「未来を紡ぐ」(ひなた短編文学賞応募作品)

「ひなた短編文学賞」応募作品です。
この賞は、原発事故で全町避難となった福島県双葉町の避難指示が解除され、そこに進出した企業が主催した賞という事で、福島の明るいニュースに繋がるかなと思い応募したのですが、受賞しませんでした。内容的には、私小説の部類で、半分本当、半分フィクションのような感じで、1時間ほどでさらっと書いたのですが、その分、自分の素直な心境が現れているのではないかと思います。よかったら読んでみてくださいね。


 「未来を紡ぐ」

 あの日から12年が経った。2011年3月11日の、あの日。東日本大震災。大地震での家の倒壊。津波で流された家や車や…。そして原発事故。放射能。本当に地獄のようだった。それは、天変地異や事故からだけでなく、人々の心からもそう感じられた。福島に残る者、出る者。その間で衝突が起きた。同じ福島県民同士なのに。そして、家族なのに。僕の家でもそうだった。いや、正確に言えば、僕だけだったかもしれない。僕にはとても福島が元に戻るとは思えなかった。そして日々悩まされる放射能に対する不安。僕は一刻も早く福島を飛び出したかった。しかし、親は違った。歳のせいもあるだろうが、それほど危機感が感じられない。国が大丈夫だって言ってるんだから大丈夫だ。そんな感じだった。とても話が合わず、僕は単身、福島を飛び出した。もう放射能で悩む必要はない。福島のことなど忘れ、自分の為に生きよう。そう思ったんだ。それから12年。僕は、大して成功する事はできず、手元には、1冊の本だけが残った。正確に言えば、1冊の本を出した。人生のいざこざに疲れた僕が、自然と書いた児童書だ。何か受賞した訳ではない。小さな出版社に原稿を持ち込んだ所、たった500部だが商業出版で出してくれたのだ。嬉しかった。初めての僕の本。そしてこの事が、僕に福島に帰るキッカケを与えてくれた。故郷に寄贈を申し出た所、図書館と小中学校で受け入れてくれる事になった。当然、親にも顔を合わせる。実に…12年ぶりだ。久しぶりに見た両親の顔は…想像以上に年老いて見えた。12年。みんな歳を取る。僕は年老いた両親の顔を見て、溢れそうになる涙を堪えた。本の寄贈式が開かれ、地元紙に小さく載った。「新人作家デビュー」。僕を知る地元の人たちがどう思ったかはわからない。喜んでくれたのか?それとも「今頃何だ?」と思っただろうか?ともかく、僕は作家の称号を手に入れた。これから、僕は色んな話を紡いで行こうと思う。今までの事、これからの事、そして福島の事を。残り少なくなった両親との時間を大切にしながら。僕は生まれ変わる。自分自身、失われた時間を取り戻すように。再生の物語を、次の物語を、紡いで行きたいと思う。

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