#毎週ショートショート【星屑ドライブ】

「愛のごみ、怒りの端くれ、安心の余白など、いらない屑はございませんか。」

 家の前の通りを屑回収車が練り回っている。屑回収車は感情の屑のたまった場所にしか現れない。部屋のカーテンを少しだけ開けて回収車を覗く。
保奈美はどうもこの回収業者が不気味で好きになれないのだが、お隣さんの佐藤さんも、向かいの井上さんも家族総出で屑を出していた。一通り外に出ていた人の屑を集めたので業者はそろそろ帰るだろう。

 何とかやり切ったと思い、保奈美はカーテンを再び閉める。振り返り、薄暗い部屋にのあちらこちらに黒い影が散乱しているのを見て保奈美はため息をついた。
ゴミ部屋である。
放任主義な両親は、まず保奈美の部屋に立ち入らないのですでに1年以上この状態でも隠し通せてしまっていた。この屑たちの原因は分かっている。もやもやとした不安が保奈美を覆い、また新たな屑が生成される。

 屑を取り上げ、積み重なった影にほおり投げた時、ピンポン、と玄関チャイムが鳴った。
「こんにちは、星屑回収です。お宅にも屑はございませんか。」

母が玄関を開けたらしく応対する声が聞こえる。非常にまずい。この状況をみられるわけにはいけない。

「そうねぇ、うちは定期的に屑を出させてもらっているから今回は業者さんに頼むほどの量がないのよ。」
「そこを何とか。今日のこの取れ高じゃあ冬の夜空はできないんでさぁ。ほら、最近娘さんを見かけませんが、屑がたまってたりしやせんかね。」

 ああ、それならと母が言うのが聞こえ、二人が階段を上ってきた。コンコンと扉をノックされる。ああもう諦めるしかないのかもしれない。自分はもう亡き恋人に執着してはいけないらしい。あるいはその執着から解放されるのかもしれない。

ドアが開かれ人のよさそうな業者が言う。
「愛のごみ、怒りの端くれ、安心の余白など、いらない屑はございませんか。いらない屑は私どもに預け、今夜のお星にしてみませんか。星屑回収です。」

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