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映画#132『ヴィレッジ』

『ヴィレッジ』(”Village”)

監督/脚本:藤井道人
出演:横浜流星、黒木華、一ノ瀬ワタル、奥平大兼、作間龍斗、淵上泰史、戸田昌宏、矢島健一、杉本哲太、西田尚美、木野花、中村獅童、古田新太、他
制作会社:スターサンズ
配給:KADOKAWA、スターサンズ
公開:2023年4月21日
製作国:日本

Wikipediaより引用

【あらすじ】
夜霧が幻想的な、とある日本の集落・霞⾨村(かもんむら)。神秘的な「薪能」の儀式が行われている近くの山には、巨大なゴミの最終処分場がそびえ立つ。幼い頃よりこの村に住んでいる片山優(横浜流星)は、美しい村にとって異彩を放つ、このゴミ処理施設で働いているが、母親が抱えた借金の支払いに追われ、ゴミ処理施設で働く作業員に目をつけられ、希望のない日々を送っていた。そんなある日、幼馴染の美咲が東京から戻ったことをきっかけに物語は大きく動き出す――。

Filmarksより抜粋

画像出典:映画.com

『余命10年』の藤井道人を監督に、『流浪の月』の横浜流星を主演に迎えた今作。舞台はある寂れた農村、そこでゴミ処理施設のスタッフとして働く青年「優」が主人公……

なのだが、ある出来事が原因で優は村の人々からぞんざいな扱い、いわゆる「村八分」を受けている。ましてや舞台は「村」という非常に狭いコロニーのため、我々観客は劇中ずっと心臓に鉛を乗せられてるような感覚に苛まれ続けることとなる。

だが優の幼馴染である美咲が村に帰ってきたことをキッカケに、優は徐々に村での立ち位置を取り戻していくこととなる。無精髭を生やし常に下を向いていた優が、物語が進むにつれて明るくなっていく姿は何とも清々しい……と思うと同時に「これも長くは続かないんだろうなぁ」というふんわりとした絶望感らしきものも密かに感じつつもあった。

そして案の定、物語が進むにつれて優の心は徐々に「堕ちて」いく。優の心情や現在の状態を象徴する「見た目」が、堕ちていくにつれて段々と最初のやさぐれた見た目に戻っていくのも見ていて辛いものがある。


美咲のアイデアが功を奏し、観光名所として発展していく霞門村。しかしそれは上っ面だけの成長であり、裏はドッロドロの不祥事だらけ。まぁ結局、終盤では全てが解明され村は再び衰退の一途を辿ることとなる(この村の成り行きは、作中で何回も登場した「能」の内容をなぞっている)。

しかし真に恐ろしいのは、「霞門村」と「優」が強くリンクしていることだろう。落ちぶれて、成長して、また落ちぶれて。霞門村というコロニーにおいて、序盤では徹底して「排斥される側」だった優が、気づいたら「村そのもの」を背負う存在になっていて……

恐らく観客の9割が村の人々に殺意に近しい感情を抱いただろうが、同じように観客の9割が感情移入しまくったであろう優がいつしか「霞門村そのもの」になっていた……嗚呼、何と恐ろしい映画なのだろう。

最後のシーンで優が流した涙は、衰退していく村に向けた慈しみの涙なのか、はたまた自らの行いに対する後悔によるものなのか……。


だがしかし、今作の真に恐ろしい真実はこれだけに留まらない。

「レールから外れた者」をあの手この手で徹底的に叩き出す陰鬱さ、
公にしてはならない真実を何としてでも隠し通さんと奔走する姑息さ、
無責任な責任転嫁を良しとする身勝手さ……
これらは今作の舞台、すなわち村社会というステージだからこそリアリティに富んだ表現をできたからに他ならない。

しかし現実は、こういった「残酷な真実たち」は実際に、それも至極当然かのように行われている。学校、職場、家庭は勿論のこと、広義的に考えれば「日本の社会そのもの」でさえも当てはまってしまう。

これが今作のメッセージ性において真に恐ろしい部分だ……霞門村の悲劇は、気づけば私たちのすぐ側にまで迫ってきているのである。


だが個人的には「優が陰鬱な村八分を受けている」という描写に少々不足があったかのように思えてしまった。確かに胸糞ではあるが、もーちょい踏み込んだ表現もできるのでは?といった具合に。

極端な例ではあるが、序盤にてゴミ処理中に無理やり喧嘩をさせられる優、やがて気分が高揚して暴力がエスカレートし、いつしか集団リンチへと変わっていって……そうしてボッコボコにされ、痣だらけになりながら帰路へつく優を「汚い」などと蔑む村人たち……みたいな。

だがこんなものを見せられてしまったら、観客への精神的ダメージがとんでもないことになってしまうのも事実。提案した身が言うのも何だが、こんな展開は私は「絶対に」見たくない。

だがこういう作風の作品ならば、こういったドギツイ描写があっても良かったんじゃなかろうか……と、ふと思った訳である。


普段私は邦画をほとんど観ないのだが、今作は前々から妙に惹かれていて気づいたら劇場まで足を運んでいた。「ごめん、正直邦画ナメてたわ、本当にすまん」とアポロジャイズせざるを得ない程の表現力には素直に脱帽である。

更に更に、今作を手がけた藤井道人監督の最新作『最後まで行く』が5月に公開されることも決定している。今作を通して、間違いなく藤井道人という男にハマりつつある私……これはもしや、邦画が再び世界へはばたく日が到来するのだろうか。今後に期待大だ。

それではまた、次の映画にて。

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