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新曲 実存的青年

曲を作るということ~アルバム制作日記

一昨日。深夜まで作曲をして飲み屋でビールを四杯飲み、ほろ酔いと酔っ払いの間くらいの感覚で誰もいない街を歩いていた。意識がぼやけて、風景もぼやけていた。そんな世界の中でゆっくりと歩いていた。大学生の頃ありえないほどの飲みサークルに入り、ギターかき鳴らしては泥酔するまで飲むという日々を送っていた私にとって、懐かしい気分だった。ただ懐かしく、しかしどこか不安な気持ちになった、その不安の正体はあの頃が既に過去の感覚になってしまっているかもしれないという焦燥感だった。あの頃の音たちは今よりももっと無鉄砲であった。音はたいしてちゃんとしてないが音にこもった邪念やむき出しの感情はいまよりもすごいものがあった。
そんな気がしている。しかし昔以上に今の方が尖っていることは秘密だ。あの頃の音は今の私に確実に、「たらたらしてたらぶっ殺すぞ」というメッセ―ジを突き付けてくる。「ああ、分かっている」と睨み返す目の中に一滴のウソもないのか。そのような問いが自分に向かってやってくるのだ。作品はいつでも自分を自分にする。過去の自分との対話の中で自分がちゃんと自分であり続けているのか。そのような自問自答を曲は私に喚起させる。
自分は作品によって自分を規定される。
ほろ酔いと酔っ払いの間で、私は風景を見た。現れるのはまた世界とやらで、しまった商店街やたばこやクリーニング屋などが黒色をしていた。記憶と現実がよくわからなくなりぼやけていくが、この思考だけは全く止まることはない。私は一体なんなんだと。私は一体何者なのだと。さらに言えば、世界、君は誰だ?
私はあごに手を当てて何を考えているのだ。そのようなことを考えながら永遠と続く世界を見ていた。

歌詞によく一人称をつけるバンドがいる
おれ、わたし、などが多いバンドは自己主張が強い。メッセージが強い。
響心SoundsorChetrAの初期の作品、「バンド使って感情表現しにきました。」などが分かりやすく多い。

非常に実存主義的であった。
実存主義とは、フランスの哲学者ジャンポールサルトルを中心に体系付けられた思想で、一言で言えば「俺主義」だ。

自分の未来は自分の手で切り拓く、自分のことは自分で決める、このような俺の!という気持ちが強い。大学生の私はサルトルに非常に強い影響を受けて、サルトルで眠れないという曲さえ配信したほどだった。
かなり人気の曲で自分もかなり好きな一曲だ。

今の私は実存主義者ではない。それを超越した、自己の俺を越えた俺そのもの、すなわち0人称に意識がむかっているので一人称的、実存主義者ではない。
しかしどこか、生きていく上では実存主義的であることが必要がある。社会に自分を任していてはいけない。主体性の喪失にも近い。自分が自分であることを常に自分で規定していく作業と実存主義は相性がいい。
実存主義の本質は過去の自分と今の自分の差を小さく積み上げていく作業で、作品も同じだ。自分の各時代の小さな差を記憶だけで認識するより、作品に現われた方が余程認識しやすい。
作品にはその頃の自分が現れるので恥ずかしくも、今の自分ともっとも正確にチャネリングしてくれる存在だ。

実存主義的な俺は、昔いた。
確実に。特にあの青春と呼ばれる日々の中に。
確かなに実存主義者だった。
その時の感覚を今でももっている。俺はこの曲を、作らねばならない。そう思った。
その時にはすでに、2分くらいの曲ができていた。初期衝動的だった。家に帰って歯を磨かず、靴下も脱がず、ただギターにかじりついていた。気づけば5時半だった。朝日が昇ることも忘れて曲を作り消して、削り、作って、消して、投げ込んで消して、削って、削って削った。その作業がまさに実存主義そのものであった。

できた歌詞は、ほぼ一切の客観視は無く、ただ俺の目線でしかなかった。

曲名は実存的青年と名付けたが、変わることもある。いやおそらく変わる。

実存的青年 作詞作曲 総理

今何が見える
俺には見えるぞ世界とやらが
そいつがまた俺の前に今日も現れる
だから俺は歌を歌う時目をつむる
そいつが俺の中に入って来られないようにする

今何が見える
俺には見えるぞ世界とやらが
そいつがまた俺の前に今日も現れる
だから俺は歌を歌う時目をつむる
そいつが俺の中に入って来られないようにする

たった二つの澄んだ青い目が
今日も世界とにらめっこしてる

目を逸らしたら負けだって
そんなことは知ってる 生まれる前から知ってる

女 俺の理性 ぶっこ壊す
なんもよくわからんくなる

世界ついに ぼやけ切って
なんの輪郭ももたん 

こんな世の中じゃ
狂っている方が正しくて
狂ってない方が狂ってる
そ思う

どこか確信めいたその信念が
俺を今日も俺にしている

何もないのにある
慢性的な絶望が俺をもうダメにしていく
それでも 

思想鳴り止まず
思想鳴り止まず

朝焼けを見て感傷に浸る
彼は実存的青年

たった二つの澄んだ青い目が
今日も世界とにらめっこしてる

目を逸らしたら負けだって
そんなことは知ってる 生まれる前から知ってる

女 俺の理性 ぶっこ壊す
なんもよくわからんくなる

世界ついに ぼやけ切って
なんの輪郭ももたん 

こんな世の中じゃ
狂っている方が正しくて
狂ってない方が狂ってるのだと

どこか確信めいたその信念が
虚無的絶望に誘う それでも 

思想鳴り止まず
思想鳴り止まず

突き動かす
衝動
衝動
鳴り止まん
衝動
その思想

女性には理解されないと思われるこの曲は、このアルバムの中でもっとも俺的な曲だ。
他者など、その冷めた目線などどうでもいい。うるせえ!と言わんばかりのあの昔の感覚がビビットに体中を駆け巡った。今と昔が違うのはその表現の仕方がやや丁寧になったということだけだ。
何も変わらんあの初動がやはりこの俺には残っている。実存主義者はやめたと思っていた俺にまだその衝動が立ち上る限り、決して思想は鳴りやまず。

この曲をもってもう。浮かばないと思う。なんだかそんな気がする。曲をおろしてくる存在との10年近い関係の中で分かる。いや、裏切られるかもしれないが、その裏切りは良い裏切りだ。なぜならもっとその存在のことを知れたことになるからだ。

「実存的青年」

お前は一体なんなのだ。


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