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映画#143『最後まで行く』

『最後まで行く』(”Hard Days”)

監督:藤井道人
原案:キム・ソンフン『最後まで行く』
出演:岡田准一、綾野剛、広末涼子、磯村勇斗、駿河太郎、山中崇、黒羽麻璃央、駒木根隆介、山田真歩、清水くるみ、杉本哲太、柄本明、他
制作会社:ROBOT
配給:東宝
公開:2023年5月19日
製作国:日本

Wikipediaより引用

【あらすじ】
年の瀬の夜。刑事・工藤(岡田准一)は危篤の母のもとに向かうため、雨の中で車を飛ばす。 心の中は焦りで一杯になっていた。 さらに妻から着信が入り、母が亡くなった事を知らされ言葉を失う。 ——その時。彼の乗る車は目の前に現れた一人の男をはね飛ばしてしまった。 必死に遺体を車のトランクに入れ立ち去る。そして母の葬儀場に辿り着いた工藤は、車ではねた男の遺体を母の棺桶に入れ、母とともに斎場で焼こうと試みた。 ——その時、スマホに一通のメッセージが。 「お前は人を殺した。知っているぞ」 腰を抜かすほど驚く工藤。 「死体をどこへやった?言え」 メッセージの送り主は、県警本部の監察官・矢崎(綾野剛)。 追われる工藤と、追う矢崎。果たして、前代未聞の96時間の逃走劇の結末は?

Filmarksより抜粋

画像出典:映画.com

2014年に韓国で公開され記録的なヒットを叩き出した『最後まで行く』を、『ヴィレッジ』『余命10年』の藤井道人監督がリメイク。岡田准一、綾野剛を主要キャストに迎えた。


年末だというのに人を轢いてしまい遺体の隠蔽のために奔走する刑事・工藤と、そんな工藤を捕まえることに執着する監査官・矢崎の戦いを描く今作。

前半は工藤があの手この手を駆使して遺体を隠そうと試みるブラックコメディ的なストーリーが展開。死んだ母の葬儀、闇金に手を染めた署内への監査、その他家族問題諸々に追い詰められる工藤、だが今はそれどころじゃないこの遺体をどうにかして隠さなければ!!!と緊迫感のある展開が連続する。挙げ句の果てには母の遺体と共に轢いた遺体も棺桶に入れて一緒に火葬する、などというモラル皆無の手段に走り始める工藤は良くも悪くも魅力的なキャラクターだ。

だがそこへ氷点下レベルの冷水をぶち込んでくるが如き冷徹な監査官・矢崎が登場。こういう正義の立場に立っていながらもどう見ても激ヤバな、一種のサイコパス的なキャラクターはとっても好みだ。普段は冷静を装っているが、時々苛立ちから顔を一瞬だけ顰める瞬間は印象的。無表情と細めた目の奥に隠された激情の正体とは何なのか………今作における主人公は工藤だが、この矢崎もまたもう1人の主人公と呼んで差し支えないだろう。


コメディ要素多めだった序盤に対し、中盤以降は事の経緯や工藤が知らず知らずの内に巻き込まれた陰謀・事件の詳細が語られる。

ここで明かされるのは、矢崎もまた工藤と同じく追い詰められていたということ。工藤が「今はそれ(葬式)どころじゃねぇ!!」状態であるのと同様に、矢崎もまた「今はそれ(結婚式)どころじゃねぇ!!」状態。しかもターゲットにまんまと嵌められ、更にそのターゲットは工藤が車で轢いた人物であり工藤は死体隠蔽の為にターゲットの遺体を持ち去ってしまったのである。

どちらも「マズい男」であり「ヤバい男」だったという。

もしターゲットを取り戻すことができなかったら、幸せな家庭も何もかも全て奪われてしまう矢崎………だがそれは、奇しくも工藤とて同じことだった。対極にいると思われていた2人だったが、実は同じ穴の狢だったということが明かされるここのシークエンスは、ある意味非常に衝撃的だ。


経緯は別として、それぞれ別の形で徐々に窮地へ追いやられていく2人。ラストはキャッチコピー通り、工藤と矢崎の最後の戦いへ。しかし工藤は娘を取り返し、人を撥ねたことに関しても無罪を証明することができる。一方矢崎も雇い主であった義父を殺し、一切のしがらみから解放されているはずだった。

もう2人が争う理由など無いハズ………だが彼らの目の前にあるのは、人生を1発で逆転できるほどの「大金」。そこから離れたくても離れられない、仙葉のいう「砂漠のトカゲ」同士である彼らは、ただただ争い続ける。

それが「砂漠から抜け出す」という己が欲望を賭けた戦いなのか、或いは既に仕組まれていた運命なのか………最終的に砂漠でのたうち回り続け、共倒れの運命を辿ることとなった2人。最後に漁夫の利を得ることとなったのは、まさにことの全てを仕組んだ仙葉だった。


しかし忘れてはならないのは、今作のタイトルは『最後まで行く』。恐らく永遠に終わらない「最後」に行くまで、2人は戦い続ける運命にあるのだろう。果たして韓国版の原作がどういう結末を迎えたのかは分からないが、「ある意味」今作のタイトルに相応しいラストシーンだったと言えるだろう。

果たして工藤に「良い年」は来るのだろうか?だがその答えは………残念ながら分かりきっている。

それではまた、次の映画にて。

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