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塾にレクサス

 小学生の頃、塾に通っていた。長くは通っていなかったが、週に何度か自分の好きな時間に通うというプログラムに入っていた。

 小学校低学年から中学生まで、幅広い子どもたちがそこに通い詰めていた。だいたい夜の方になってくると中学生の集団が来るので、それまでには終わらせて帰るのが日課だった。(小学生から見た中学生は巨人のように大きく見え、そして怖かった。)

 塾の先生はとてもお淑やかで、綺麗な方だったと思う。自宅の一階が塾になっていて、たまにその家の子も学習しにきていた。何度か会話する二人を見たことがあるが、なんとも微笑ましい雰囲気だったのを覚えている。きっと旦那さんも優しい方なのだろうと妄想した。

 あれから何年、下手したら何十年経ったろうか、久しぶりにその家の前を通過した。相変わらず目立つ入会の旗は翻っていたが、見慣れない高級車が停まっていた。白くてゴツい、レクサスだった。

 私はあの穏やかな先生とその子供をうっすら浮かべ、また会ったこともない旦那さんをも考えながら、その夥しく光る高級車を見ていた。

 なんだかな、と、心の中がモヤモヤしたのも一瞬、別に、人に勉強を教えて、その稼ぎで高級車を買っただけだ、人生の成功者じゃないか、きっと、羨ましく、そして疎ましく思ってしまったんだろう。もう先生の顔もよく覚えていないのに、あの暖かなオレンジ色の先生たちの雰囲気に包まれながら、しかしそれでもレクサスは日差しを受けて人の目を焼き尽くすように輝いていた。なんだか嫌な光り方だった。

 高校生でもない、大学生でもない、その年の気温は例年に比べ高いような気がし、それでもやることは変わらないと、私は塾へと自転車を漕いだ。

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