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アフターコロナの手技療法教育

ニューノーマルに適応し始めた中で、新しい変化に順応しがたい業種もあります。整体やマッサージなどの業界もそのひとつ。
実技を教える現場で、どんな変化が起きているのか、考察してみます。

1年前から起きていること

昨年の緊急事態宣言が明けたあと、鍼灸やマッサージを教えている専門学校では次のような変化が起きました。

①マスク着用での授業
②解剖学など座学の授業のオンライン化
③分散登校による少人数制の実技指導

①と②は多くの学校で今も続いています。
今もまだコロナ禍にいる状況に変わりありません。
③は手取り足取り、直接の指導が必要な実技を身につけるための苦肉の策です。コロナ前、多くの専門学校では1クラス30人に対して指導教員が1名で実技を教えていました。
コロナ後は密を避けるためにクラスを二分割して、15人の学生に対して1人(または2人)の教員が指導する形になっています。教室に置かれているベッドの間隔も広めに取られるようになりました。

2021年の今も続いていること

コロナ禍の現在も、変わらず①②③の対策は続いています。
③は手技を学ぶ立場の者にとってどんな意味を持つのでしょうか。

学校で学ぶほかに、手技療法を身につけるには有名な講師が指導するセミナーに参加する方法もあります。2020年はこの手の実技セミナーはほとんどが開催を中止、またはオンラインの講義に切り替えたところもありました。
20人もしくはそれ以上の人数が集まって講義を聞き、実技を練習するのはクラスターが発生すること必至…。
そのような懸念と、自粛を求められるなかで大っぴらに「こんなにたくさんの受講生が来ました!」とセミナーの規模を強調することは難しい時代です。

見方を変えると、少人数の受講生をきちっと指導することが主流になっていくとも捉えられます。
そもそも、大正時代にもっとも盛んだった手技療法の系譜は、徒弟制度のもとに基盤が成り立っていました。一定の期間、師匠のもとに弟子入りして技術を身につける。それが脈々と続いている流派もいまだに残っています。

これから起こりうるベストの選択

古くからある徒弟制度の仕組みは、いいことばかりではありません。平然とパワハラまがいのことが行われていた事実に加えて、お世辞にも指導方法は効率的とは言えませんでした。
他方、コロナ禍により時代が変化していくなかで、大勢を一斉に教育していくことが難しくなります。同じ場所に一定レベルの者を集めて行われる「一斉教育」は、富国強兵を目的とした明治時代の教育方針に端を発しますが、それは形を変えざるを得ない状況です。
これは手技療法の教育だけでなく、私立の高校や大学ではすでに起きている現実です。

手技療法を教える現場では、温故知新という言葉が示すように一斉教育が始まる前の寺子屋式に揺り戻しが起きるのがこれからではないでしょうか。
しかも、ICTという新しいツールを携えて。そこでは、学習者の主体性が求められます。これも一斉教育とは異なる大きな視点の変化です。
カリキュラムに基づいて個人の目的と進度に合わせて教育が行われる。一斉教育や徒弟制度のムダを省き、ICTを活用したフィードバックを得て効率的な指導を行う新しい仕組みにつながれば、手技療法のワクワクする未来が見えてきます。

具体的には次のような方法論が考えられます。

①解剖学などの知識は動画とCBTで学習する(専門家の協力が要ります)
②実技の勘どころを伝えるための少人数指導(体系化が必要)
③臨床に基づいた経験知を伝える症例の共有(できればICTを活用して)

一人ひとり趣味や嗜好が異なるように、手技療法を身につける際は身体の使い方にも個人のクセが表れます。このクセを修正し、むしろ強みに変えられるだけの個別指導ができるのも寺子屋式指導のメリットです。
規模が小さければ、修正もしやすく小回りが利きます。変化が早く、振り幅も大きい時代に対応するための仕組みを模索しているところです。

physical, mental, spiritual and social well-beingに生きるお手伝いをしています。2020.3に独立開業しました。家族を大切にし、一人ひとりが生き生きと人生を楽しめる社会が訪れるといいなと思いながら綴っています。