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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<9>

そして……

 今日、とうとう綾がつかまり立ちした。
 宮子とハイハイ競争をしていたおかげか、足腰も丈夫、体も良く動く。運動たっぷりなので離乳食もよく食べる。
 本当に産まれたのが昨日のような気がするのだけど、目の前の彼女はすでに立派な子供だ。
 一年早かったなぁ。
「綾ちゃん、お誕生日おめでとう!」
 まだロウソク吹き消すのはできないので、僕と宮子で代わりに。
 いつもより豪華な食事内容に、心なしか綾の表情が緩く感じられる。
「一年、早かったね」
 宮子が僕と同じ感想を漏らす。
「そうだね。すっごく大きくなった」
 綾の頭をなでつつ、顔を覗き込んだ。綾はニコニコと僕を見返してくれる。
「ほんと、産んだのが昨日のことみたいだけど、産んだ痛みはもう忘れちゃったのよね。これってそういう風にできてるのかな。だから二人目が作れちゃう?」
「さあ、僕には産んだ痛みも分からないんだし。でも、それはそれで良かったね」
「そうだね。ふふん、二人目、頑張っちゃう?」
 そう言われて、僕はむせた。
「ま、まだ早いんじゃないかな」
「そう? でも今からでも一年後と考えたら綾と二歳差だし、ちょうどいいんじゃない?」
 なるほど、確かにそういう計算になるのか。
「まあそれは後で話すとして、今は綾の誕生日を祝おうよ」
「逃げたな。まあいっか。じゃあ綾ちゃん、初めてのケーキ、食べたい人?」
 宮子の問いかけに、綾が元気よく手を上げる。最近お気に入りのアクションだ。満面の笑みをたたえながら、綾がケーキを頬張った。
「美味しい人!」
「あい」
 とまた綾が手を上げる。いつまで見てても飽きない光景。
 これが、きっと明日も続く。続かせてみせる。
 昨日のような今日、今日のような明日、日常は続いていく。
 変化はするけれど、僕たちのこの関係性はきっと変わらない。
 親子であり、夫婦である。男女でもあるし、仲間でもある。
 一つ一つが驚きで、一つ一つが楽しみで。
 そうやって、明日もまた、生きていく。

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