『供述』#毎週ショートショート【クリスマスカラス】
「ねぇ、クリスマス・カラスって聞いたことある?」
瞳に窓から差し込む夕日をたたえて、ゆずが唐突に聞いてきた。いつも後ろから話しかけるから、今日も包丁を落としそうになる。
「なに?またどっかのサイトから持ってきた都市伝説かなにか?」
「違う!今回のはガチもんだよ!噂になってるんだからね、クリスマス・カラス!」
ザクザクと刻みながら、はぁ、とぼくは返す。
「クリスマス・カラスってのはね、要するに神のお使いらしいんだけどね…」
ゆずの胡散臭い話では、クリスマス・カラスというのは神の力を一時的に行使できる神の使者で、クリスマス当日に目をつけた背信者を罰するらしい。わかりやすく言うなら天罰が悪い人に下るというものだ。
「子供向けの御伽話だよ、そんなの。ゆずはホント好きだよなあ、そういうの。」
いつのまにか日が暮れて、あたりが暗くなってきていた。少し目線を上にやると、ゆずと目が合うが、その瞳がくろい。
くろい。くろい。くろい。まっくろい。
世界の中心がゆずの瞳の黒になって広がっていくのを感じる。
周りが異常に鉄くさい。
ぐわりとゆずの輪郭が揺らぎ、カラスのぬばたまの瞳に囲まれていた。
たくさんの目に見られている。
『が、かぁ。』
ゆずの声でカラスの瞳が鳴く。
『ゆずを返せ。ゆずを元に戻せ。かぁ。返せ、返せ、かぁ。』
かぁ、かぁ、かぁ。かぁえせ。
どくん、どくん。早鐘が鳴る。ぼくの心臓かこれは。
「やめてくれ、おかしくなる!なんの冗談だよ!!」
ぼくはわめく。目がぼくに迫る。
どろどろとして、ほのかに温かい黒がぼくの体にしみわたって侵されていくのを感じる。
『かぁ、メリークリスマスは良い子にだけ。悪い子にはお仕置きを。』
そう言い残すとカラスの目も、黒も消えていた。
ぼくは心臓を抑えながらあたりを探る。
さっきまで近くにいたゆずがいない。
急いでゆずを探す。
一緒に使っていたスリッパに、おそろいのパジャマ、歯ブラシだってあるし、ゆずがいつもつける香水の香りもほのかにする。確かにここにゆずがいた。
僕ははやる気持ちを抑えて、もう一度さっきまでゆずといた、一番奥の部屋の扉を開ける。
見つけた!
ゆずだ。
ゆずがいた。
しっかりと監禁鎖につながれて、かわいらしくそこにいた。
…なのに、
「ゆず?ゆず?ねぇ?」
ゆずが返事を返してくれない。ゆずのかわいい頬に温度がない。瞼が自力で上がらない。きれいで澄んだ瞳に光も何も映していない。
ゆずが死んだ。せっかくここまで来たのに。せっかく大切に大切に部屋に保管していたのに。死んだ。ゆずが死んだ。
あれ?近くに僕の包丁がある。どうしてこんなところに?
…ああ、きっとクリスマス・カラスのせいだ。
「だから、ぼくはゆずを拉致監禁はしても、殺したりなんてしていないんです。ね?」
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