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フィルムカメラの時代に

【自分史の切片としてのカメラ機材 #2】
就職して給料を得るようになっても、おいそれと高級カメラを買う余裕はなかった。初任給から家計費を負担しなければならなかったから。それでもなお欲しかったのはクルマとカメラだ。クルマははるかに手が届かない。カメラならなんとかなる。
ちょうどニコンF2が発売された頃だ。しかしF2は高すぎる。買ったのはニコマートFTn。お定まりの50mm F1.4付。会社で仕事に使っていたのがニコマートFTnだったことも影響したかもしれない。
しかし、数年後の77年にニコンFMが発売される。より現代的なデザインでしかも軽いというので、ニコマートを友人に押しつけて(売って)FMを買った。
ところが、どこが悪かったか忘れてしまったが不調が生じて、当時も新宿にあったニコンサービスセンターに持ち込んだら、故障個所不明と返ってきた。そんなはずはない、と詳細なレポートをつけて再度持ち込んだ。何日か後、課長という名刺を持った方が、新宿住友ビルにあった勤め先まで、わざわざ修理済のカメラを届けてくれた。そのときの応接室のイメージがなぜか記憶に残っている。
「軍艦部を全取っ替えしましたからもう大丈夫です」。「軍艦部」という用語をそのとき初めて知った。お詫びにと、コダクロームを数本くださった。当時コダクロームは高価だった。そんなこんなで、いまもFMが手もとにある。数年前にもニコンに預けて調整してもらったので、露出計を含めて機能は問題ない。
最近Zfcというカメラがニコンから発売され、私もすぐに発注した。そのZfcはFM2をオマージュしているとか。どうしてFMじゃないのか?と少々気に入らない。こちらがオリジナルじゃないか。
ニコンのカメラは無印モデルが発売されてしばらくすると、「2」とか「S」という記号がついた改良版が発売されることが多い。それで何回か「痛い目」にあった。それについては後に書くことになるだろう。

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FMの次に買った一眼レフは中古のニコンF4。FMの30年後である。そこまでにフィルムのコンパクトを何台か購入しているが、それらは次回に。
FMを買って、しばらくは写真に熱中していた。あちらこちらに撮影に出かけた。出張のついでに寄り道して写真をとることもあった。木村伊兵衛や当時新鋭だった北井一夫をイメージしていた。それはいまも変わらない。
モノクロだけだが、現像や引き伸ばしも始めた。深夜、木造家屋の台所に暗幕を引き回して暗室とした。年賀状もハガキの印画紙にプリントした。リスフィルムに焼いて、一瞬光を当ててソラリゼーションに挑戦したりもした。
それほど熱心だったのに、いつしか写真から興味を失っていった。ほかに趣味がいろいろできたことや仕事に神経を使わざるを得ない環境になったことなどが理由と言えば理由だろうか。

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そしてF4である。知人が写真をプロに習っているという話を聞いたのがきっかけだった。何十年かぶりで写真やカメラに関心を向けたそのとき、すでに主流はデジタルカメラになっていた。知識としては知っていたが、実感したのはこのときである。
似たような経験を持っていた。30歳になろうというとき、体力の低下に気づいて国立競技場のトレーニングセンターに通うことにした。何年ぶりかでスニーカーを買った。ナイキのナイロン製。履いてみたら、その履き心地のよさに驚いた。夢のような心地という表現が大袈裟ではなかった。数年のうちにスニーカーはこんなに進歩していたのか。
改めてネットでいろいろ調べていたら、かつてのフラグシップフィルム機の中古が驚くほどの低価格で手に入ることがわかった。これなら買えるとうれしくなった。F4が歴代ニコンフラグシップ機の中で最も人気薄であるとは知らずにヤフオクで落札した。手に入れてはみたものの重くて重くて、数回撮影に持ち出しただけで、防湿キャビネットのなんとかになっていまに至っている。
F4を手に入れてよかったこと。それはニコンの一ケタ機に対する呪縛が解けたことだ。F2やF3には多少興味はあるけれど、食指はまったく動かない。

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F4の後だったと思うがライカM6を銀座教会のレモン社で50mmのズミクロンとともに購入した。いまの価格と比べればだいぶ安かった。
会社員時代、元商業カメラマンという経歴を持つ部下がいた。この男は偏狂的な骨董マニアでもあるのだが、「ライカなら何がいいかなあ」と尋ねたら、しばらく首をひねったあとで「M5はどうですか」と答えた。それから何年も、ライカを買うならM5と心に決めていたのだが、いろいろな雑音が耳に入ってきて、ライカならM3の評価が高いことを知った。迷いながらさらに何年かが過ぎた。ようやくライカが買える環境に恵まれたとき、骨董的価値より楽しんでライカで撮影した方がよいと思い至った。露出オンチなので信頼できる内蔵露出計もほしい。それでM6に落ち着いた。
上の写真のカナダ製8枚玉ズミクロン35mmはヤフオクで、いまの相場からは考えられないリーズナブルな価格で落札したもの。その後、日暮里にあったライカ専門の修理店で見てもらったが、何も異常はないと言われた。

〈#1へもどる #3へつづく

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