One Loveに関するあれこれ
魔法のフレーズ
レゲエ・イベントのラストで出演者とオーディエンスが大合唱する定番曲となったせいで「音楽で世界をひとつに」というイメージが付いてしまいましたが、そんな薄っぺらい歌ではありません。
繰り返されるone love, one heartはマーカス・ガーヴェイ(Marcus Garvey)の言葉One God, one aim, one destiny(神も目指すものも運命もひとつ)に触発され、ボブが考え出した魔法のようなフレーズです。
「ひとつの愛、ひとつの心」というファジーな理想を説いた言葉ではなく、「愛でひとつにつながり合って心をひとつにする」という具体的な行動指針(guidelines)です。
イエスの言葉
「愛でひとつになる」=one loveは、「隣人を愛しなさい」というイエス・キリストの言葉と同じです。
「心をひとつにする」=one heartもイエスの教えです。
Let’s get together and feel all rightという部分も分かる人(クリスチャンやキリスト教をよく知っている人)には分かるはずです。
礼拝を捧げる場所(≒教会)に「集い、共に祈り、心を穏やかしよう」という意味が込められています。
中身はゴスペル
サウンド的にはレゲエですが、中身はゴスペルです。
ボブにとってゴスペルはルーツです。
そのへんについて知りたい方は「Talkin’ Bluesに関するあれこれ」でも少し触れたのでそちらをお読みください。
リスペクトして借用
そんな彼が心からリスペクトし、影響を受けたアーティストがカーティス・メイフィールド(Curtis Mayfield)です。
この曲One Loveは歌詞の後半部分をThe Impressionsという人気グループに在籍していた時期にCurtisが書いたPeople Get Readyから借用しています。
People Get Readyはこんな風に始まります。
100%ゴスペルです。
汽車に乗って
ちなみにゴスペルでは「汽車」はすごく重要な乗り物です。これに乗って苦難から脱出し、皆で神の国に向かうからです。
汽車をテーマにしたいろんな曲があります。
これとか
これとか
ボブも「天国行きの汽車」をテーマに素晴らしいゴスペルナンバーを書いています。
脱線してしまいました。話をPeople Get Readyに戻します。
ボブが借用したのは後半の次の二か所です。
ほんの少しだけ手を加えてOne Loveでは次のようになっています。
これだけはっきり借用しているとさすがに元になった歌があることを明記しない訳にはいかなかったようです。
そんな事情からアルバムExodusではOne Love/People Get Readyというややこしい曲名表記となっています。
最高のお手本
あまり知られていないですが、Curtisが在籍していたグループThe Impressionsはコーラストリオだった初期ウエイラーズの憧れであり、最高のお手本でもありました。
3人で生み出す素晴らしいハーモニーだけでなく、ビジュアルまで一生懸命コピーしていたようです。
曲もたくさんカバーしています。
オリジナル
ボブたちによるカバー
オリジナル
ボブたちによるカバー
Curtisは社会的メッセージを歌にしたR&Bシンガーソングライターの草分けのひとりとして知られる人です。
影響を受けたアーティストとしていつもカーティスの名前を挙げていたボブもキャリアのスタート時点から神に対する信頼と社会問題をテーマに曲を作っていました。
裁いてはいけない
17歳の時にリリースしたデビュー曲Judge Notも実はそんなナンバーです。
ボブは偶然One Loveというパワーワードを思いついた訳でも、漠然とした「世界平和」を夢想した訳でもありませんでした。
彼の生き方、たどってきた道のり、神を愛する心、銃撃事件を乗り越えてたどり着いた心境・・・すべてがこの唯一無二の曲を生み出したんだと思います。
今回のあれこれはone love, one heartという言葉にボブが託した行動への呼びかけ、底に流れるイエスの教え、ゴスペルミュージックやCurtis Mayfieldがボブに与えた影響についてでした。
最後におまけを
この曲からCurtisが残した最後のスタジオ録音アルバムNew World OrderのYouTubeプレイリストにアクセスできます。素晴らしいので興味がある方は是非!
それじゃまた~
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?