祖母を近くに感じられる大切なきもの
私の祖母は「娘に着物を揃えるのは親の務めです」が口癖の人でした。
しかし、着物を着る機会がそうない現代、親たちも孫娘たちも現実的に考えることなく過ごしていました。
そこで従妹と私が二十歳の時、祖母は親たちに訪問着を誂えるように命じたのです。
その頃、祖母は余命宣告を受け、日に日に状態が悪くなっている時でした。
従妹と私は親に連れられ、祖母指定の呉服屋さんに行きました。
従妹が二十歳の女の子らしく大変若々しい華やかな色柄を選んだのと対照的に、私は淡いグレー地に松・竹・梅・牛車といった古典柄を選びました。
もうひとめぼれでした。
しかしお店の方や親たちは寄ってたかって「地味すぎる」「渋すぎる」と反対してきたのです。
でも私は頑として譲らず、その反物で訪問着を仕立ててもらい、そして祖母の娘時代の丸帯を二分し、袋帯も仕立ててもらいました。
急いで仕立てていただいたおかげで、翌お正月に従妹と私は祖母に着物姿を見てもらうことができました。
その頃の祖母はもう口を利くこともできない状態でしたが、大変優しい眼差しで私たちを見つめてくれていたのを今でもはっきり覚えています。
その後、そんな大切な着物をあろうことかクリーニングにも出さず、20年以上タンスにしまい込んでいました。
着付けを習い始め、修了式にその訪問着を着ようとタンスから出したところ、シミや変色がありました。
悉皆師の方に見ていただいたところ、もう全体を染め直すしかないとのこと。
大変ショックを受けました。
知識がないというのは恐ろしいことだとも思いました。
しかし、染め直すことにどうしても抵抗がありました。
反物を選んだ時、祖母に見てらもった時の気持ちが思い出され、染め直してガラリとイメージが変わることで、別の着物になってしまうような気持ちになるからです。
そこで悉皆師の方に改めてご相談し、京都の工房にてシミ抜きの処理をしていただくことになりました。
100%とはいきませんが、おかげさまでこびりついたシミは目立たなくなりました。
二十歳の頃、地味だ、渋いと言われた色柄も今では大変しっくりきます。
そしてこれからいくつになっても着られる上品な着物です。
祖母の想い、私の祖母への想いをこれからも大切にそして素敵に着こなせるようになっていきたいと思っています。
祖母を近くに感じながら…