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音大・デザイン会社を経て28歳で “食”に決めた日本人女性が、ポートランドで行列のできるスイーツ店を開くまで。 #KUKUMU

「Keep Portland Weird!」
へんてこなポートランドであり続けよう!がスローガンの街、アメリカ・ポートランドには面白い周り道をして、自分の好きなことに熱中している人が多くいます。その中の1人が、スイーツ店『Mio’s Delectables』オーナー・浅香未央(あさか みお)さん。

彼女のつくるお菓子は今、ポートランドで大人気。この街最大級の野菜市、ポートランド州立大学の敷地内で行われる『ファーマーズマーケット』に出店すると、よく行列ができます。


現在ミオさんのお菓子づくりは、ポートランドだけにとどまらず、全米に広がり始めています。2019年には、チャンネル登録者数600万人越えのYoutubeドキュメンタリーチャンネル『Great Big Story』に取り上げられ、話題になりました。

そんなミオさんですが、学生のころは食の道を志していたわけではなかったと言います。ミオさんはどのような方向転換を経て、ポートランドで自分のお店を立ち上げるまでに至ったのか。

今回は進路に悩める大学生ライターのきむりさが、ミオさんの人生観を取材! 1日お菓子づくりをお手伝いして、一緒に過ごした後にインタビューさせていただきました。

キャプション:右がミオさん、左が筆者。 ※写真は別日のファーマーズマーケットにて撮影。

話をしてくださった人:ミオさん
『Mio’s Delectables』のオーナー。音大を卒業した後、BGM会社やグラフィックデザイン会社に就職。28歳の時に「食」の道に進むことを決めた。アメリカの永住権が当たったことを機にアメリカへ移住し、フロリダを経て、現在はポートランド在住。

話を聞いた人:きむりさ
大学を休学し、ポートランドのコミュニティカレッジに留学中。webマガジン『KUKUMU』唯一の学生ライター。就活シーズンに差し掛かってきたが、「自分はこれだ!」と確信を持てるものがなく、不安になることも。

自分が100%注げるものを見つけたかった


きむりさ:
アメリカの大きな祝日であるサンクスギビングとクリスマスの間という、きっと一年でいちばんお忙しい時期に取材を受けてくださって、ありがとうございます!

ミオさん:いえいえ。こちらこそ、今日はお手伝いありがとうございました!

きむりさ:今回は、どうして取材を引き受けてくださったんですか?

ミオさん:りさちゃんから初めてもらったメールに「忙しいと思うので、なんでもお手伝いします!」って書いてあって。「この子、できるな…… 」って思ったんです(笑)

きむりさ:やる気だけは、有り余ってるんです(笑)。 今日は1日お菓子づくりのお手伝いをさせてもらいましたが、想像以上にハードでした。

ミオさん:この時期は、毎年すごく忙しいんですよ。

きむりさ:そんなミオさんがポートランドでお忙しくなるまでの話、もっと詳しく聞きたいです。

ミオさん:はい。よろしくお願いします!

ミオさんのお家の地下にある工房。取材日は、季節限定の「シュトーレン」をつくりました。

きむりさ:今はお菓子でいわゆる「成功」してるように見えるミオさんですが、元々は音大でピアノを専攻していたり、卒業後はBGMやグラフィックデザインの会社で働いていたりと、一見「食」とは関係ないお仕事をしていたと聞きました。

ミオさん:そうなんです。

きむりさ:お菓子づくりに注力しようと決めたのは、いつごろですか?

ミオさん:28歳の時です。当時としては、遅いスタートでしたね。お菓子屋さんで働く方は、18歳くらいから専門学校に入って、20歳くらいからお店で修行し始めることが多いので。

きむりさ:28歳で新しい分野へ飛び込むことに、焦りや抵抗感はなかったんですか? 

ミオさん:すごくありました。だけど「食の道に行きたい」と確かに思ったのがその時だったので、やるしかない!という気持ちの方が強かったですね。

きむりさ:私は今22歳の大学生で就活を控えているのですが、もう既に焦りが大きくて。

ミオさん:その気持ちもすごく分かります。私も20代前半のころは、りさちゃんのような感じでしたよ。

きむりさ:ミオさんのように一つの道を極めている方って、元々人より秀でた何かがあったり、小さいころからその道に没頭してたりしたのかと……。

ミオさん:音大に行くのを決めたのはもちろん音楽が好きだったからなのですが、母の薦めも影響していたんです。それもあって、学生時代は「この道一本で、今後の人生を歩んでいきます」とは言い切れませんでした。

きむりさ: そうだったんですね。

ミオさん: だから音大を卒業して東京に出た時、「100%でこれだ」って言えるものを見つけたいと思って、いろんなことをやってみたんです。最終的に28歳のころ「食の道に進みたい」と確信が持てるようになりました。

きむりさ:食の道に進むことを決めた時は、どんな気持ちだったんですか。

ミオさん:自分がこの道に進みたいと思ったから、やる。だから食の道がもしダメになったとしても、自分が決めたんだから誰のせいにもしない。私にとっては、これが大事だったんです。

きむりさ:ここまで聞いてきて、ミオさんは心からやりたいと思えるものが見つかるまで、それを全力で探していたことが分かりました。私も今、そんな段階かもしれないです。

ミオさん:「若い時の苦労は買ってでもせよ」って言葉がありますが、けっこう本当だと思っています。

つくることが使命

きむりさ:お菓子に100%注力できる!と思えたのは、何がきっかけだったんですか?

ミオさん:実は、最初からお菓子がやりたかったわけじゃないんです。パンが作りたかったんですよ、本当は。

きむりさ:あれ、そうだったんですか!

ミオさん:でも、なぜか私にはいつもお菓子のポジションがあったんです。

きむりさ:「自分が打ち込めるものを見つけたい!」という強い意思はありつつ、偶然ともいえる出会いに流れに身を任せる部分もある、そのバランスが面白いな〜と思いました。

ミオさん:「パンを作るポジションに就きたい!」と思っても、私が働いていたところには、そのポジションに空きがなかったんです。初めて働いた飲食店ではスタッフがほぼ総入れ替えになったのに、パン担当の人と私だけが残って ......。

きむりさ:あはは(笑)。身を任せようとしていたというよりは、もう選べる状況じゃなかったんですね。

ミオさん:そうですね。もしそこでパン担当がいなかったら、今はパンづくりをメインでやっていたかもしれません。

きむりさ:「この選択がひとつ違ったら」と考えると不思議ですね。でも、そこからお菓子というジャンルで長年続けられているっていうのもすごいなあと思います。

ミオさん:長年お菓子作りをしていると、『Mio’s Delectables』でお菓子をつくることが自分の使命だと思えるようになってきました

きむりさ:使命というのは、「もうこれをやるしかない!」みたいな感覚ですか?

ミオさん:『Mio’s Delectables』を立ち上げた時は、シンプルに自分が好きでやり始めたことでした。でも、今では多くのお客様に喜んでいただいて、『Mio’s Delectables』のお菓子を待ってくださっているから、ちゃんとしたものをつくり続けないとなと感じています。

きむりさ:なるほど。

ミオさん:だからファーマーズマーケットに立って、お客様からエネルギーを頂けているのは、すごく大きいです。8年も出店していると、マーケットの販売は人に任せて自分はお菓子づくりに徹する方もいます。だけど、私にはできないと思います。

きむりさ:どんなに忙しい時期でも、毎週ミオさん自身がお店に立たれてますもんね。

ミオさん:マーケットで自ら接客をすることで、お客様が求めている空気を感じられるんです。例えば天気予報で、次のマーケットの日は何度で、湿気がどのくらいあって、風が強いのか、弱いのかを調べて、マーケットにお菓子を持っていっています。それを続けてると、季節や天候によって変化するお客様の嗜好が、大体予想できるようになってくるんですよ。

きむりさ:「自分がこれが作りたい!」という気持ちだけで、お菓子をつくっているわけじゃないんですね。ミオさんのプロとしての一面をお話しいただけて、うれしいです。

夢が叶った先に、見えてきたもの

きむりさ:ミオさんは自分の店を立ち上げるまでに、きっと大変な経験をされたと思います。ですが、今いろいろなお話を聞いていても、あまり辛そうに見受けられないんですよね。

ミオさん:それは、いろいろな事を乗り越えてきたからだと思います。若い時は、苦しい時に何回も泣きました。だけど今、すごく忙しい時に過去の自分は、「過去の自分は、こんなふうに求められる自分になりたかっただろうな」と思うんです。

きむりさ:ミオさんがお菓子づくりに100%を注ぎ続けられるのは、過去のミオさん自身がいつも励ましてくれるからなんですね。

ミオさん:あの時の自分に「今、忙しくて大変!」だなんて言ったら、きっと怒られます。過去の私は、今みたいに充実した日々を夢みて泣いてたと思うんですよね。昔は「明日は売れるかな」とか「お菓子だけじゃやっていけないかもしれない」とか、そんなことばっかり考えていたので。

きむりさ:過去のミオさんからしたら、今の状況は夢に見た通りだと思うんですよ。大きな目標を達成した上で今、さらなる理想はありますか?

ミオさん:新たな野望があるというよりも、「今、叶ってる」っていうことを意識して生きていくのが、私は大事だと思っています。「あの時はよかった」と振り返って思うのではなくて、お客様に求めて頂けてる今の状況を把握しておくということです。

きむりさ:なるほど。夢が叶うと、燃え尽きちゃったりしないんですか?

ミオさん:それは、ないですね。一つの夢が叶うと、叶ってからしか見えない境地もあると思っています。「叶ったから、人生の全てが解決!」ではないというか。だから今はとにかく日々、現場と目の前に感謝してって感じですね。

きむりさ:私も、そんな境地にたどり着けるように頑張りたいです。

ミオさん:いいですね!りさちゃんならできると思います!

取材を終えて

後日、ミオさんが働くファーマーズマーケットにお手伝いとして立たせてもらいました。準備開始の時間は、朝6時台。12月のポートランドだと、まだまだ真っ暗です。

「マーケットに立つのも、始まる前は今でも緊張します。だけど、朝の9:00になって接客が始まると、不思議と力が湧くんです。」と語るミオさん。

今日も『Mio’s Delectables』には、老若男女を問わず、たくさんの人が訪れます。

「ミオさんのお菓子を見るだけで、自然と元気になってくる!」
「ミオさんに会えてよかったです!」

ミオさんの思いを受け取ったかのように、お客様からのあたたかい声が飛び交う、大人気のお菓子のお店。

そこで誰よりもお客様のことを考え続けるミオさんは、今日も自分で選んだ道に向き合い続けていました。

インタビューに協力してくださったミオさん。快く撮影やお手伝いをさせてくださった『Mio’s Delectables』の方々、本当にありがとうございました!

<Mio’s Delectables について>
HP:https://www.miosdelectables.com/
Instagram:https://www.instagram.com/miosdelectables/

12月限定のクリスマスケーキ。ポートランドに来たら、おひとついかが。


写真・文:木村りさ
編集:栗田真希

食べるマガジン『KUKUMU』の今月のテーマは、「お菓子」です。4人のライターによるそれぞれの記事をお楽しみください。毎週水曜日の夜に更新予定です。『KUKUMU』について、詳しくは下記のnoteをどうぞ。また、わたしたちのマガジンを将来 zine としてまとめたいと思っています。そのため、下記のnoteよりサポートしていただけるとうれしいです。

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