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映画#93『秒速5センチメートル』

『秒速5センチメートル』
(”a chain of short stories about their distance")

監督・脚本・原作・撮影・編集:新海誠
出演:水橋研二、近藤好美、尾上綾華、花村玲美、水野理沙、他
製作会社:新海クリエイティブ、コミックス・ウェーブ、コミックス・ウェーブ・フィルム
配給会社:コミックス・ウェーブ・フィルム
公開:2007年3月3日
上映時間:63分
製作国:日本

Wikipediaより引用

【あらすじ】
互いに思いあっていた貴樹と明里は、小学校卒業と同時に明里の引越しで離ればなれになってしまう。中学生になり、明里からの手紙が届いたことをきっかけに、貴樹は明里に会いにいくことを決意する(第1話「桜花抄」)。やがて貴樹も中学の半ばで東京から引越し、遠く離れた鹿児島の離島で高校生生活を送っていた。同級生の花苗は、ほかの人とはどこか違う貴樹をずっと思い続けていたが……(第2話「コスモナウト」)。社会人になり、東京でSEとして働く貴樹。付き合った女性とも心を通わせることができず別れてしまい、やがて会社も辞めてしまう。季節がめぐり春が訪れると、貴樹は道端である女性に気づく(第3話「秒速5センチメートル」)。

映画.comより抜粋

桜の花が秒速5センチメートルで落ちる頃、
僕らの距離は果たしてどれ程縮まったのだろうか。


近年超大作を連発し今や日本を代表するアニメーターの1人となった新海誠監督。そんな彼がかつて描いた、残酷なほどに流れ行く時の中ですれ違う男女の物語。

早速、至極表面的な感想となってしまうのだが、今作は「抒情的展開」……所謂「激エモな展開」にこれでもかと満ち溢れた作品だと言える。

それは「雪と寒風が吹き荒ぶ銀世界」だったり、
或いは「夕焼けが照らす真夏の田舎道」だったり、
或いは「陰鬱な雨が降り頻る東京の街」だったり……

それらに加えそれぞれのシーンに応じて登場人物の心情等が重なることにより、最早致死量ともいうべき「エモい」が我々を襲ってくる訳である(これに関しては『君の名は』や『すずめの戸締まり』にも言えたことではあるが)。名古屋旅行の最終日に我が家にて友人と共に鑑賞したのだが、私に至っては感情が制御できず終始頭を抱えながら画面に食らいついてた。

個人的にはこの「夕焼け×カブ×田舎のコンビニ×片方が片想い中の男女」のコンボにやられた。
感情ガガガガガ……


「抒情的」という言葉をそのまま映画にしたかのような今作、さぞかし中身は純愛に満ち溢れたラブロマンスなのだろう……だがしかし。答えは断じてNOだ。むしろロマンスだと思わせておいてロマンスのRの字も無い、言うなればただひたすらに「現実」に即した作品だと言える。

あらすじにもある通り今作は3本の短編をまとめて一つの物語として仕上げており、それぞれ
「貴樹と明里の再会」
「貴樹へ永遠に叶わぬ恋心を抱く花苗」
「貴樹たちが辿る運命」
を描いている。

中学2年生の頃に明里と再会した貴樹、以降彼は明里への真っ直ぐすぎる想いを募らせていた。そう、彼はあまりにも純粋すぎたのだ。想い人への恋情も、あの日空を眺めて思い描いた夢も、その全てが。だからこそ、第3話にして最終話……「秒速5センチメートル」がブッ刺さる。夢も恋慕も、時の流れにより失ってしまった彼の姿を見ると、なんとも居た堪れない気持ちになる。

だが忘れること勿れ、これが「現実」なのだ。新海誠はただ「胸が苦しくなる映画」として今作を作ったのではなく「ラブロマンスなんて夢見るなよ、これが現実なんだよ」と我々に諭すために作ったのだろう。これが私が「ロマンスのRの字もない」と揶揄した理由である。


私と共に今作を鑑賞した友人は、「いつから主人公の運命は決していたんだろう」という疑問に対し「明里への手紙が風で飛んでいってしまった瞬間」と答えた。

伝えたい言葉を伝えることができなかった、伝えなかった。そしてそれは明里も同じで、彼女もまた手紙を貴樹に渡すことができなかったのである。なんとも切ないが、その時点で彼らの運命は定まっていたのだろう。どう足掻こうが出会うことはない、結ばれることもない、そんな運命に。

私としては「2人が初めて会った、その時から既に結末は決まっていた」……なんて無粋なアンサーが浮かんだが、2人の行く末を決めつけた決定的瞬間として一つ思い浮かぶ場面があるとすれば、それは「あの日、明里と再会したこと」だろうか。

貴樹と明里が面と面を向けて言葉を交わしたのはあの日だけであり、2人の想いが交わったのは劇中においてもあの日が最初で最後だ。雪が降り積もる中、大きな木の前でキスを交わした……あの出来事だけが、2人が後にも先にも体験し得る「2人の距離が最も近付いた時間」だったのだろうと私は思う。受け入れ難いが、これもまた血も涙もなくただただ冷徹に決めつけられた「現実」なのであろうと私は思う。


ちなみに、その友人は今作を観たのはこれで2回目なのだという。初めて観たのは中学2年生、深夜の布団の中。曰く「深夜に観るこれと『言の葉の庭』はエモすぎてボロ泣きした」とのこと。

まぁ「結末に救いがない、観ていて切ない」という観点で言えば、確かに今作を観て涙をボロボロ流す人は続出しそうではあるが……私は悲しさよりも胸の苦しさが勝ってしまった。今でもシーンの随所随所を思い返すと、胸がキュッと締め付けられる……。

今や新海誠は、所謂「ディザスター×ラブコメディドラマ」をたくさん世に出している訳だが、一度こういったバッドエンド(或いはトゥルーエンド)的な物語をやってみてほしい感はある。

『すずめの戸締まり』でのレビューでも述べた通り作画に関しては現実と見間違えるほどに完成度が高いのだから、これによる「抒情的シーン」への相乗効果も望めるのではないかと個人的に思っていたりする。

それではまた、次の映画にて。

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