新米先生の私が怖がっていたクラス懇談会。楽しみになったのは?お母さん方の素直な言葉をきっかけに‥
幼稚園で働き始めたばかりの春。
初めてのクラス懇談会が近づいてきた。
それまでも保護者の方それぞれに会って話したり、連絡帳でやりとりをしたりと個々に会話はあった。でも、クラス懇談会はわけが違う。部屋にずらりとお母さん方が一斉に集まり、半円を描くように並んで座る中で、ポツンと私が向かって座る。
幼稚園の先生になってまだ2ヶ月。担任も初めて。出産も子育ても経験なし。
当日集まってくださるのは、全員子育ても人生も先輩方。そして、クラスの子1人1人の事をよく知っているのは完全にお母さん方に決まっている。
まだ何も。何も分かっていない。新人の担任。
唯一想像して分かることは、
『お母さん方が1番、担任が私なんて心配されているだろうな‥。』ということ。
‥怖い。皆さんの前に座るのが怖い。
司会ってどうやるの?皆さんの前で会を仕切るなんてそもそもできるのか‥😭
緊張のまま迎えた当日。
まずは私が自己紹介。次にお母さん方にも順番に簡単な自己紹介をして頂き、クラスの様子を伝える。
そしてこの時間が近づいてしまう。
自分で聞いておきながら答えられるのか!?と矛盾を抱えながら問いかける。
『何かご質問などはありますか?』
確か一つは答えて、もう一つはこの先にある行事の内容だった。まだ未経験で、職員会議でもまだ出ていない内容だ。正直その場で私は分からなかった。
【バシッと答えられない格好悪さ】と、
【分かった風で不確かな情報を伝えてしまう不誠実さ】
を、心の中で一瞬迷ってしまう私の弱さ。
結局、『一度確認してからお伝えさせてください。』と言うので精一杯だった。
その方は『はい。よろしくお願いします。』と優しく答えてくださった。
でもきっと、『あ〜、やっぱり頼りないな。』と皆さんに思われただろうなと落ち込みながら会は終わった。
ほろ苦い新米教師の懇談会デビュー。
それから一年後。私はその初めて受け持ったクラスを持ち上がりで年長も担任をさせてもらう事になった。
あれから1年経ち、保護者の方との距離も少しは近づいてはいたけれど、
『また同じ先生か‥。』と思われてるかもなぁ‥という気持ちもありながら、やっぱり苦手な懇談会に臨む。
例のごとくクラスの様子を話し終えてから、
『何かご質問などはありますか?』と聞く。
すると、あるお母さんが手を挙げておっしゃった。
『すみません。個人的な事なんですが‥うちの子、最近家で片付けをしなくなってきたんです。前までは張り切って片付けるような子だったのに‥。言えばするんですけど‥。だらしなくなってきたような。他にも今まで素直に返事をしていた事も『はいはい〜。』って適当になったりして、幼稚園でもそんな感じなのかなってちょっと気になって‥。』
今までにない話題だった。
質問といえば、園に対してやクラスについてしか聞かれた事がなく、一瞬びっくりした。が、皆さんの前で手を挙げて伝えてくださった事に対して、そのお子さんの顔を思い浮かべたら、用意はしていなかったが、言葉がパッと出てきた。
『ありがとうございます!〇ちゃん、お家でそうなんですね!? 幼稚園ではどちらかというと控えめだった〇ちゃんが、年中さんの終わりぐらいから友達も広がったり、笑顔が増えてきたなと思っていました。年長さんになってまだ少しですが、この前は朝のバスから降りる時に、自分もカバンやズックで荷物がいっぱいなのに、同じように荷物がいっぱいでなかなか前に進めない年少さんの子を見て、〇ちゃんが何も言わずそっと荷物を持ってあげたんです。○ちゃんも荷物がさらに増えて大変そうで私も迷ったんですが、〇ちゃんがその子のクラスまで持って行こうと頑張っていたので、後ろで待つことにして。届け終わって『〇ちゃん、ありがとうね。〇ちゃんも荷物でいっぱいだったのに、もっといっぱいになっても手伝ってあげたんだね。』って話しかけたらすごく照れくさそうで。『じゃあ、次は先生が〇ちゃんのお手伝いね。』ってカバンを半分ずつ持って一緒に階段を昇ったんです。〇ちゃん本当に優しいですよね。』
するとお母さんは
『そんな事してたんですね!家ではもう少ししっかりして欲しいと思ってたので、ビックリしました。』とおっしゃった。
『年長さんになって、〇ちゃんの中で、外の世界で周りをもっと見れるようになったり、しっかり頑張ってる分、お家ではゆったりしてる面もあるんですかね?でも、外の世界で誰に言われた訳でもなく、自分で誰かの為に動けるってすごいですよね。』
『家ではまだまだ小さいからと思って‥外でそんな風にしてるって思ったら、ちゃんと成長してるんですね。』
『成長してると思います!ちなみに、園ではお片づけ、相変わらず張り切ってしています!』
と話すと、
『そうなんですか!?じゃあ、家だけしないのね‥。』
とお母さんが言った途端、他のお母さん方が話し出す。
『一緒、一緒〜!』
『分かるわ〜!』
お母さん方から声が上がる。
その中の1人の別のお母さんが続けて言った。
『うちなんて、お兄ちゃん達に揉まれてるから、既にたいがいの事言うこと聞かないし。怒ってばっかり。だから先生にも迷惑かけちゃってるかなって。』
『そんな事ないですよ!クラスでは、みんなの事を引っ張ってくれる所があるので、その分面倒見が良い所もあって。誰かがクレヨンを丸ごと落とすと、1番にいつもどこからでも駆けつけてくれますよ。』
『あっ!それはちょっと想像つきます!』
『でも‥実は甘えん坊な所もありますよね?そのギャップがまた可愛いんですよね。』
『そうなんですよ!だからこの前、先生の背中におんぶみたいにくっついてるのをたまたま見てビックリして。あんまり外でそういう事しないから‥。先生に甘えられるんだなって。』
『でも、1番に来るとかじゃなくて、周りの様子を見てから今ならいけるか!?ってだいたいいつも3.4番目位に来ます。』
そこまで話したら、お母さん方がみんな笑っていた。
気づいたら、懇談会の終了予定時刻が過ぎていた。
『皆さん、すみません!時間が延びてしまって。幼稚園での子ども達の様子、まだまだ話し足りないですが、今日はこれで終わりになります。
最後に‥ 今日はお子さんのお家での様子をお聞きして、私自身まだ知らないお子さんの姿を知る事ができました。嬉しかったです。これからもぜひどんどん教えてください。私も園での様子をお伝えして、お子さんの事を共有できたらいいなと思います。』
翌日。
懇談会中に発言が無かったあるお母さんからお便りをもらった。
『昨日の懇談会、ありがとうございました。うちの子は他の子に比べておとなしすぎると悩んでいました。活発な子が羨ましいと思っていました。でも、活発な子のお母さんにも、そのお母さんなりの悩みがあるんだと知りました。また、その活発な子にも意外な一面がある事も初めて知りました。懇談会の帰り道に、他のお母さんから『00ちゃんはいつもどんな感じ?』と声をかけられ、『うちはおとなし過ぎて、心配で‥。』と言うと、他のお母さんが『でも、00ちゃん絵がすごく上手ってうちの子が言ってたよ!』と教えてくれました。そんな風に話してくれてるんだと嬉しかったです。』
あぁ‥こういう事だったんだ。
もちろん、園全体やクラス全体の事を伝える事は大切。でも、人生も子育ても先輩の保護者の皆さんに緊張しすぎて、怖さが先立って、1番大切な事を置いてけぼりにしてしまっていた。
1番は『子ども1人1人を大切に。』
目の前のその子にとって何が今1番大切か。
子ども達の、自分で伸びていこうとする力はすごい。
そこに自分はどんなお手伝いができるか。
そのために、お家の方と話して、今のその子の様子を一緒に受け止める。立派なアドバイスは出来ないかもしれないけれど、一緒に考える事は今からでも出来るかもしれない。協力できるかもしれない。
お母さん方に大切な事を教わって、
子ども達にも、保護者の方へも、
向き合い方が見えてきた出来事だった。
読んでくださりありがとうございます!頂いたサポートを励みに頑張ります!