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映画#14『ダークナイト』

これを超えられるバットマンの作品はこの先中々出ないだろう。
それほど完成された「バットマン」だ。

作品概要

ダークナイト
(原題:”Dark Knight”)

監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン、ジョナサン・ノーラン
原作:ボブ・ケイン、ビル・フィンガー『バットマン』
出演:クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン、ヒース・レジャー、ゲイリー・オールドマン、アーロン・エッカート、マギー・ジレンホール、モーガン・フリーマン、他
音楽:ハンズ・ジマー、ジェームズ・ニュートン・ハワード
製作会社:ワーナー・ブラザーズ、レジェンダリー・ピクチャーズ、シンコピー・フィルムズ
製作国:アメリカ合衆国、イギリス
配給:ワーナー・ブラザーズ
公開:2008年7月18日(米国)
上映時間:152分


暗黒の騎士と混沌の使者、正義と悪の対立

前作『バットマン ビギンズ』の続編である今作は、バットマンの宿敵とも呼べるヴィラン「ジョーカー」が登場。圧倒的な悪のカリスマ性と無限の狂気を持ち合わせた彼は、ゴッサムシティを恐怖に陥れた。ゴッサムの影の守護者たる存在のバットマンは、絶対悪にどう立ち向かうのか…というお話。

数あるバットマンの映画作品の中でも一際高い評価を得ている今作だが、その評価の要因の一つとして「正義と悪の在り方」というテーマがある。作中では主人公であるバットマンゴードン警部補(作中では昇進して本部長に)、ハービー・デント、そしてジョーカーの四人を主軸に物語が展開されていく。もちろんジョーカー以外の3人は「正義」、ジョーカーは「悪」として描かれる訳だが、この内バットマンとハービーは「悪」に堕ちてしまう。というのも、ゴッサムの「光の騎士」たる存在のハービーは、愛人(でありブルース・ウェイン(バットマン)の幼馴染)のレイチェルを亡くし、ジョーカーに唆される形でヴィラン「トゥーフェイス」となってしまう。ジョーカーは作中マフィアを乗っ取ったり、実際に市民を殺害するビデオをTVで流すなど様々な凶行を執り行ってきたが、彼の真の狙いは「完全正義の象徴たるハービーが悪に染まることで起こるゴッサム市民の絶望」だったのだ。ゴードンの家族を人質に取ったハービーは結果としてビルから転落し死亡してしまうが、ハービーを「悪」としてではなく「正義」として、即ち「ゴッサムのヒーロー」として後世に語り継がせるために、バットマンは彼の罪を負い逃亡する。最後にゴードンが「彼はヒーローじゃない。沈黙の守護者、我々を見守る監視者。”暗黒の騎士”(ダークナイト)だ。」と呟き、物語の幕は閉じる。

この「正義と悪の対立」という構図は作中一貫して存在しており、上記で挙げた四人だけでなく物語終盤でフェリーに乗った「囚人たちと市民たち」もその対比構図に含まれる。しかし、そのどれもが「どちらかの勝利」に偏ることなく片付いているのも特徴的だ。ジョーカーの思い通りにさせないべく、自身がハービーの罪を被ることで物語に幕が降りたのも、決して「正義」の勝利とも「悪」の勝利とも呼べないものだ。だがここまで綺麗に対比を一貫して表現しきったあたり、それこそクリストファー・ノーランだとも言うべきだろう。


最早狂気という枠を超えた「ヒース・レジャー/ジョーカー」の演技力

さてさてお待ちかねの、今作のヴィラン「ジョーカー」について。
演じたのは「ヒース・レジャー」。この役を演じるために、彼はホテルに1ヶ月籠りジョーカーの笑い声やキャラクター像を身に染み込ませていたという。
そんな彼が演じたジョーカーは、最早「狂気」という言葉では言い表せないほどだった。消えかけの白塗りのフェイスペイントで、切り裂かれた口の傷をぐにゃりと歪め高笑いする姿は、到底演技とは思えない代物だった。「もしやヒースは過去に実際に人を殺めた経験があるのではないか?」と思えてしまうほどに。

『バットマン』(1989)ではジョーカーを『シャイニング』で有名なジャック・ニコルソンが演じたが、彼とはまた違った狂気的な演技が高く評価され、アカデミー、ゴールデングローブ、英国アカデミーの助演男優賞を総ナメした…のだが、惜しくも彼は今作の上映前に急性薬物中毒で亡くなってしまった。誠にお悔やみを申し上げます。

また今作におけるジョーカーのキャラクターというのは、良くも悪くも後世に大きな影響を与えた。2019年公開のホアキン・フェニックス主演『ジョーカー』では大ヒットを記録したが、『ダークナイト』におけるジョーカーの影響も大きい。
一方、続編『ダークナイト ライジング』が上映された映画館で「オーロラ銃乱射事件」が発生。犠牲者12人、負傷者59人という凄惨な事件となってしまった上、容疑者は逮捕される際に自身を「『ダークナイト』のジョーカーだ」と名乗った。

確かに「ジョーカー」は魅力に溢れたキャラクターだ。だがその魅力の裏には、こうして現実の人物をも魅了してしまうある種の「危険性」がひめられている。今後もジョーカーはあらゆるバットマンの作品で登場していくと思うが、二度とこうした悲劇が起こらないことを祈るばかりである。


総評

冒頭でも述べたが個人的にこれを超えられるバットマンの映画作品はないんじゃないかと思っている。何せバットマンの作品には必要不可欠な「謎解き要素」「ブルース/バットマンの葛藤」「殺陣シーン」が全て丁度良い塩梅で詰まっているのだ。そこに最早芸術的ともいうべき悪役が出ているのだから、完成度で言えば今作は完璧と揶揄しても良いものだろう。

また今作はクリストファー・ノーランの出世作としても有名だ。
当時世界に4台しかなかったIMAXカメラを使用し、30分ほどのシーンを撮影したが、その過程で1台をぶっ壊してしまった逸話は有名。また劇中で病院を爆破するシーンではCGを使用せず、なんと実際に建物を爆破して撮影に臨んでいる。このような取り組みが後に『インセプション』や『ダンケルク』などのノーランを代表する作品につながったと考えると、今作が如何に偉大なのかが分かるだろう。

それではまた『ダークナイト ライジング』の記事にて。


参考文献↓


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