涙があふれるままに

幼い頃のつらい記憶は
なかなか消えない。

どころか
悪い思い出ばかりが抽出され
ただ苦くて美味しくないコーヒーみたいに
後味は最悪だ。


家族との確執や
自身の育ちの悪さからくる
自信の無さ。

いつも隣の学習机に座る
あの子やあいつと比べては

妬み 嫉む。

それにも疲れると
狭くてホコリ臭い四畳半にひきこもった。



『たつや元気にしてるかね?』

持病の悪化により距離を置いていた母からの電話

20分ほどの通話のなかで
筋道の通らない話題になることはなかったし
妄想や興奮状態になることもなかったので
安心した。

きっと処方されている薬の相性がいいんだろう。

昔話に花が咲く。


母が落ち着いて暮らせるようになるまで
長く時間がかかりすぎた。

僕たち3人兄弟がしっかりしていれば
は母にもっと時間を割けたし
父に経済的負担と母との生活の中での
精神的負担も減らしてあげることも
出来た筈だ。


涙がふいにあふれて流れ出た。

車窓から見える景色は雪景色から

コンクリートと無機質なガラスが織りなす
違う冷たさの風景となる。


「雨降って地固まる」


一体、青鼻をたらしていたあの頃から
何リットルの涙を流したのか分からない。

いつでも涙があふれるのは
自身の体験と記憶が原因だった。

社会での様々な出来事など
手に取るようなほど大層なものでなくて

チリが頬をかすめた程度にしか感じなかった。


だけれど、自身の壁を乗り越えた時に見えた
景色はまわりに誰も居ない
荒涼とした景色だった。

ひとり立つ真っ白な部屋。

どこまでも限りなく。


さあ、この真っ白な自分の世界に
一体何を描きつづけようか。


希望という名の涙が一筋
35歳の男の頬をつたった。

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