見出し画像

One Loveに関するあれこれ


魔法のフレーズ

レゲエ・イベントのラストで出演者とオーディエンスが大合唱する定番曲となったせいで「音楽で世界をひとつに」というイメージが付いてしまいましたが、そんな薄っぺらい歌ではありません。

繰り返されるone love, one heartはマーカス・ガーヴェイ(Marcus Garvey)の言葉One God, one aim, one destiny(神も目指すものも運命もひとつ)に触発され、ボブが考え出した魔法のようなフレーズです。

Marcus Mosiah Garvey

「ひとつの愛、ひとつの心」というファジーな理想を説いた言葉ではなく、「愛でひとつにつながり合って心をひとつにする」という具体的な行動指針(guidelines)です。

イエスの言葉

(イメージ画像)

「愛でひとつになる」=one loveは、「隣人を愛しなさい」というイエス・キリストの言葉と同じです。

A new commandment I give unto you, That ye love one another; as I have loved you, that ye also love one another.

(John 13:34 King James Version)

あなたがたに新しい掟を与える。互いに愛し合いなさい。わたしがあなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい。

(ヨハネによる福音書13章34節 新共同訳)

「心をひとつにする」=one heartもイエスの教えです。

Again I say unto you, That if two of you shall agree on earth as touching any thing that they shall ask, it shall be done for them of my Father which is in heaven.

(Matthew 18:19 King James Version)

また、はっきり言っておくが、どんな願い事であれ、あなたがたのうち二人が地上で心を一つにして求めるなら、わたしの天の父はそれをかなえてくださる。

(マタイによる福音書18章19節 新共同訳)

Let’s get together and feel all rightという部分も分かる人(クリスチャンやキリスト教をよく知っている人)には分かるはずです。

Giving thanks and praise 

礼拝を捧げる場所(≒教会)に「集い、共に祈り、心を穏やかしよう」という意味が込められています。

中身はゴスペル

サウンド的にはレゲエですが、中身はゴスペルです。

ボブにとってゴスペルはルーツです。

そのへんについて知りたい方は「Talkin’ Bluesに関するあれこれ」でも少し触れたのでそちらをお読みください。

リスペクトして借用

Curtis Mayfield

そんな彼が心からリスペクトし、影響を受けたアーティストがカーティス・メイフィールド(Curtis Mayfield)です。

この曲One Loveは歌詞の後半部分をThe Impressionsという人気グループに在籍していた時期にCurtisが書いたPeople Get Readyから借用しています。

People Get Readyはこんな風に始まります。

People get ready
There's a train a-coming
You don't need no baggage
You just get on board
All you need is faith
To hear the diesels humming
Don't need no ticket
You just thank the Lord

(Curtis Mayfield)

みんな準備するんだ
汽車がやってくる
手荷物なんて要らない
ただ乗り込めばいい
信じる心さえあれば
機関車の音が聞こえる
乗車券は要らない
ただ主に感謝すればいい

(和訳 by ないんまいる)

100%ゴスペルです。

汽車に乗って

ちなみにゴスペルでは「汽車」はすごく重要な乗り物です。これに乗って苦難から脱出し、皆で神の国に向かうからです。

(イメージ画像)

汽車をテーマにしたいろんな曲があります。

これとか

 これとか

ボブも「天国行きの汽車」をテーマに素晴らしいゴスペルナンバーを書いています。

脱線してしまいました。話をPeople Get Readyに戻します。

ボブが借用したのは後半の次の二か所です。

There ain't no room
For the hopeless sinner
Who would hurt all mankind
Just to save his own, believe me now

(Curtis Mayfield)

Have pity on those
Whose chances grow thinner
For there's no hiding place
Against the kingdom's throne

(Curtis Mayfield)

ほんの少しだけ手を加えてOne Loveでは次のようになっています。

Is there a place for the hopeless sinner
Who has hurt all mankind just to save his own?
Believe me

(Curtis Mayfield and Bob Marley)

Have pity on those whose chances grow thinner
There ain’t no hiding place from the Father of Creation

(Curtis Mayfield and Bob Marley)

これだけはっきり借用しているとさすがに元になった歌があることを明記しない訳にはいかなかったようです。

そんな事情からアルバムExodusではOne Love/People Get Readyというややこしい曲名表記となっています。

世界中でOne Loveって呼ばれてますが、正式タイトルはこうです。

最高のお手本

あまり知られていないですが、Curtisが在籍していたグループThe Impressionsはコーラストリオだった初期ウエイラーズの憧れであり、最高のお手本でもありました。

3人で生み出す素晴らしいハーモニーだけでなく、ビジュアルまで一生懸命コピーしていたようです。

左がThe Impressions、右が若き日のWailers 

曲もたくさんカバーしています。

オリジナル

 ボブたちによるカバー

オリジナル

 ボブたちによるカバー

 Curtisは社会的メッセージを歌にしたR&Bシンガーソングライターの草分けのひとりとして知られる人です。

影響を受けたアーティストとしていつもカーティスの名前を挙げていたボブもキャリアのスタート時点から神に対する信頼と社会問題をテーマに曲を作っていました。

裁いてはいけない

17歳の時にリリースしたデビュー曲Judge Notも実はそんなナンバーです。

Judge not
Before you judge yourself
Judge not
If you're not ready for judgment

(Bob Marley)

裁いてはいけない
自分自身を裁く前に
裁いてはいけない
裁かれる準備ができていないなら

(和訳 by ないんまいる)

ボブは偶然One Loveというパワーワードを思いついた訳でも、漠然とした「世界平和」を夢想した訳でもありませんでした。

彼の生き方、たどってきた道のり、神を愛する心、銃撃事件を乗り越えてたどり着いた心境・・・すべてがこの唯一無二の曲を生み出したんだと思います。

今回のあれこれはone love, one heartという言葉にボブが託した行動への呼びかけ、底に流れるイエスの教え、ゴスペルミュージックやCurtis Mayfieldがボブに与えた影響についてでした。

最後におまけを

この曲からCurtisが残した最後のスタジオ録音アルバムNew World OrderのYouTubeプレイリストにアクセスできます。素晴らしいので興味がある方は是非!

それじゃまた~

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?