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白色の目

 家に帰ると、壁に白い目が描かれているのを発見した。それは子供がクレヨンで書いたような目であったが、一人暮らしの私には点で見当がつかない。なぜだか私はそれを消そうとも隠そうともせず、そのままにして過ごすことにした。

 ある時、部屋のゴミ箱につまづき中のゴミをばら撒いてしまった時のこと、どうして私はこうもゴミ箱にぶつかり毎度自分でそのゴミを拾わなければいけないのかと自問自答していた。そこで、くしゃくしゃに丸まった紙のの球を拾った時、なぜかあの白い目を思い出した。あれが描かれてからしばらく経ったが、私はそれを気にしてばかりだった。ふと気になったが、やはりそれ以上は考えるべきではないと拾い戻った。

 全てのゴミを片付け、それをまた道中に置こうとしたが、そこで気がついた。このゴミ箱を、壁沿いの端っこに置けばいいのだと。私は今まで通り道にこのゴミ箱を置いて来、都度ぶつかってを繰り返していたが、それは通り道になければいいだけのこと。こんな簡単なこともわからずなぜ私は生活していたのだと、ここでもやはり自問自答した。

 そうだ、と立ち上がった私は、何の躊躇いもせず、あの壁のところへ行き、消しゴムで白い目を消しはじめた。その目はすぐに消えていき、そして私の記憶からもいなくなった。

 物事は、簡単にするために難しく考えるべきだと、そこで思った。

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