文明社会を享受しろ

何でこんなことになっているのか。何故俺は春の雪解けと共に南下してきた混沌の戦士達と開けた平原で相対しているのか。何故、俺の隣のエルフらしからぬ筋肉女は楽しげな笑顔を浮かべているのか。何故俺は《鎧不の誓約》など立ててしまったのか。何故俺は真なる銀の銀糸で編まれた長フンドシなどはためかせているのか。何故俺は仰々しい傭兵団の紋章をモチーフにした槌矛など握って立っているのか。

何故神様は俺を異世界転生させるのに手土産ひとつくれなかったのか。外国人にIsekai trash 呼ばわりされようがネットで批判されようが、チートの1つも欲しかった。古式ゆかしいニコポ、ナデポ、2000年代に流行ったアニメのようなパワが欲しかった。

 

「よぉ。興奮してきたな」彼女が言う。

「ちょっと何言ってるか分かんないですね」

 

嘘だ。俺も興奮している。戦の熱に浮かされている。オークの俺が文明社会の側で戦うおかしさに思わず笑いがこぼれた。

 

【続く】

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