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わたしの和歌集


 人々の歌



   初めて短歌を詠んだ。二首


兄弟で遊べば

何時と騒ぎだす

おもちゃがごたごた

おやつがごちゃごちゃ


初々しく笑えば何時と

慌てだす

彼女あたふた

彼はオロオロ


ほっそりとした腕若き怒り秘め愁いを隠す十九の君よ


おもしろくないひとだって言われたよほんとうだから悲しい机


忘れてもむしろ嬉しいあの名字突っかかってきたやな同級生


僕と君だけに通じる暗号のような言葉があればいいね


膝の上お膳を載せて「ピクニックみたいだね」と言う彼は爽やか


午後の日の光の浅瀬。日陰から薄着のおやじとぼとぼと入る


おばあさん髪のウェーブに少女の頃見つめた波が宿ってますね


桃色の傘にご婦人隠れており夫に付き添うバス停の椅子


草陰にお探しの鴨居ますよと言えないでいる池が眩しい


秋の日の照らすところで誰を待ち車椅子停めているのお爺さん


老いて愚かにテレビの話題でマウントか背中向けたく寒い板間へ


菓子盗ってへへへへへへとおじいさんそりゃ介護士は怒るのである


うつろな目きっと冥土がみえている会長口にスナック放った


 認知症


老人の過去偲ばれる幻覚のなかで誰かと話していると


年取るのはドン・キホーテと相席で飯を食う時間より気まずいぞ


ニューヨークに行ける行けるとおふざけにみんな言いあう裸で入ー浴ー


悪魔のような運命ついに切り落とせず君は代わりに命落とした


そうでしょう知らず知らずに傷だらけ休む間もなくあなたは生きた


肉親に先立たれていく行く末を怖れる瞳の色寂しくて


あんなにも憂鬱な目でTV観て顎杖ついてる父に息子は


 父を詠む


一膳の箸死んでいた午後曇り父の溜息から雲は生まれた


 父の日に詠む


父の足あちこち渡る日も夜も市を助けんと家支えむと


 母の日に詠む


母の手はなぜ疲れるか介護してそして介護して菓子食う幸せ


 父方の祖父を詠む


ひっそりと陰で溜め息する祖父を連れてゆきたい温泉がある


運転免許証あれば湯殿へ「疲れた」と陰で呟く祖父の白髪は


まさに家長の立場を守る祖父ながら皿洗いするタオルを畳む


 父方の祖母を詠む


首筋を動脈どくと脈を打ち眠りし祖母の齢に畏怖す


暇そうに洗濯バサミで遊びだす祖母の静かな午後はいいなあ


おばあちゃん女でいることどうだった女中であると自認するのは


 母方の祖父を詠む


祖父逝きて蹠を突く籾ひとつ米作継げよと告げたるごとく


 母方の祖母を詠む


歩行器の偉大な影が伸びている八十五年の生の夕暮れ


「友達とお喋りしてる」

たまにしか尋ねない孫は祖母にホッとする


   異性愛者の少数性詠


知らず知らず袖擦りあった素になれない誰かと素のまま育った私


生活費。老婆がガソリンスタンドで脚ひこずって給油するわけ


「これ借りて着けてもいいの?皺だらけよ」

ルッキズムの下

深い傷生まれ


目玉とは真珠だったと言っていた美しい人の声波に似て


奴隷船は地獄だったなと居酒屋で社畜は前世を偲んで呑んだ


汗をかく清掃員の母国語が伝わる仲間が隣に居るのだ


 院内麻雀


席を立ち卓の面々消えにけり寂しき終局雨に暮れむと















考える歌、思う歌



 意見



勇気を奮え、

ふんばれそうか、

惨めでも恥ずかしくても、目は開けてゆけ


無理をして、明るくなるな。自然光だけで優しい暗さの室内


帆を張らず海を渡れる船はない大きく胸を張るひとになれ



見返してやる、は虚しい。なぜわざわざ憎い相手に評価されたい


おそらくは僕ら本来の目的地あまりに地味で忘れられてる


笑ってもお人形なら本当の思い言っても嘘みたいだよ


鎮魂は激しい蝉の羽のように激情に身を委ねて泣くんだ


農耕は土の強奪 所有者の星は野草や虫と仲良し


人生は父の心と母の心ふたつがあって始まったのだ


一切れのバターのような楽しさが毎日あって喜ぶ私


飛び散ったバターのように仕事するときのやる気を漲らせている


星の数ほどの目的抱えても人には顔が一つしかない


檻なくてどこまでだって行ける海けれどかわり日没がある


人語では大地の肉体の美しさ永遠に言う事は叶わず


底のないコップに水を注ぐように徒労になるとも優しくあれよ


強姦の被害者のために暖炉のようになりたくなってなろうとしている我等


がんばろうという一言ありまして犯罪がある久方の世界


体面という概念にぶらんこで休みたくなる春の一日
















 喩え




言葉という一人に一羽の伝書鳩ひとりひとりの声守るのだ


人の世に扉ありけり死への扉に入らむとする者入れむとする者


大いなる雲へ困苦を打ち明けてこうもあっさり一笑に付され


月の口の大嘲笑が延々と鳴り響く夜の街よ狂気よ


鳥ついに雲超えられなかった愚かにも命果てるまで羽ばたきたかった


鳥ついに撃たれた蒼穹に逃れたい奴隷は亡骸埋めて祈った


曖昧な未来ほのめかす太陽よ私の影が壁にふたあつ


凶兆をほのめかすなかれ太陽よふたつに裂かれかけたる我が影



満天の星屑曰く「尊い火さえ暗黒の淵に閉ざされるのだ」


つっかえて言の葉という煎じ薬の苦い感情が喉に滴る


煎じ薬をぐびっと飲んだら苦すぎる。

知恵深い人が煎れた言の葉。


水底に真珠貝あり人の喉深くに必ず真珠の歌が


幸せは花びらのように空を飛ぶ小鳥の羽のように溢れるくらい


年月が海のようだと言いましたそして浜辺に僕等は居ます









 哲学



魂の母語は天上界の声聴きたいのなら詩集を開け


新しい概念一つ新型の飛行機に乗る思考の眼光る


鰭を得た魚のようだ文学の言葉を持ったひとの進みは


言葉にも心臓があって麗らかな炎のような力を持った


顔色という深窓の心情の灯が瞬いて人とは不思議


いつからか動植物は心でも朝日感じる古来の性かな



細胞の講義「わたしら血の色の複数の秩序動かすんだなぁ」


太陽を拝んで暑がり背向けてもまた見たい古今東西のヒト


反動か秒針ぶるんと震えたぞ神が一秒創った力に


牛乳を飲むように読む一冊の漫画から読む楽しい夢よ


古代から哀れな足というものよ静かに大地と口づけをする


一瞬の日没の美に驚いてふと腕時計取り出してみた


人間は翼がなくて青空が寂しい場所だと未だ知らない


白い雲飛んでいるから焦らない時計の二本の針の重なり
















   物語風の歌



 恋愛関係モノ


黒い髪嗅いで伴侶は掌の中に夜空の薫りを込めた


   宮廷モノ短歌 二首


この涙散らさぬために涙声隠しながらに橋を渡らねば



星々の噂する目に気づかれず抱き締めるため陰へと連れて


   怪盗モノ短歌 二首


怪盗がクラシックカーをそっと停めて三日月の海へ素足を浸す


月光に怪盗の素顔灌がれて一瞬汗も宝石となる


 童話モノ


うさちゃんは頬かむりして包丁で町の人斬り血に濡れました


   土着神話モノ


生け贄の霊をいまだに巻き締むる大蛇の神や山にいますと


海に来て「助さん格さんこらしめてやりなさい。あんなクラゲは」と言われたひとは


「さようなら」太陽も月も人間も見ないで星を去る宇宙人


「人生が楽しかったら化けてない」そう幽霊に言われた夜だ

 本歌 眼鏡猿栗鼠猿蜘蛛猿手長猿月の設計図を盗み出せ 穂村弘


眼鏡猿栗鼠猿蜘蛛猿手長猿そして秀吉と怪盗になれ





 新作









生き物の歌




枯葉の影のような寂しい形して蜘蛛ぶら下がるアンテナの今朝


 病院の夜


愛おしく明かりを食べている蛾たちカーテンは閉めず束ねたままに


憐れみが夜を支配す蚊潰せば虫けらという身の悲しさに


たかだか1グラムほどの蛾の重みだが振り払うとき皮膚にはっきり


どの蝶も可憐なあまり悲しくも人間よりも美しく見え


三年という短命憐れまざるを得ず楽しかったかハムスターの生


足の腱のストレッチしていてふと見やる床に全身動かす子蟻















情景の歌



晴空に単調な波繰り返す優しい飛沫をまた繰り返す


山の霧逃るるごとく月遠く漂う空の清らかな朝


 空港


旅客機に乗り慣れている声がして海の気配が薫り流れる


咲くもよし茂りて染まりて散るもよし木在りてこその寺の趣


一瞬の現象

真昼の一室に

燕の羽根の影映り去る


小惑星幾日幾月幾年と大宇宙を飛び呆然とする


さしだした手をひらめかしそよ風の細波起こせ空の湖


青空よ青い溶岩があるように雲間輝きながら流れ


一筋に釘を照らして煌めかす天井の夕陽タイルを反射して


曇り空青紫に暮れ終えてビルは玄関の明かりを残した


橋の影一個の輪郭としてあり金の波打つ茜の波打つ


強烈な陽に匹敵して月光の筋漏れている雲消えかかり


ざあああと夜に響く前「押し寄せます」と最初の雨は囁いたのです


唇かベゴニアの花一滴の雫を食べたそうに揺れると


人の世に河川敷ほど僕の眼に優しく広い景色はなくて


水晶の柱のごとく蛇口から滝が聳える泡立てた手に


常夜灯が灯れば目閉じよ

物どれも

憂鬱な影

悲しい光


空席に退院者居たことを知る閉鎖病棟すこし静かに


火葬場よ遺体の奥の霊魂の悶えを燃やすことは辛いか


喰うという太古の言葉浮かんで消えず夕餉が呼んだ蝙蝠がいる


   野呂山 「弘法寺」で


海までも届く片眼のナイフなら景色の靄を破って遠景へ


   野呂山 「星降る展望台」で


看板が川尻町の花と言うつつじは丁度見頃か野呂山


   東広島市中央図書館


滑らかな低木巡る崖の下凹凸を成す古墳とその空


   鏡山公園


公園の灌木のフィルムが影落とす太陽映写機回され始めて


   仁賀ダム


「窓ちかき竹の葉すさぶ…」という詩情、笹の葉寂しきダムの夕風


※新古今和歌集 256   

窓ちかき竹の葉すさぶ風の音にいとど短きうたたねの夢(式子内親王)


   広島空港


青々と垣根連なる山の車道 開けた丘の杜鵑花が綺麗


   仏通寺


庭園に葉の鐘揺れて三つ四つ砂紋生まれる寺の樹の下


金継ぎの想はこれより得られたか亀裂に苔のむして味ある


   道の駅みはら神明の里


「見晴らしのいいところ三原市のいいところ」

ところで駄洒落のいいところとは


   糸崎神社


左へ右へ神社を鳩ら旋回し海から続く古い参道


 尾道


都会然と闊歩している観光客

尾道渋いところが映える


   台湾料理 福祥閣


台湾料理屋で案内された奥そこの異国の女性ら嫌そうな顏する


夕暮の梢ぶるると暴れだす滅亡の色露わな国で


涙あれど硝子のような青空を吸う音がして美しい日になる


星光る一つ一つが街灯のように悲しく切ない音で


貝殻を撫でると波の美しい白い飛沫が見えるのである


浜に居て寂しい流木掴んだら肩に夕月の静かさ感じて


海に来て命の短さ告げている鷗の目見て涙を散らす


本一つ朝焼けのなかの机からゆっくり離れて開かれにけり


本の音朝焼けのなかの机にて一度鳴りたることの寂しさ


星の眠る大河を渡る船上で歌を歌うとまた波起きる


鳴き声が動物園の柵のなかで響いたときに朝の寒さが


深海の蟹が隠した難破船その夢から泡が昇った


犬になり枯れ葉の上で踊ろうか神にとっては子犬のぼくら


語学してこころで冬を見てみたい美しい単語は白い雪です


沈黙を打ち消すように鼻かんだそして秋風茸を撫でた


青空が静かなことを喜んで温泉浸かる温泉を出る


ペン一本その気になれば紙の上地獄の炎起こせるだろうに


美しい花買ってきて瓶に活けて絵画のような部屋にしたいな


ふと起きれば鳥のように思い出が飛び立とうとする病院の朝


窓の月煌煌と灯る猫の目が常に孤独であることのように


珈琲に雲を浮かべるようにしてミルクを注ぐ朝が来ました


携帯が喋りだしたらいいのにと悲しい願い持つ秋の空


野良犬のように木高く伸びている雲の噂を楽しむために


運命が静かに消えて夜が明ける窓の爽やかな美しさです


朝が来て私はどこに帰ろうか実は夜空の星の一つで












物品の歌




   道の駅よがんす白竜


銀匙に1、2、3、4、5、6枚シャンデリアの花びらを数えた


 包帯を詠む


血や膿に汚されながら人間を傷ごと包む布のやさしさ


 放っておかれてあるショベルカーを詠む


鋼鉄製の腕は曲がったままである岩屑積んでなお平然と


鉛筆が寂しい形していると拾って呟く男の背中


鉛筆の音が哀れに思えても鉛筆削りはまた回るのだ


風という読者が触れる一冊の美しい本青い海原


青空の額縁である窓ガラス透明なまま老いるということ


石触れる大地の歴史は文字でなくこうした石の静けさにある


美しい海神の足ゆっくりと進みはじめるように氷山



















   季節の歌



 春季



青海苔が散って芽吹いた草のよう

テーブル

春の乾いた土だ


蒲団から脛でふわりとティッシュ押し温風に乗り戻って来る春


 本歌 秋来ぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞおどろかれぬる 藤原敏行


春来ぬと目にもさやかに判りけり温かそうなる夕映えの雨


春来たと目こそ驚く夕暮れの柔らかい雨すべて澄んでいる


   春 三月二十四日


ラッパ鳴る夕べ

東風吹く頃にとうふーと鳴らす豆腐売り来る


   ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド内のカカリコ村に立ち寄る。いつも梅が花開いているため


この春は梅見る機会なかったから

リンクの身体でカカリコ村だ


急激に桜と梅が輝き始める田舎の空をぐんぐんと朝日


「さくら」とは人語であるしと用いない幹の皮撫でて桜を愛す


 似た話が蟲師にあるけどたまたまかなあ


悲しい朝桜の幹に口づけるこの汁啜れば花になれると


春なのに日の射している部屋青く恐怖の檻に僕の心臓


ごうごう吹く風なにごとの前兆か春暁をゆく雲の大きさ


凝視した樹樹の影までしっとりと濡らした春の暁の露を


春といえば荒ぶる風だと散歩する川浪騒ぐ橋を吹かれて


剪定の鋏チャキチャキ風にこそ麗らかな春感じる真昼だ


水色の靄に紫陽花ある窓に休む不思議な春の夢だよ


真っ黒のスマホの液晶の底流れる青春の空そして白雲


用水路溢れるばかりに水輝くと右目感じるもまだ春浅い


後部座席でたこ焼きパック支えつつ海岸線の春も感じる


うらびれた春の日本の片田舎。車の額ひたいは夕陽に黄色く


青空を愛してみれば建物に春の風呼べて暖かい季節


春になり花の争いに野の花と花壇の花が加わりました


連絡を待っているように道沿いの桜が散るのを見ている涙して












 夏季

願わくは山河を去らずこの夏の清々しき日より永久に出ぬこと


戸を引いて祖父祖母の寝顔窺えば梅雨の早朝の闇の深さよ


   ジャングルポケット斉藤慎二の被害


記事を読み虐め凄まじく雨音も凄惨に冴えゆく梅雨の昼


紫陽花や滝や緋鯉を思い描く庭園歩いた足拭う夜に


扇風機、筵をいじり胡座かく淋しい居間の片隅の風。


洗面台の鏡に胸の汗きらりづらり絢爛な飾りのように


籐椅子ででっぷっと休めばなんとなし深く深ーく沈みゆく心


太ももにタオルの質量載せたらば夏の太陽想って汗ばむ


畳まれたタオルへ陽射し挿さっていて青空を恋い指で引き抜いた


暑い部屋。紺シャツ脱げば池に棲む小魚ほどに汗の影あり


汗臭い薄着脱いだら爽やかな人生観が風と来ました


炭石鹸河原の石のように濡れてすべすべ光る夏の夕暮れ


造花の向日葵憐れむ踊り場で次の夏までずっと咲き続け


ほとばしる果肉の汁で腹一杯西瓜の甘さに幸福な口


飲料を比較するならやや味の濃い麦茶より緑茶軽やか


背表紙の金色の名が幽玄に光る夏だ。本棚暗く


裏庭のトタンの屋根にパララララ揚花火でなく夏の雨音


幾年の夏日にシートの縞模様褪せたか祖父母の家のベランダ


もう何軒も歩いて観て来た垣根に庭に凌霄花の開く家々


しつこいな暑っついなかで草刈り機が牛鳴くみたいにぶもおーと動く


テレビ台にぷっくりと盛る結露の環。猛暑一杯の水飲み干した


お好み焼きを初めてヘラで食べる夏暖簾の玄関から涼しさが


開閉するガラスの自動ドアあって数秒蝉の声漏れてくる


あの熱い看護師そっくりの声してた店員が一人真夏のコンビニ


木洩れ日の帽子優しく被せられ食堂を出た車一台


若葉の木懐かしくってサンドイッチ買う日曜の空の涼しさ


若葉には穏やかに陽が射していて公園の上のアパート静か


ぎっしりと天に青葉を茂らせてまるで日輪掴んでいる手だ


川水に白鷺の脚透けていて底に敷かれた砂利黒々と


左手の甲を返せば翔んでゆく小蝿。車窓に初夏の雲あり


ああ息を呑む夕暮れの雲、雲、雲。青葉の山の後景として


空すべて晴れてくるころ青嶺から樹間を縫って匂う夏風


連絡船遠い島まで夏雲も次第に山の端を離れてく


五月晴れ青葉が若葉の笑みを見て一篇の詩のように光った


五月晴れどこか滝めく流水に爽やかな野菜濡れて美しい


夏が来た木の季節には晩夏という力が漲る時刻があったぞ










 秋季



藍色の布団はぐって朝顔は花の瞼をやんわり開けた


歯ブラシを傾げて今朝の蜩の悲しさに祈る真白のコップ


霊を脳をふるふる揺らし幽世の振動数で蜩は唱う


初秋の風欲しつつ八月の昼寝は涼夜を飛ぶ夢という


秋着いて鴉鳴くことに涼んでいた夏の夜明けは失われた


   旬の秋


窓の風葡萄かぷりと祖父噛んでスマホ切るほど芳醇な香り


秋晴れの汗拭うとき素晴らしく柔らかな風に思考止まった


千匹の鈴虫りーんと震わせて田舎の夜道走る自動車


黄葉は山を覆って絶え間なく木漏れ日光り流す車に


   本歌 花の色は移りにけりないたずらにわが身世にふるながめせしまに


山の色の移りけりぬようやくに退院せぬ間なれど秋の初風


晩秋の花びらなのか円卓の周りに咲いた日溜まりの椅子


凄まじく冷えた鉄戸に掌は夕さえ暖かき残暑を回顧す


秋を生きる獣の額の空のように深くて静かな私のポケット









 冬季



 一度HelloTalkに投稿した旨記す


空は眼を悲しますのだ枯れた世界に綺麗な雪を降らせることで


五分刈りの頭の冷える庭の朝天より雪は舞わぬといえど


雪一片舞い落ちはじめたかと思い玄関を出て車乗る朝


雲ならば日浴ぶることは美しけれど山茶花照れば花の数知れず


給湯器哀れに呻いたこの霜夜に檻の子象が泣くようだった


幸せなストーブの熱ぬくぬくと血管たどりハートに届く


黄昏の枯荻ちょっと引っこ抜いて眩い光振り落とせるか


銀翼の灯火が動き凍星が動いたみたいでぐらつく視界


凍風に堪らずロッジに急ぎ入る顔も何かで覆えないのか


金の綾なす黄昏の中冬めいて青白く点く蛍光灯ら


暖かく暮らせたる日を数ふべし家賃を支払う親よ冬果つ


冬の月声まで冷えて温泉のある山の方へ行こうと告げる


寒空を紙飛行機の翼ゆくエンジンのない寒い翼が


生命の数を数える神様は冬の木のようにぽつんと立っている











 年末



夕空ののっぽの煙突

あんなふうに虚しい息する年は暮れていく












 


自身の歌



 ほんまはそんないい香じゃないっす


我が心生きる喜び悲しみを深めて美酒のごと香り初む


ぽつぽつと星の綺麗な夜明けだな木星摘まんで舌にコロロと


カーテンが開いた途端日の光ぱぁっと入る大部屋の朝


日盛りに子供が茶碗鳴らす音かと聞いていた大工のトンカチ


 精神科病院 中庭で


秋晴の葉擦れを聞いて立っていた「生きるとしたらこの音のため」


ため息で蛍光灯の蜘蛛の網ふううと揺らす埃が落ちる


朝焼の炎を前に消えてゆく辛さ不眠の夜を耐えきり


曙の果てに枕を抱きしめて壁の窪みをじっと眺め


悲しみに欄干凭りて俯けば白き花咲く廃屋を見ゆ


夕焼に耽る心を虚ろにしたものは沈んだ夕日であった


夜の帳まだ下りてない入門書閉じて薄暮の赤い廊下へ


夜の闇に寂しい部屋です一台のスマホが僕を慰めるだけです


 中国新聞社に投稿 二千二十二年二月二十八日掲載される


清浄な月光注ぐ肉体を光の絹のようにほどこう


豊穣な月の詩よりも陸橋の悲しきライトにこそ物思い


白泡の溢れる渚のような裸体だ髪を洗いながしていれば


破れ傘冷たい雨だ星のような悲痛感じてふと立ち止まるも


 久しく笑わずに生きて


大笑い突然重い門開くごと心に風が通った私よ


楽しげな声が響いてくることよ苦しいほどに寂しくなるよ


傘もなく激しい雨をゆくひとよ心象という真実の我


淋しさに心の笛が鳴りだして不意に胸打つ哀しい歌よ


包み紙寂しい音して孤独な心射られたように痛んだ雨夜


顎髭を剃りつつ思ゆこの日頃なに以て我の身は安まらむ


あの人に再会したい馬が合う楽しさ脚に宿してゆこう


この胸はすごく傷つきやすくてさ他人行儀さえ悲しい。友よ…


崖落ちる未来見るとき詞の繭に僕を静かに包むイヤホン


隣室の父には聴こえないAVの音も息子の慟哭の声も


嬉しいよ友情持てるのオンラインゲームなんだよと笑っちゃうけど


彼は知らないI feel your painの一言どれだけ衝撃だったか


今僕にラインをくれてありがとう長い孤独で病んでいたんだ


恥ずかしいはなしわたしは尊大で醜い野郎ただ雲を見る


思慮深くなって子供の無邪気さや無謀さ失う哀しみがある


二十二歳少年みたく無垢なまま中年みたくくたくたで寝る


爽やかで妬み知らずな雰囲気で、ああ美しい心だなあと


なんて差かチビダサメガネセーターとオシャレスタイル抜群陽キャ


精神病治り病棟でいまさらな十三歳のハローワークを開く


冷えながら残る炬燵の温もりに親頼りの生き方問う夜


発達障害は世で角を立て流されて窮屈味わうことは頻繁


煩悩の海をぷかぷかぷかぷかとクラゲの私流されている


明日までの予定どころかとりあえずなにをするかも決めたくない脳


   集中力 二首


額に血ながしながして教科書を離れては戻り壁に頭打つ


向き合って優に二時間経ったろう興味の火なく教科書読めず


   聴覚過敏


イヤーマフは義手の仲間だこの脳を苛む音を防ぐ掌



浮かばれぬ一生らしい

残量が六十年分

なにすりゃいいの


嫌な夢脳は根性論信じ不快慣れさせてやりたいらしい


人らしい愛の僅かな生涯を皮肉で終える僕はおかしい


はじめから尊厳なくて野ざらしの赤ん坊のように砂まみれ

尊厳失う人生がある


野ざらしの屍体の皮膚が裂けること私が生きていくということ


眼球はずたずたに切り刻まれてなお青空の陽を見たがった


苦しさが心臓噛み付く時過ごす凄い悲鳴が轟いていた


穴開いたバケツが水を漏らすように割れた心は幸せ汲めず


砂嵐みたいなトラウマ忘れられず罵詈雑言の砂礫と生きる


小説も漫画もなにも救わない世が憂鬱な劇と成り果て


不条理に激昂したさに親友が惨殺される夢作る脳よ


家に閉じ籠もる鬱憤

外出で

あっさり無くなる虚しさ分かる?

 

口が吐きつづけた辛い現実よ菓子や飴玉しか食べられず


ありのまま言われて欠点暴かれた錯覚覚える幼稚な私


悪びれば恥を恥じずにいられるから正気に返すのはやめてくれ


饒舌になれる自酔というお酒控えてるので無言な白面


賛同を浴びたかった裏返し反応なくて失言疑う


ひとりでに喋り始めた見栄哀れ、心虚ろな当人の内


同類の私の目には誤魔化せないこの爺さんは虚勢張ってる


流れ星ひとつ光って「殺してよ!」と叫びためらう悲哀の子供


流れ星へ「殺してくれ!」と叫ぼうとした少年がいま大人になって



憂さ晴らししたいさ

棘が生えた道

しかないのなら!しかないのなら!


己への嫌悪と落胆噴きだした皮膚青ざめてシャワー熱くす



花毟りつくしてやるぞ生きられず遂に復讐のみが残れば


「暴力を肯定すると…」

「(反論)」

「うるさいな!どうせ君らは敵じゃないか」


穏やかな山のふりしていたけれど噴火で怒りが爆発したぞ


意志なんて危いものだ力みすぎて床を踏み割る結果になるし


世渡りは薄氷を踏む恐ろしさピキピキ鳴れば怖がりの我は


ひとりきり言葉は壁に染みこんだ部屋は寂しい匂いに満ちる


『服買いにゆく最初の服がない』

だから裸だこの電話帳


死んだとて清掃員が困るだけだ

ただ図書館の本が残るな


とんでもない爆弾で世を吹き飛ばし俳優去るように死んでみたいね


モルモットに注射針刺す無慈悲さで己診ている注視している


栗鼠よ俺をこつこつ木で割れよ殻が重くて息詰まる


しなやかでなくなる背筋顔という真っ黒な花ゆらと垂れてる


 人間関係失敗の歌


馬鈴薯を丹念に磨いていたつもりパカッと割ってしまうまでは


熊が出て落葉踏むだけの山深く私のように孤独な茸


悲しみに凍える枯木となりながらただ冬の日の温もりと居る


風なので人の心を揺らせます野花のように風車のように


また風が心に吹いた草原を鳥が静かに飛ぶようにして


僕たちは太陽と月に年齢を数えられてて風みたいだね


片付けた布団で寂しいことながらまた寝たくなるまた寝たくなる


鍵開けて倉庫の扉開くように辞書を開いた辞書を畳んだ


ドラえもんの一話のように一日が終わってしまうあっけなさです


年取って私の見える道の数いよいよ一つになってしまった


失敗をしても朝日が昇るのです生きようとする実際生きてる


木を裂いた稲妻のような僕の詩が世界の山を砕くのを待つ












感想の歌



 ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド 二首


   「なにっ」


小賢しく火薬樽からバクダンを矢で遠ざけた白銀ボコブリン


   「自滅」


雷雨なのにハイリア大橋のイーガ団幹部は刀構えて落雷


 SKY 星を紡ぐ子どもたち 三首


   他プレイヤー


星の子はめいめい想定外の遊び方オレオにふたり同時乗りとか


※オレオは仔犬の名前


   深夜のゲームプレイ

日の光輝く雲の上ずっと飛んで充血しないか星の子


   今日、紙ふぶきエモートと拍手エモートを頻繁に見かけた


楽園の季節前日あちこちで紙吹雪を散らす星の子達は喝采


 「空から降る一億の星」のサウンドトラック


我が脊髄の青褪めようよ旋律の凍えるような美しさには

















悲鳴と笑いと事務手続き



 東京の景観や国道の風景が安っぽくなる話を聞いて


大空は胸糞悪くなりながら樹木の死見る陽射しの義務あり


街並みを壊す工事を憐れんで自由な空は雨を流した


刑務所は貧しい人が行くべきか

おい権力者

君等が入れ


法律よ利権の腹を政治家の顔も合わせて引き裂けばいい


   アメリカとイラン間の緊張 二千二十年一月七日 後記、幸い、事起こらず


第三次世界大戦の噂聞き「交流戦」の戦の字こわし


   パンデミック始まる 二千二十年二月二十五日


生の価値軽い日本休ませない習慣コロナを流行らせたのだ


補償なく老舗の閉店することを美談に変えるニュース恐ろしい


放射性物質が危険なはずはない日本製は安全なんだ


原子炉で国は正気を売り飛ばしメルトダウンで脳も溶けたか


暴走の通過地点に太平洋汚染を決める日がありました


日の丸はいつでも旭日旗に戻る民主も軍事もお上次第さ


「過ちを認めます」だと言い難く卑怯な碑立ててなにも誓わず


中韓を笑い者にする品性にTV消しても不愉快残り


どうですか調子は今日も俯いて変わらぬ世界に飽き飽きですか


つまらねー癖にそもそも辛すぎよほっとできるんは泣いてる時だ


スーパーの少量だけの惣菜が「賑やか」「ぜいたく」と書かれる怖さ


食事して罪の意識に

行かないと!いま飢餓死する人のとこまで!


 コンビニ


キレていた若ママ精一杯なんだ駄菓子を棚に戻した子の顔


 とある店で 発達障害者のことを話す店主と客


当事者が黙って耳を澄ませてるマイノリティーの話題が出ると


絶望だ向精神薬飲みながら向精神薬買う金稼がねば


ぷちぷちと顔色一つ変えぬまま弱者を轢いて社会止まらず


わが厚き顔にしみこむ涙ぞな路に死ぬるは同じ人なり


少女首吊りで死体になって牢の戸は開く示談金で終える院長


人でなし看護服着て鍵閉める出れぬ気狂いこそ人間だ


金儲け四角く冷えた法律の鉄の箱へと病者押し込め


保護室に祭日喜ぶひとがいた痛々しい文字にまた泣く私


入院者まず闘うは退院が己の自由でない絶望と


ずっと這い出せないここを蟻地獄と喩える精神科病院の患者


精神科病院は窓ガラガラとこころと違い開くのである


「誰に向かって」「誰のお陰で」身分制であること示す証拠の言葉


売れ行きに時代の姿よ「資産の増やしかた」や「ストレス解消」に「高齢」「反日」


不意にずれ落ちる書類の山ほどに洪水災害の予告のなさよ


夜は深く濃く星がないなみなみと幸福満ちる日なんて夢さ


実在が危ぶまれると新聞が正義のことを黒塗りにした


ハンバーガーのように人気になっている芸能人が居て寂しさよ

役人は珈琲ばかり飲むせいで国民は苦い現実のなか

未成年もう女だという社会そしてJKという単語は


雲や樹や星と同じの人間をポテチのように買わないでくれ






















和歌実験室



 物名歌


   安芸に厳島


紅葉狩り観光の秋に慈しまなければならぬ鹿の自由よ


 折句


   くさだんご


喰え喰えと笹の葉っぱが抱きしめるんーと旨い蓙の菓子出す


   スパイラル


スリに遭いパックリ口開くインドの商人乱闘に押されルビーも消えた


 狂歌


 本歌 春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山


昼過ぎて店閉まるらしいうろたえの「ここもよす」というなんと適当


   朝食 「目玉焼き」


曙だ半熟太陽と白身の海に胡椒の霞みとお皿の模様


 前衛


鉄球のように一日冷たくて手足が縄のように固いのだ


川の上一回吹いた風に似てどこにでも行く子どもの自由










生活臭の短歌



焼海苔とご飯と味噌汁、生卵。そして朝日と海の景色と


炒めようとした牛コマのトレーから気まずい風に羽虫一匹


ひき肉を炒める横で祖母が剥き食べるバナナの香りが甘い!


ぷるぷると海水が保つ牡蠣の実りじゅわじゅわじゅわと焼けて縮んだ


一杯のご飯にかけられ丼になるかカレーライスのルーが


梅干しが唐揚げの脂爽やかに変えて唇開くのである


味噌汁の椀がスススーと動く現象、あれゴキブリの怨霊と見たね


渡された鳥皮たれの串一本、

ありがたく喰う空腹の夜。


7日も期限過ぎてもヨーグルトは白い爽やかだなぁ爽やかだなぁ


人参とシイタケくらい外しても多彩な料理が補う栄養


ザクリザクリ浜辺掘るようにコーヒー豆。香りの波に小袋沈む


鳥の首締める感触のようであるペットボトルの水を注いだ


コンビニは朝ごはん買う所ですサンドイッチは優しい味です


白米の輝き増してぱくぱくと焼肉の香りのなか箸動く


 ダイエット


プチシューが涙出るほど美味しくてダイエット止めないけどもう一個


生ゴミの袋覗けばどなたかの胃袋開けてしまったみたいです


近寄ると食器乾燥機のお玉にこっちを見てる逆さの己


流し場の道具多くてふいふいと鶏みたく頭を振った


足をぴらりぴらり絆創膏剥げるなにを拒んで水虫が嫌か


車の後ろのナンバープレート跡、変だ。眼鏡外した人の目か


二人目の入浴者来る温度計のアヒルのぼせているだろうにな


あぁ神様、私の体、二十歳から背を伸ばせますか…

(神様)「寝言を言うな」


空腹でペコンと潰れて胃袋の酸湧いてくる昼食遠く


腹減ったこのまま寝たら胃が窪んでさ肉体無くなってないか翌朝


パーカーの紐が髪からぽとと落ち「ムカデじゃないな…」と安心する起床


細菌に分解されて土に還れ空へ弾いた指の鼻くそ


左足の靴下が滲んでたって小便だとは誰も気づきゃあしねえんだアハハ


人込みに寒い風吹き樹と尿意

朝の図書館待つばかりである


牧水歌集の栞にしていた紙ナプキン清潔そのものの匂いしていた


突風は悪戯なのか本の頁をぱんっとめくった戸惑うしかない


プラグ挿せば復活果たせりとスマートフォンのホーム画面の青楓鮮やか


本編を楽しむよりも予告編楽しむほうがワクワクがある


短いか長いか三分という時間ピチピチお肌に生き返った麺


どのペットボトルも衣装を着せられてゴミ箱で並ぶ哀しい踊り子




最近の歌

星よりも鮮やかな花というものよ地上の草木数え切れなく


窓ガラス拭いても今日は雲ばかりでも青空が見える時あり


表向き日本人らしく真面目です議員とニュースキャスターの顔


アメリカ人日本人がなんだかんだ愛しあったので黒人俳優


珈琲がいつにもまして苦いとき政治批判を久しぶりに聞く


縄となり互いの口を塞ごうとする人ばかりの悲しい日本


親と先生ルールの尊さばかり言う自由は悪だと教えるために


神代から空の姿は熊めいて野蛮なほどに美しいのだ


未来から骨折をして逃げてきた希望が休むホテルはどこだ


雑用で糞尿捨てるたくさんの補助看護師はトイレ行きたい


父さんは単にファイナルファンタジーそしてゼルダの伝説をくれて


江戸っ子になりたい初夏の空であるそして原爆の日はそろそろか


群衆の手足潰して純潔を硝子のように綺麗にしよう


この靴は君に会うためにあるのですそして会ったら脱いでしまうよ


蛍光灯が太陽であり天井が青空である入院すると


閑さや岩にしみ入ることのない社会の正義と愛の存在


球のように人間入る墓穴の蕾は一度天国で咲く


牛の尾が崖が崩れる谷底の川に千本並んでいたよ


哲学科教授の朝は昼よりも夜よりも後の明日に産まれる


神様はそして社会は誰のものそう私達健常者のもの


幻よルフィとエレンとドラえもんとウテナとセーラームーンは居ない


竹の音幽霊が出る谷の奥進めば空の雲から聞こえて


人という生き物は言う傷なんていつか治るから苦しめてやれ


汚れてる人の世にいて夕焼けの雲を嫌いになれるわけなく


苦しむと分かっていたのに競争に従うことにしてしまったよ


人体の大量の管どろどろと血を歌うのだ糞を鳴らすのだ


万物は橋でしかない下くぐる栄枯盛衰の水は涸れない


スーパーでふと思ったよ人権がいずれは野菜の隣に来ると


ゴミ箱のゴミが幸せそうなのはゴミより汚い社会だからか


人権が有料化する前に死ぬこと勧められそうな夕暮れ


障害者施設で優しく世話されるそうダンボール箱運ぶみたいに


火になればくだらないゴミじみたものたとえば過去は燃やせるだろうか


目をつむりアニメの女の子と絡むのが二十四歳の布団の悲しさ


午後という言葉はどこかほろ苦いカフェオレのように川浪のように


腐ってる人間ですが発酵に成功したので美味しいですよ


人間は原爆使って何壊す神様の愛か人類の美か


停戦か他の武器しか武器止めることはできないなら原爆は


雨や雪人の立場で変わるのだ詩人か農家か会社員かで


人間は歩けばよくて山の木は生い茂ればいい存在の意味


静かですグラスの水に夕暮れを沈めた風の右手を追って


夜の椅子誰もいなくて語り手のような一冊の詩集を置いた


消灯後廊下は常に木の如き静けさならむ人の目なくて


戦争を思うとき死ぬ人々に見える木の葉のおびただしさよ


ため息がじゃがいもみたいに煮られてる世の錦鯉みたいな金持ち


日本兵こっちに来るなと言っているそうだよ銃剣よりペンが良い


僕の目は雲じゃないので人間が何創るのか知らないのです


僕の目は石じゃないので人間が何壊したか分からないのです


そこだけが電気が消えて生活を忘れていられる静けさがあり


火の中の木々の欠片がするようにめらめら燃えてくしゃみしました


波という魚臭くて悲しげな海の器の飾りは動く


どうしてか明日になればまた明日を待つというのはとんちか何か


さっきから誰かの舌になっているような憂鬱布団を被る


コカコーラとして駅にはコカコーラいくつ転がるああコカコーラ


ここはもう深海ですと地上にて天国に住む天使は呟く


来世にも弁当があると思います梅干し一つおかずが少し


よだれですたらりたららんたらららん寿司によだれがたらららららん


病院の廊下は野原でないけれどしばらく散歩しているのだが


重いもの持ってるような顔をしてただコップ持つそれだけですよ


寂しさを減らせるわけはないけれどまだ俯いて歩くしかなく

本歌 在原業平朝臣 ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川からくれなゐに 水くくるとは 良暹法師 寂しさに宿を立ち出でて眺むればいづこも同じ秋の夕暮れ 中納言家持 かささぎの渡せる橋におく霜の白きを見れば夜ぞ更けにける


ちはやぶる神代も聞かず寂しさに宿立ちいでて夜ふけるとは


 本歌 小野小町 花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに 額田王 あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る 良暹法師 寂しさに宿を立ち出でて眺むればいづこも同じ秋の夕暮れ


空の色移りにけりな野に行きて野守は見ずや夜明けの寂しさ


 本歌 皇太后宮大夫俊成 世の中よ道こそなけれ思ひ入る山の奥にも鹿ぞ鳴くなる 良暹法師 寂しさに宿を立ち出でて眺むればいづこも同じ秋の夕暮れ  小野小町 花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに


世の中は寂しくて宿立ち出れば鹿ぞ鳴くなるながめせしまに


 本歌 久堅のひかりのどけき春の日にしず心なく花のちるらむ 紀友則 秋の田のかりほの庵のとまをあらみわがころもでは露にぬれつつ 天智天皇 心あてにおらばやおらむ初霜のおきまどはせるしらぎくの花 凡河内躬恒


久堅の秋の田のひかりの長閑さよ露にぬれつつ初霜の白菊


 本句 枯枝に烏のとまりたるや秋の暮 松尾芭蕉 


 本歌 久堅のひかりのどけき春の日にしず心なく花のちるらむ 紀友則


枯枝の花のちるらむ幻の烏が静心なく春の日に


 本句 さみだれや大河の前に家二軒 与謝蕪村 菜の花や月は東に日は西に 与謝蕪村


菜の花と大河の前に家十軒さみだれのなか月来て日沈む


 本歌 柔肌の熱き血潮に触れもみで寂しからずや道を説く君 与謝野晶子


 本句 夏河を越すうれしさよ手に草履 与謝蕪村


草履寂しからずや夏河越えて昨日の柔肌想えとうれしく語る


 本歌 あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る 額田王 久堅のひかりのどけき春の日にしず心なく花のちるらむ 紀友則 秋風にたなびく雲のたえまよりもれいずる月のかげのさやけさ 左京大夫顕輔


君の振る袖のたえまよりもれいずる久堅の月のかげのさやけさ


 本歌 人もをし人もうらめしあぢきなく世を思ふゆゑに物思ふ身は 後鳥羽院 きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝む 後京極摂政前太政大臣 荒波や佐渡によこたう天の川 松尾芭蕉


あじきなく世を思うゆえさ筵にひとりかもねん荒波の天の川


 本歌 意志表示せまり声なきこえを背にただ掌のなかにマッチ擦るのみ 岸上大作 マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや 寺山修司


 本句 荒波や佐渡によこたう天の川


荒波の日本によこたう問題に身捨つるほどの意志表示かな


 本歌 奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ秋は悲しき 猿丸大夫 月みればちぢにものこそ悲しけれわが身一つの秋にはあらねど 大江千里 思ひわびさても命はあるものを憂きにたへぬは涙なりけり 道因法師


鹿の声さても命はあるものを月みれば憂きに耐えぬ涙は


 本歌 ぼくも非正規きみも非正規秋が来て牛丼屋にて牛丼食べる 萩原慎一郎


サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい 穂村弘


サバンナの象のうんこよサラリーマン非正規がんばれと叫んでいたよ


 本歌 ぼくも非正規きみも非正規秋が来て牛丼屋にて牛丼食べる 萩原慎一郎


牛丼を食べようみんな世界中の健常者たち障害者たち


 本歌 ぼくも非正規きみも非正規秋が来て牛丼屋にて牛丼食べる 萩原慎一郎


草を見て花びらを見て非正規のみんなみたいに頑張ろう少数派


 本歌 めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間に雲がくれにし夜半の月かな 紫式部


めぐり逢いて月の兎と分かぬまに二匹雲隠れする夜半の月影


 本歌 春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ 周防内侍


 人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける 藤原定家


 いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな 伊勢大輔


故郷はむかしの春の夢の香りばかりなりけりいにしえの奈良


 本歌 もろともにあはれと思へ山桜花よりほかに知る人もなし 前大僧正行尊


諸共にうれしく思え尾道の猫知る人は世界に多く


穏やかな陽射しのなかでわたしとは誰かと問えば春の山らしい

コーヒーで粉薬を飲むようにして悲しみに溶かす寂しさの色

何も無い箱が物言うと寂しさが硝子のように鋭く刺さり

人間は小さくていいのかもしれぬ雲の大きさ世界の広さ

また老いてわかめのように泣いている私の背中よ鏡に立つな

美しい青色を見る目の病なのだろうかと疑うよ空

立ち去って病室に着き振り向けば廊下明るく人の声して

静かさを踏み固めながら歩むとき吾が足音は神に近づく

生きている最後の息を吐くときに夕日のような目をしたいから

掛け布団という蓋して一晩の夢に逃げるよ寂しいだけさ

これ以上人間の目を見たくないそう思ったとき空は美しい

残酷にならないでくれと叫ぶとき私の口にも歯は生えていて

亡き人の指に触れたと思えます言葉を読めば肌の柔さが

嫌われて悲しみを知るためなのか滑車のように心臓動く

天井が千切られたとき床と椅子と机は獣に還ったという

障害者向けの雑誌の名憶えて夏の青空ますます青い

酢の物が雷落とす昼食です眉毛の角度が驚いている

すり寄って拝むみたいなことだろう政治家にさん付けるというのは

不死鳥の毛を琴線にしたならば曲の調べも不死となるか

ちゃんとした声出せるから人間のなかで歌手の手真っ直ぐ伸びる

鉄製品擦れて鳴ったときである本の背表紙曲げた瞬間

祈る手をほどかなければ未だ見ぬ明日の友人の肩を叩けず

差し出すと当たり前のように片腕が消える光の雲美しい

なにもない心の中で寂しさが赤い花咲くように囁く

一脚の椅子空いているこの世には休めず働く人が居るのに

夕焼けの寂しい山に消えてった一羽の燕のようになりたい

泣くひとがこの世にいるとすこしずつ世界が冷えてゆくのではないか

がんばったところを見ていた天井は誇らしそうに電気光らせる

抜け殻を地上に捨てて飛ぶ蝉のように魂だけになりたい

鳥が来て木の枝揺れるごとくにて孤独の指が私を揺らす

人間はあらゆるものに似るらしい人生の例えにならぬものなく

故郷に帰ったような心地して電灯見ている夏の夕暮れ

静けさが治める森の奥に行き自分の顔を埋めたいのです

傲慢な天界崩れよ立つことは空の生贄となることならば

ビルの影のなか憂鬱な青空に悩めるわたしの姿がぽつん

夕食を食うおばさんのたくましさこの世を憂う吾を励ます



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