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沖縄の風に吹かれて 第11話

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沖縄に合格するテスト

沖縄県外でも三線を弾いたりかりゆしを着たりしている私だけれど、どうにも座りが悪い。それだけでは、誰に批判されたわけではないのだが、「似非ウチナーンチュ」だと思われているんじゃないかと思っているからだ。いつまで経っても檜になれない翌檜の木のようである。

普段着てもいないかりゆしを、6月23日にだけ、そして沖縄でだけ着る永田町の政治家たちとは心持ちが違うのだといくら主張してみても、移住しているわけではない私は、言うなれば月に一回やってきては去っていく女性の生理のようなものだ。この比喩ではなんだか歓迎されていないようにも思えてならない。

以前、私の番組に「島唄」の宮沢和史さんが出演してくださったとき、沖縄にはテストがあるとおっしゃった。あんたの子どもか、あるいはその子どもは受け入れてもらえるんじゃないかと沖縄のお年寄りに言われたことがあるとのことであった。読谷村でくるちの杜100年プロジェクトを続けている宮沢さんでさえ受け入れてもらうのに何十年もかかったとおっしゃった。つまり、彼はすでにテストに合格されているのだ。

宮沢和史さんと話し込む私

えー? テストがあるの? 沖縄に? 合格したらあんたのことは認めるさぁと言ってもらえるためのテスト? テスト? なに、テストって?

戦争で壊滅的になった県と言えば広島である。私は広島でもずいぶん長い間先生方の教育支援ボランティアを行っているが、おそらく最初の最初から受け入れてもらっているように思う。時期が来れば先方から今年もお願いしますというご連絡を頂戴する。年に2回か3回、広島の方々と笑顔を交わす。広島に受け入れてもらうためのテストなど存在しない。

長崎県からも同様に、たとえば英語科の先生方の勉強会があるから講師を務めてほしいとか、うちではキムタツの単語集を使っているから生徒たちに講演してくれとか、そういう依頼がくる。こちらも儲けようとは思っていないし、おそらく先方も私が長崎でメジャーデビューしてやろうと画策しているとは思っていないだろう。

広島や長崎とは異質の悲しい歴史が沖縄にはある。戦争が終わったあとも1972年までアメリカの植民地になり続けてきたのが沖縄である。それまではドルが使われ、車は右側通行で、そして甲子園球児はパスポートを要した。沖縄が日本本土になった後も米軍基地や関連施設が三十か所も残っている。今も沖縄では県外を「本土」と呼ぶ人がいる。沖縄も本土なのに。

嘉数高台公園からは普天間基地が見下ろせる

加えて、沖縄で儲けてやろうという人たちはいっぱいいる。国際通りにある東京資本の沖縄料理店は観光客で賑わっている。東京から高いカネを出してやって来た観光客が東京のお店で飲み食いして沖縄はいいなぁ!と喜んでいるのは喜劇である。

県外企業であるパルコやイオンが進出し、そしておおいに賑わっている。琉球王国に攻め入ったのは薩摩藩だが、なんとその鹿児島銀行までが沖縄に進出している。人口減少が続く他県から三菱や住友などのメインバンクが進出してくるのも時間の問題かもしれない。

2025年にジャングリアというテーマパークが誕生するらしい。沖縄に雇用が生まれていいじゃないかと思う人は、観光客相手に働くほとんどの人がパートタイマーであることを知るべきだ。その手の施設では、実はさほど雇用など生まれていない。県外企業が国内外から押し寄せる観光客を相手に儲けようとしているだけである。

つまり、沖縄そのものが潤っているわけではない。産業がないのだからしょうがないと言うかもしれないし、確かにそうなんだろうけれども、どうにもやるせなさを感じる。毎日の大渋滞で人々は疲弊している。カネがない、お腹がすいたと泣く子どもたち。基地問題は大事だが、基地どころではない人たちがいっぱいいる。

なんだか暗くなってきたので話をテストに戻す。宮沢さんや私のように「儲けてやるぜ」なんて思っていないにも関わらずウチナーンチュに受け入れてもらえないのは辛い。友達になりたいのになれずに膝を抱えるみなしごハッチみたいなものだ。なんとかテストに合格したい。どうすれば疑いは晴れるんだろう。そんなことを考えているうちに、いくつかの「テスト」を考えてみた。これはもしかしたらテストなんじゃないかと思うものを3つ。

沖縄にはくすっと笑える看板や道路標識が多い

1.骨汁がきれいに食える。
 私の大好きな宮良そば(浦添)やみはま食堂(北谷)で骨汁を実に綺麗に食べている人たちを見るたびに、私はまだまだウチナーンチュになれないなとがっかりする。せっかちな関西人が食えるものではない。

2.カチャーシーがまともに踊れる。
 私がカチャーシーを躍ると二日酔いのチンアナゴのようである。知り合いの結婚式であれを美しく踊っている沖縄の人たちを見ると、いくら頑張ってもあの域には達しないように思って、これまたがっかりする。

3.指笛がピューピュー鳴る。
 つばしか飛ばない。鳴らす方法をYouTubeで学んだが、風呂場でないと練習できないぐらい、つばしか飛ばない。沖縄でライブや試合を観ると客席から指笛が飛ぶが、あれを聞くたびに、実にがっかりする。

私はいつになったらテストに合格するんだろう。いつになったら沖縄から合格通知をもらえるのだろう。そんなことを考えながら、今月も来月も那覇空港に降り立つのである。そんなことを私が考えていようとは、沖縄の知り合いたちは思ってもみないだろうけれど。

木村達哉


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