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映画#112『ラ・ラ・ランド』

『ラ・ラ・ランド』(”La La Land”)

監督/脚本:デイミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、ジョン・レジェンド、ローズマリー・デウィット、J・K・シモンズ、他
音楽:ジャスティン・ハーウィッツ
製作会社:サミット・エンターテインメント、ブラック・レーベル・メディア、TIKフィルムズ、インポスター・ピクチャーズ、ギルバート・フィルムズ、マーク・プラット・プロダクションズ
配給:サミット・エンターテインメント(米国)ギャガ/ポニーキャニオン(日本)
公開:2016年12月9日(米国)2017年2月24日(日本)
上映時間:128分
製作国:アメリカ合衆国

Wikipediaより引用

【あらすじ】
夢を叶えたい人々が集まる街、ロサンゼルス。映画スタジオのカフェで働くミアは女優を目指していたが、何度オーディションを受けても落ちてばかり。ある日、ミアは場末の店で、あるピアニストの演奏に魅せられる。彼の名はセブ(セバスチャン)、いつか自分の店を持ち、大好きなジャズを思う存分演奏したいと願っていた。やがて二人は恋におち、互いの夢を応援し合う。しかし、セブが店の資金作りのために入ったバンドが成功したことから、二人の心はすれ違いはじめる・・・。

Filmarksより抜粋

※画像は全て映画.comのものを使用しております。

水綿

2010年代を代表するミュージカル映画として、真っ先に思いつく作品の一つはやはりこれ。

「ミュージカル映画」という一つのジャンル。ではそもそもミュージカル映画とは何か?何を以てその映画をそう定義づけるのか?その疑問に全て答えるかの如く、ミュージカル映画の「全て」を詰め込こんだ。そんな作品だと私は思っている。

手掛けたのは『セッション』で一躍注目を集め、最近では『バビロン』を公開したデイミアン・チャゼル監督。そんな彼の相棒的存在、ジャスティン・ハーウィッツが劇中の作曲を担当。

煌びやかなハリウッドの世界と、甘く切なくほろ苦いラブストーリーに、全世界が魅了され爆発的大ヒット。第89回アカデミー賞では『タイタニック』に並ぶ、史上最多14部門ノミネートを果たし6部門を受賞した。



ミュージカル映画ということで、物語の随所随所に歌唱曲が挿入され、それに合わせて登場人物たちが歌い踊る。

「物語と歌」、これら二つが合わさることによってドラマ性が強調されるのだが、数ある歌唱シーンの中でも私が特段気に入ったのはオープニング……それも本編とはあまり関係ない「これから物語が始まるよ〜」という、物語の導入部分としてのオープニング。

渋滞真っ最中の高速道路、車からは苛立ちのクラクションと、オーディオから流れる音楽が響き渡り、やがてどこからか軽快なピアノの音が響き出し……。

車のクラクションというありふれた「音」から徐々にボルテージが上がっていき、最後には高速道路全体を巻き込んだ壮大な「大音楽」と成ってゆく。そこに楽しげに踊る人々の嬉々とした表情が加わり、観ている我々の顔にはいつの間にか笑顔が、或いは涙が現れて……。

かくいう私も「これエンディングじゃないの?」と思うほどにのめり込んだし、今ではこのシーンで使用された楽曲『Another Dαy Of Sun』を聴くだけで涙腺が若干緩んでしまう。

断言しよう……これは私が今まで観てきた映画のなかで最高のオープニングである、と。



女優を志すミアと、自分でジャズ・バーを開くことを目指すセブ。輝かしい「夢」を抱きつつも中々実現することのできない、そんな2人が互いに惹かれあっていき、やがて恋に落ち……。

一見すると既にネタとしてやり尽くされたラブストーリーに見えるだろうが、今作のラブロマンスのミソとなるのはこれまた「夢」という概念である。紆余曲折を経てセブは「客観的に見れば」成功を収めるのだが、それはかつてセブが望み、ミアに語った「夢」の姿ではなかった。これにより2人の間に亀裂が生じ始め、最終的には互いに別れを告げることとなってしまうのだが……。

「夢」によって惹かれ合った彼らが「夢」によって別れを余儀なくされる、というのは何とも皮肉めいた結末だ。最高にポジティブかつ軽快なオープニングから始まったにも関わらず「ここまで現実見せてくるのかよ!!泣」と喘ぎ苦しんだ方々はさぞ多かろう……。

永遠に別れを告げることとなった2人、だが結果的にミアは女優になるという夢を、セブは自分の店を持つという夢を叶えている。これはハッピーエンドなのか、或いはバッド(トゥルー)エンドなのか?その真偽は、我々観客がジャッジすべきだろう。



ハリウッドという舞台、夢を叶えるために奔走し惹かれ合っていく男女2人、「夢を追うは良いが現実も見ろ!!」と訴えかけるようなストーリー、もっと厳密に言えばトランペットの穴に吸い込まれるようなカメラワーク。やはり『バビロン』は今作の要素を多く引き継いでいるなと再確認。同じ監督なんだからそりゃそうだという感じではあるけれども。

また現代のハリウッドが舞台なのにも関わらず、美術や映像などは80〜90年代を彷彿とさせる、いわば「そことなく散りばめられた古めかしさ」もまた、今作と『バビロン』を結びつけるピースの一つなのではないかと思っている。映像表現が下品が上品かに関しては100%差別化されるに違いないが。

最後のシーンでは涙をボロボロと流した人が続出したそう。だが私は「これ全部妄想なんだろうなぁ」と謎に達観していたが為に涙が出てくることはなかった。何ならオープニングの方が感傷的になれたまである。やはり私の涙腺は死んでいるのだろうか……『タイタニック』の時もそうだったが。

とはいえ、真っ暗な部屋に1人で今作を観た為に、終わった後の余韻は凄まじく……その直後にコップを床に落とし盛大に割ったというのを除けば、最高の映像体験を体感することができたと胸を張って言える。

台所にコップや皿を持って行く時は十分気をつけてね。じゃないと心が完全に折れた時のミアみたいになるから。

それではまた、次の映画にて。

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