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本のなかには人がいる。

本という字の成り立ちを紐解いてみる。
「語源由来辞典」というサイトによれば、本は「木の根元に太い印をつけた様子」から来ているという。

「本」の字は、木の根の太い部分に印をつけ、その部分を示した漢字で、漢語では「太い木の根」や「草木の根」を指す。
日本では物事の「根本」や「基本」といった意味から、「手本」や「模範とすべきもの」の意味を表すようになった。
そこから、書写の元となるような書物を「本」と呼ぶようになり、書物全般を言うようになった。

https://gogen-yurai.jp/hon/#:~:text=%E3%80%8C%E6%9C%AC%E3%80%8D%E3%81%AE%E5%AD%97%E3%81%AF%E3%80%81,%E8%A8%80%E3%81%86%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%80%82

なるほど、納得のいく理屈だ。昔は、木の根元に覚えるべき言葉を刻みつけたりなんかしたのかもしれない。

これで十分、本という文字への理解は足りるだろう。

でも、わたしは本という字に別の成り立ちを思い描く。
これからのことは、完全にわたしの妄想だ。

本という字をよく見てみよう。
真ん中に「人」という字が隠れている。


残りの部分はというと、「土」という字が逆になったような形に見える。
土の逆ってなんだ、と考えてみると、わたしは「空」をイメージする。
土、地面、重力の底。それと相反するもの。空、宇宙、果てしない広がり。

もうなんとなく言いたいことに気づいているかもしれない。
本という文字を、「人を果てしなく広がる空へと運んでいくもの」と捉えてみたいのだ。あるいは、「人がつくりだす無限の広がりそのもの」と。

単なるくだらない言葉遊びと思うかもしれない。
でも、言葉遊びが人の心を変えることだってある(曲の歌詞を聞いて衝撃を受けるように)。人の心が変われば、現実だって変わっていく。
ようは、自分がそう信じていれば、それが真実なのだ。

AIが小説を書く時代になった。
読んでいて面白いというだけなら、もう本の中に人は必要ないのかもしれない。

でも、ただ文章が面白いということだけが本の味ではない。
本の中には、人がいる。

この世界に息づく同じ人間が、同じように悩み苦しみ喜ぶ人間が、この文章を書いているということに感動することがある。

そういうとき、私たちは文章ではなくその裏側の人間自体を見ている。
そして、その人間と一緒に果てしない空へと旅立つことをイメージする。

その空は晴れているとは限らない。どんよりと曇っているかもしれないし、嵐が吹き荒れているかもしれない。
でも、実際にその中を進んだ人間がいるという事実に、私たちは勇気づけられる。姿かたちすらわからない本の書き手を、まるで旧来の友人のように思うこともある。

だから、苦しくても、時間がかかっても、私たちは本を読むし、本を書く。
それが、今ここではない空へと連れていってくれるかもしれないと思うから。その営みは、わたしたちが人間である以上ずっとあり続けるものだと思う。

だから、たとえこの先どんな形になるとしても、わたしは「人が書く本」というものを信じ続けたい。

(「次世代の教科書」編集長 松田)


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