伸したから泣くのだよ


夏山や樹皮のようなる虻一匹


夕雲や決して夏山小さくない


堤防に釣り餌の屑や夏の浜


おっさんや半身沈む青田かな


風鈴の声光るとき星光る


扇風機空しい風の味がする


紫陽花の濃淡に画家魅入られり


図書館の司書の服装棕櫚咲きぬ


 本歌 玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることのよわりもぞする 式子内親王

玉の緒よゆあーんゆよん春の夢


 本句 去年今年貫く棒の如きもの 高浜虚子

去年今年繋げる釘の如きもの


 本歌 君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ 北原白秋

君かえす珈琲よ林檎の香のごとく


 本歌 つくばねの峰より落るみなの川こいぞつもりて淵となりぬる

つくばねの峰より釣瓶落としかな


 本句 鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる 加藤秋邨

鮟鱇が世界と共にぶちきらる


 本句 鷹のつらきびしく老いて哀れなり 村上鬼城

鷹のつら豚に嗤われて哀れなり


 本句 火の奥に牡丹崩るるさまを見つ 加藤楸邨

葉の奥に牡丹崩るるさまを見つ


 本句 頂上や殊に野菊の吹かれ居り 原石鼎

冬富士の頂上の野菊散らされり


 本句 古池や蛙とびこむ水の音 松尾芭蕉 荒海や佐渡に横たう天の川 松尾芭蕉 静けさや岩に染み入る蝉の声 松尾芭蕉

古池の水面の静けさ天の川


 本句 冬蜂の死に所なく歩きけり 村上鬼城

冬蜂に春の田死に所なるならむ


 本句 春の海ひねもすのたりのたりかな 与謝蕪村

春の電車ひねもすのたりのたりかな


 本句 かたつむり甲斐も信濃も雨の中

かたつむり甲斐も信濃も連れている


 本句 青蛙おのれもペンキぬりたてか 芥川竜之介

梅雨が来ると蛇はペンキの塗りたてか


 本句 兎が片耳垂るる大暑かな 芥川竜之介

議員が片耳垂るる大暑かな


 本句 水涕や鼻の先だけ暮れ残る 芥川龍之介

水洟の鼻の先来る春の風


 本句 木がらしや目刺にのこる海のいろ 芥川龍之介 木がらしや東京の日のありどころ 芥川竜之介 行く春や鳥啼き魚の目は涙 松尾芭蕉

木枯らしや東京の空は海の色


 本句 中年や遠くみのれる夜の桃 西東三鬼 

中年や酒の香のする夜の桃


 本句 寒星や神の算盤ただひそか  中村草田男

寒星や神の算盤落ちるとき


 本句 旅に病んで夢は枯野をかけめぐる 松尾芭蕉 雀の子そこのけそこのけお馬が通る 小林一茶

枯野の馬のようにそこのけそこのけパチンコ屋


 本句 白牡丹というといえども紅ほのか 高浜虚子

白牡丹というといえども城の空


 本句 月天心貧しき町を通りけり 与謝蕪村

月天心貧しき国の路上生活


 本句 蚤虱馬の尿する枕もと 松尾芭蕉 冬蜂の死に所なく歩きけり 村上鬼城

蚤虱の死所かな冬の蜂


 本句 月天心貧しき町を通りけり 与謝蕪村

 本歌 久堅のひかりのどけき春の日にしず心なく花のちるらむ 紀友則

久堅のひかりの春の地球儀よ


 本句 旅に病んで夢は枯野をかけ廻る 松尾芭蕉

世に病んだ仏陀も夢で枯野ゆく


 本歌 さびしさに宿を立ち出でて眺むればいづこも同じ秋の夕暮れ 良暹法師

寂しさに宿立ち出でて栗を焼く


 本句  荒波や佐渡によこたう天の川 松尾芭蕉
 本句 古池や蛙飛び込む水の音

古池の蛙飛び込む天の川


 本句 中年や遠くみのれる夜の桃 西東三鬼

夜の桃陶淵明の夏の栗


 本歌 月見ればちぢにものこそ悲しけれわが身一つの秋にはあらねど 大江千里
ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは 在原業平朝臣
花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふる ながめせし間に 小野小町

月みれば神代もきかぬ花の色


短夜や映画のごとき夢とあり


夏の山新しき家隠れざり


暑いから腕から消えた腕時計


大空へ虫の旅する網戸かな


初めてや鶏頭という奇怪な花


夏の星光り家の灯応えけり


幽霊か月が照らした蜘蛛の巣は


冷房や薄着の自分映る窓


蜘蛛の巣の罪を暴いた灯りかな


冷奴人間は地球運ぶなよ


錦鯉餌に暴れて豪華なり


若葉なれば柔らかき影落ちるなり


碑に青葉震えて時計のごとくなり


曇り日の薔薇の深紅の深みかな


昼寝のあといまだに日永の窓なりき


いずこへか雲流れ去る春の山


門前で獣が糞する盛夏かな


獄暑なりアルミサッシの火が見える


落葉から粘液垂れる夏の雨


今日涼しだれの瞳も澄み渡り


涼しげに揺れ止まざりし棕櫚の葉や


海の絵の前に置かれた扇風機


首振って二方の山観る扇風機


縁台の老人雲を食っている


夕焼けの火へ鰯雲美しい


薄い皮がほろ苦く裂けてじゃがバター


秋の土混ざり陶磁器になりにけり


包丁やそういえば林檎白いのだ


梨の実が歯に裂かれては木の音す


冬を待つ生き物の血の熱さかな


冬風が抜ければ痛いか電波塔


冬が来て残る葡萄は石めきぬ


枯欅の大いなる影に踏み入れり


我が胸は枯れた欅の影に射られり


悔いあるか日本よアメリカよ原爆忌


あやめよりあやめに舟の流れけり


人驕り息で動かす蛾の骸


涼しさやサービス業に地声ある


蜘蛛の巣が描く不条理の図形かな


窓だって見る側になりたい涼む暑がる


うきわ持つ何かが腹立つなんだろう


うきわ刺される何かが怖いなんだろう


うきわ脱ぐ何かが悲しいなんだろう


僕という己の椅子や夏の海


夏の日や皿広そうに残り物


涼ませよ福あるという燕の巣


夢のなかでもこの色は夏の草


庇なき空や紫陽花群生す


塀曲がる蜂の人間臭さかな


空中に肩を落とした蜂の顔


美人来て汗一滴も拭き残さず


隔離室永遠のごとくに蝉が鳴く


夏草の風の轍は消え尽くし


人柄について数行夏布団


病院来て白い夏服褒められる


理性ある俳優の台詞がビール売る


梅雨の霧ついにすべての山見えぬ


雨止んで大人びた色や夏の山


雨止んで若返る色や夏の山


燕飛びて涼しき翼得ておりぬ


夏の日や明かりの如き雲が浮く


げっぷする無礼したるや夏の月


釘ありて板細く裂けぬ夏の果


逝く夏ややがて氷菓は尽きたるか


秋を待つ欄干濡らす夜露かな


秋晴れの豊かな光乗る椅子よ


病棟のひっそりとした夜長かな


秋麗チャイの残り香嗅ぐ鼻よ


檜匂う雨冷えの夜路行きにけり


風迎いいれて珈琲爽やかに


ぽこぽこと雲の一団秋惜しく


両足や靴下忘れて肌寒い


生ける者の影伸びている秋の暮


秋澄みて山の形は露わなり


皆去りて蝉残る椅子だけの部屋


朝蝉が鳴きだしたころ布団出る


夜蝉一匹鳴きだすも他応えざる


吾を呼びて窓にぶつかる夜蝉かな


草蜉蝣は腹も美し網戸の夜


天牛や幼時に図鑑で観たっきり


あめんぼの滑りて偽の雨の跡


蝉の音や鯉の尾の波一つ出来


郊外や薬局にさえ蟻の列


躊躇なし蜥蜴は宙へ走り飛ぶ


渋滞の橋を見下ろす白鷺よ


白鷺が頭上を過ぎて渡りけり


白鷺や品位忘るること恥じぬ


歩いたら布団売場で春眠し


鉄条網またもや落花すり抜ける


床のゴミならば蒲公英とはいえど


柵錆びて一方菜の花増えてゆく


菜の花をむしゃと食みたし歯はあるぞ


電柱に田の菜の花が群がりぬ


犬の鼻に悪戯をする土筆かな


春の川固い巌が塞ぎおり


ふと袖が冷えて寂しき春景色


田舎居て春筍もらう習わしよ


なまず飼う水槽二つ春日和


春雨のなか野良猫の尾は濡れる


子供なら素直に笑えたに花の雲


草萌えて世界は浮かぶ如くなり


日に透ける赤躑躅の色の暑さかな


清楚なる白躑躅誇る暑さかな


靴下の菌が喜ぶ暑さかな


水滴の二粒残す皿暑し


暑がらぬ机の羊の縫いぐるみ


夏の日や棚の鏡に窓映る


西日沈む瞬間の影何に届く


西日沈む天空の小鳥染めながら


椅子古く哀しい涼風吹きにけり


氷りつく皮膚も細胞ありにけり


雲の峰なれど風には旗めきぬ


炎天や容姿のために服はあり


柔らかい革張りの椅子の涼しさよ


歩く者に炎天の影ついていく


蜩やわたしはここで死ぬのです


背の方へ日傘傾く気品かな


夏山の如き心地ぞ風呂上がる


劫初より絶頂という涼しさが


白い船花弁の如し夏の海


冷房の下距離のある他者と他者


夏服や若者の肌いつか消ゆ


蜩や古書のいろさえ艶かし


この鰻なにものの欠伸の動きする


夏木立からやって来た人の眉


哀れにも仰向けになり蛾は死ぬや


空と雲今年の蛾ども死に尽くす


ゴキブリのいずこへ向かう途中の死


弱ければ辺り見回して涼むのか


暑いのに他人追い越して寂しさよ


木の数の分からなくなる夏の山


冷房が獣になって唸るなり


吾泣けば忙しそうな窓の蜘蛛


死んだ木の赤い葉哀れ夏木立


祝福を告げる看護師夏の風


ゴム草履なにか危うく裸足かな


白髪吹く夏のそよ風将棋打ち


王将は奥で佇む夏の空


先週の週刊誌かな夏の暮


夜涼みや思い出深きものばかり


声よりも冷房響く廊下かな


立派な戸の小さな鍵穴涼しげぞ


原爆忌地上は人で溢れけり


星の名が分からず困る夏の暮


方言を隠さぬ老婆や雲の峰


三階の冷房使うわたしたち


敗北の意味告ぐ風や夏の草


冷房や同じ結露がある机


前髪や秋の初風に揺れるほど


振り向けば人間の世の暑さかな


冷房や読書をすれば指動く


病棟に来し作業員の日焼けかな


灰色の夢の多さや夏は逝く


鉄塔の涼しげな先端や夏の暮


静けさの一瞬小鳥の飛ぶ暑さ


寝つけれぬ天井透ければ夏の星


台風がこの世の王か風のなか


吾の眼に収まらぬなり夏の雲


枝豆も命ならばといただきます


冷房や金取るばかりの世に住めば


涼しさや小さな声ほど勇気要る


蛾の翼怪物じみて目がありぬ


掃かれざる夏の落葉に蛾が混じる


夕涼み優しいおばあさん怒るとき


台風や深刻そうな顔をする


体より大きな羽根の小蝿かな


夕暮れのまた流れゆく雲の峰


朝焼けや鬼が出そうな谷がある



朝焼けや雲それぞれに色があり


朝焼けや瞼閉じても色分かる


地獄より閻魔訪うか朝焼けよ


錠があり夏の海遠き窓哀れ


欠伸して間抜けな顔やかき氷


冷房に老人がまず寒がりて


どかと置く電子ピアノに晩夏かな


目が悪い老婆が読めぬ晩夏の字


対局に小蝿が混じる将棋かな


古いほど将棋盤良し涼しさよ


蝗の背それは険しき山に似て


夏の果電卓残す数字の意は


夏の川電柱絶えず連なりぬ


冷房や美しき過去など幻と


処暑の夜の沈黙をする灯りかな


新涼や布団畳まず放るなり


青葉風幹より鱗が剥がれ落ち


火の如き夜の夢かな錦鯉


蛇口より冷えた水湧く夜の秋


新涼や雲の影なき頂上あり


蟷螂や礼儀正しき背中して


こんにちは蟷螂は一度手を振った


さようなら蟷螂は前向くばかり


脚を組む癖恥ずかしき残暑かな


九月来て伸び盛りなる木が育つ


かさぶたや肉の痛み吾に珍しき


美しき枝の影に戦慄す秋の暮


冬蝿やあの世のごとき寒さかな


伐採されし街路樹の瘤の寒さかな


コンクリの雨跡付いて消える夏


初夏めきて薄い雲浮く駐車場


嬉しさよ指濡るる春の卵かな


たこ焼きを買う春意かなお腹鳴る


浅利たち最後は浅利飯となり


マテ貝やマテ貝色の煮汁出す


春の夜の炊飯器あかぬ米の味


鮎焼けて波飛沫めく飾り塩


焼き鮎の旨さに唇は塩まみれ


淡い味淡い匂いや香魚食む


ぱりぱりと男たち噛む胡瓜かな


食道を通るには胡瓜固くてね


口中の歯に涼しさや氷屑


風涼しタコ煎餅の袋持つ


祖父の噛むたった一粒の葡萄の香


吾が頬に楽しさをくれアイスティー


酷暑にて宝のようなコーラかな


冬隣ココア飲む人いて買いたし


温まる胃腸よホットドリンクに


地平線に夕陽が潜る秋来たり


やけに高い残暑の空へクレーン車


油照り綱が痛そうなクレーン車


油照り真っ暗な部屋外から見る


炎天や薔薇の幻覚見えるほど


炎天や切られた薔薇が刃に乗るや


炎天や薔薇の花喰う薔薇の花


掃かれざる蜂の死骸や夏惜しむ


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