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私の人生なんてぜんぶ黒歴史だけど、誕生日おめでとう

34歳になりました。
今の私にとっては信じられない数字だけど、歳を重ねたらあの頃はまだまだ若かったなあとか思うのかな。
ちょうど昨日、一つの作品が校了して、執筆中は苦しいときも多いのに、書き終わるといつも、次の物語を考えはじめていて、やっぱり小説の世界が好きなのだなと思う。
きっと小説が、ひとりぼっちだった私を救ってくれたから。
「みんな蛍を殺したかった」の登場人物の一人にも投影したのだけど、高校時代、私は言わずもがなぼっちであり、嵐を応援することと、ネットでBL小説や夢小説(いずれも二次創作)を配信するのだけが生き甲斐だった。
それは完全なる黒歴史であると共に、かけがえのない思い出でもある。
だって学校では影でしかない私が、小説を配信すれば、それこそ「神」なんて言われて、みんなから崇められたのだから。
感想が毎日何十通も届いて、私の小説の書き方を真似する人もたくさんいた。
だから自然と、小説を書いている自分が、自分の中で最も輝かしい自分になった。
いつも小説が、心の中心にあった。
小説家ではない人生は想像もできなくて、就活もしなかった。
大学を卒業した次の日に受賞したのは、本当にミラクルだったし、必然だったとも思う。
でもデビューして早々、挫折した。自分とは比べ物にならない才能が溢れていて、自分はただの世間知らずで、メールの打ち方すらわからず、酷くちっぽけな存在だった。宇宙のチリだった。書いた小説はぜんぶボツにされて、「小説の書き方」という本を読めと言われて、死んだ。「美少女が主人公なんて感情移入できない」と言われて、何を書けばいいのかわからなかった。私は美しい少女の葛藤が書きたかったから。(そして未夜子を、幻冬舎から出版してもらった。)
そんな私でも10年作家でいられたのは、私の小説を信じて、必要としてくれた人がいたからで、それは本当にすごいことだと思う。
これまで十冊以上出版した本は、一貫性がなくて、何を目指している作家かわからないといえばそうなのだけど、色々なジャンルを書かせてもらえたおかげで、学んだことがたくさんある。
ミステリ小説なんて、純文学小説だけ書いていたら、私には絶対に書けなかった。
それにきっと純文学だけを書き続けていたら、私は消えていたと思う。

小説を書き終わったいま、私の心は、なんだか透明だ。
焦りもないし、不安も、期待もない。
それはすごくいい意味でネットでの評価や小説だけが私を幸せにしてくれる世界じゃないと気がつけたからなんだと思う。
去年は鬱がひどくて、小説が書けなかった。
SNSもこわくて触れられず、殆ど見ることもできず、誰の情報も入ってこない現実で一年間過ごした。
それは孤独であると同時に、すごく穏やかで幸せな時間だった。
誰と比べることもない、自分の目の前にあることだけがすべてだった。
私は、いつか別れるその日まで猫をたくさん撫でてやりたいし、ごはんを食べたり銭湯へ行ったり、家族との日常を慈しんで、また大好きだった友達と笑い合える日がくることを願ったり、会ったこともない誰かに話しかけてみたり、これからは私という存在を楽しみながら、毎日を生きてみたいと思っている。
そして叶うなら、ずっと小説を書いていたい。
もっと上手に書けるようになりたいし、やっぱり小説を書いている自分がいちばん好きだから。
そうしていい作品が書けたら、まだ知らない素晴らしい景色を見に、旅に出たい。
そこで美味しいものを食べたり、泣いたりしたい。
それがちっぽけな私の願いのすべてなんだ。

「……はあ」
言い切ったあと、息を大きく吸って吐く。
色々語ってはみたものの黒歴史しかないし、私の誕生日なんて、私以外の人にとっては全然めでたくない。
「誕生日おめでとう」
だから私が死ぬまで、私に言ってあげることにした。

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■6月21日発売
『みんな蛍を殺したかった』


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■6月25日発売
『ぜんぶ、藍色だった。』


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