老害なんていわないけれど
「痛い!ちょっとあんた!!傘差し運転だめよ!当たったじゃない!!!」
雨の下町におばちゃんの声が響き渡る。
自転車に古いチャイルドシートを着けた40代ほどの女性が傘をぶつけてしまったようだ。
路面電車を待つ私は停留所に行くまでに
このおばちゃんとおじちゃんにすれ違っていた。
(たぶん夫婦)
私は傘を上に上げて通り過ぎる。
ったく、、、危ないわね、、、
すれ違いざま、確かにそう聞こえた。
そのすぐあとの出来事だった。
おじちゃんが何やらぐちぐち言いながら
女性自転車の荷台をつかんで離さない。
仕方なく女性は降りたようだ。
謝罪を求めているのか。
10秒ほど続くもみあい。
自転車の女性はかなり嫌がっている
(そりゃ怖いだろう)
おばちゃんはヒステリックな物言いだし
おじちゃんは親の仇といわんばかりに
荷台を離さない。
私だったらおちっこちびる。
家の近所だったのて見ていられず、
足は自然と10メーター先の現場に向かっていた。
私が話かけると同時に手を離した。
女性がカタコトの日本語でおじちゃんに弁解したようだ。
「なにも掴んで逃さないことはないでしょう」
おじ『傘差し運転してたんだ!』
おば『私にあたったのよ!』
頼むから一人ずつ話してくれ。
「あなたはさっき僕とすれ違ったときもぶつくさ言ってましたが、ちゃんと傘どけましたよね?当たりました?」
おば『気づいてないようで睨んでたじゃない!でっかい傘だし!』
デカい傘に罪はないだろ。
商店街の洋品店に謝れ。
「でも避けましたよ。てかあなた少し過剰に反応しすぎですよ。騒いでみっともない。」
おばちゃんはスーツケースを歩道の真ん中に出しながら話していたので、それが邪魔で
自転車が通れずにいた。
「ほら、邪魔になってますよ」
おば『うるさいわね!あんたがいちいちしゃしゃり出てくることないじゃない!』
「家の近くだし、あまりにも穏やかじゃない雰囲気だったから声かけたんですよ。いいじゃないですか。てか、あなた自分が同じことされたら困りますよね?怖いと思いますよ?自転車掴まれて逃げられなかったら。なんであんなことするんですか?」
おじちゃんを甘詰めする。
おじ『、、、、、。』
ちょっと我にかえったようだ。
しかし、おばちゃんの怒りは治まらない。
反省するような人格と精神状態では無いと
私は判断したので、話を切り上げて停留所に
向かった。
私の背中におばちゃんの汚い捨て台詞が飛んできたが、覚えていない。
生憎、汚く罵る言葉は18歳で辞書から消した。
言われても耳と脳にノイズキャンセルがかかる。
老害とはいいたくないけれど
老害と言いたくなる人や状況は少なからずある。
どっかのナリタとかいう人がABEMAで
「高齢者、老害は集団切腹するべき、もしくはそのような心がまえが必要だ」
などのニュアンスで物を言ったようだが
いったいどんな人生を歩めば
こんな暴論を吐けるのだろうと
缶コーヒーを飲みながら思った。
単純に平和ではない。
国が高齢者で溢れていても
それは言っちゃいかんと思う。
何故ならば私たちもすぐおじちゃんおばちゃんに
なるからだ。
老いない人など存在しない。
年配の方の生活のペースに合わせるのが
表情に出るくらいストレスに感じるらしいと
東京に住むようになってから気付いた。
如実に現れるのは混雑した場所や
公共交通機関だ。
にも関わらず、本人たちはスマホにイヤホン、ヘッドホンで、目の前の現実ではなく仮想現実を見ている。
若年層だって少なからず年配の方に迷惑を
かけていることもあるのだ。
「そんな顔しなくても。」
と呟いたところでなんの意味もないけれど
もう少し余裕のある優しい気持ちで
他人を見ることが出来たならば
こんなに最高なことはない。
「期待しない。他人に期待しない。」
自分に言い聞かせて、仕事へと向かった。