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「放課後探偵団」相沢沙呼ほか


「俺たちってさ、高校生だよな?」

 唐突に蓮太郎はそんなことを呟く。明日葉はそれを聞いて、やれやれと肩をすくめた。

「……深山くん、青春真っ盛りなこの高校生の時期に彼女どころか女の子の噂すらないからって、現実逃避しても意味ないよ。悲しいだけだよ」

「余計なお世話だ! でも言いたいことはほぼ当たってる!」

「当たってるんかい」

 やぶれかぶれな蓮太郎に明日葉は失笑しながら、ごそごそと鞄を漁って一冊の本を取り出す。

「それに深山くん、高校生=青春、っていう図式そのものがまちがってると思うよ。あたしはこれを読んでそう思ってるところ」

「おお、『放課後探偵団』だ。俺、実はアンソロジーってあんまり読まないから読んでないんだよな」

 『放課後探偵団』は、相沢沙呼や似鳥鶏など、五人の作家が書いた学園推理小説を集めた短編集だ。

「この本、学園推理小説、って書かれてるけどさ、なかには大学生が飲み会をする話だったり、なんなら社会人になってから集まった同窓会の話だったりもあるの。それってさ、『何歳になったって、青春を味わうことはできる』ってことだと思うんだよね」

「じゃあ、どうしたら青春を味わえると思うんだよ」

「それはね、『謎』を解くこと、だよ」

 明日葉はどこか自信ありげに言った。

「どの事件もね、『確かに不思議だけど、解決したら別にもう気にしなくていっか』みたいなくらいのレベルの小さな謎だと思うの。球拾いしてたらボールが一個足りなくなってる、とか、飲み会の途中で何故か急に帰っちゃった、とかね」

「なるほど、それを解き明かした先に青春がある、と?」

「そう。そういう『謎』ってね、誰かの隠してる想いそのものなんだよ。それに向き合って、知ろうとするからこそ、心を通わせるきっかけになる、ってこと。だから、青春ってのはね、『日常で素通りしちゃうようなことに、ちゃんと向き合うことができる人たち』が体験できるもの、なんだよ。わかった?」

「はい……。素晴らしい名言、ありがとうございました……」

「よろしい」

 冗談まじりに頭をかく蓮太郎と、ふざけて腕組みする明日葉だった。

「俺も、ぼーっとしてないで、自分の周りのことにもっと敏感になるべきだってことだよな」

「そう。実は深山くんも、こうして学校に通学していることこそが青春真っ只中なんだよ。というわけで、深山くん」

 そのとき、ばっ、と明日葉が蓮太郎に向かって腕を広げた。

「な、なんだよ」

「実はあたしも、昨日とは違うところがあります」

「へ?」

「どこでしょう? 制限時間は次の駅までね」

「は!? いやいや……、えーと……か、髪切った?」

「違います。マイナス10ポイント」

「なんのポイント!?」

 そこから蓮太郎は、何回も、何回も、明日葉の出した謎を間違い続けるのだった。


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