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匿名のラブレター

私には秘密がある。
誰にも言えない、言ったこともない。
消そうとしても消えない大切な秘密。

中学生の時に私は少女漫画にハマってしまった。
特に「君に届け」は恋愛のバイブルだと今でも思っている。
こんな彼氏ができたらいいなぁ。
爽やかなイケメンと付き合いたいなぁ。
そんな乙女な気持ちを持っていた私はある人に恋をした。

足が速い、勉強もできる、好みの顔、優しい性格、笑顔。
全部が好きになってしまった。
恋の自覚をしたのは席が隣になった時だった。
授業を真剣に受けている横顔と友達と楽しそうにはしゃいでいる時のギャップに堕ちてしまった。
何をしていても彼のことを考えてしまう。
家では何しているんだろう?
好きな歌手は?
好きな食べ物は?
彼のことをもっと知りたくなっていた。
ちょうどその頃に家で犬を飼うことになったのだが、彼の好きな「ワンピース」のキャラクターの名前を犬につけてしまうほどに恋にのめりこんでいた。

自分の気持ちを伝えたい。
けど、断られたらこれまでの関係も壊れてしまうのではないか。
告白して付き合えたらどんなに幸せか。
そんな葛藤に頭を悩ませる日々だった。

忘れもしない6月28日。
彼に彼女ができたという噂を聞いてしまった。
その噂も事実だということに追い打ちをかけられ、私は人生で初めての失恋を経験した。
その日一日の授業なんて耳を通り抜け、無心のまま帰路についた。
今日は両親も仕事で夜遅い。
私は自分の部屋で泣き続けた。
好きなのに告白しなかった自分を恨み、彼女になった女にさえ憎んだ。
後悔しかなかった。
どれだけ時間を巻き戻したいと考えただろう。
生まれて初めての失恋は心に大きな傷を残し、明日の学校も欠席しようかと考えた。
悩み、後悔し、目を腫らした私は深夜、

「気持ちだけ伝えよう。」

そう決心した。
今更遅いことなんてわかってる。
でもこの気持ちを伝えないなんて嫌だ。
私の恋に気持ちを伝えて、ピリオドを打ちたかった。

何時から手紙を書いたのか分からない。
ただずっと好きだったこと、どこが好きなのか、告白したかった。
自分の気持ちを全て書いた。
届かなくてもいい。
でも、私があなたのことをどれだけ好きだったのか、それだけは知って欲しい。
困るだけ、迷惑、キモい。
彼にはそんな風に思われてしまうかな。
そう思われてもいい。
これが私の覚悟だから。

ラブレターを書き終えた私は倒れるように寝た。
次の日母親に起こされ、学校に行く。
いつもと変わらない日常。
いつもと違うのは鞄の中に少し濡れた手紙があるだけ。
一日の授業が終わり、みんなは部活に向かう。
私は少し遅れて教室を出た。
遠くで部活の声が聞こえるけど、ここは静かな下駄箱。
彼の名前の書いてある扉を開ける。
そこに靴は無い。
私の心のように空っぽになった下駄箱に差出人不明の手紙を置いた。
彼にも誰からの手紙かは分からない。

私だけしか知らない、秘密の失恋が終わった瞬間だった。

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