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フランス大統領選挙: 決選投票に向けた選挙戦の状況(7)

 TV討論翌日の4月21日木曜日、マクロン氏はパリ北部に隣接するサン・ドニ地区へ遊説を行った。目的は、急進左派メランション氏の支持者票の取り込みだ。この地域は、メランション氏の牙城であり、第1回投票では61.13%という圧倒的な得票で、2位につけたマクロン氏の16.22%を大幅に上回った。この地区はまた、第1回投票での棄権も31.97%と非常に多かった(フランス全土平均は24.11%)が、移民系有権者で棄権した層は、今回のTV討論で明らかになったル・ペン氏の反多様性、反イスラムという立場をみて、決戦投票では棄権ではなく、投票所に足を運びル・ペン氏への批判票としてマクロン氏への投票を行う層も出るだろう。

 対するル・ペン氏は、フランス北東部のオー・ド・フランス地方の主要都市アラスへ遊説を行った。オー・ド・フランスは、父親の代から続くル・ペン氏の牙城であり、今回の第1回投票では33.34%で第1位につけ、1,014,182票を獲得した大票田となっている。ここは、グローバル化とEU拡大により製造業が東欧地域などへ移転したフランスの典型的なラスト・ベルト地帯を抱えており、メランション氏も第1回投票では18.98%と一定の支持を得ているので、ル・ペン氏はこうしたメランション氏支持者層の取り込みも当然狙っているのであろう。

 4月24日に行われる決選投票に関して、21日に調査会社イプソスが出した決選投票に関する最新予測では、マクロン氏が57.5%を獲得し、ル・ペン氏の42.5%を下し勝利するとしており、2日前と比べるとマクロン氏のリードが1ポイント広がった。

 同じくイプソスが21日に出した聞き取り調査の結果では、第1回投票でメランション氏に投票した有権者のうち、決選投票では34%がマクロン氏へ、18%がル・ペン氏へ投票すると回答しており、マクロン氏へ投票するとの回答が2日前の結果から5ポイント下落、逆にル・ペン氏へ投票との回答は2ポイント上昇している。これは、あきらかに20日のTV討論の影響であろう。メランション氏の姿勢は弱者救済であり、金持ちの代表のイメージが付きまとうマクロン氏の傲慢さがTV映像で改めて垣間見えたので、メランション支持者の間でマクロン氏への投票を避けようという力が働いたのだろう。逆に、メランション支持者の間で、生活を取り巻く経済問題への対策に重点をおいたマニフェストのル・ペン氏へ投票することを考える割合がやや増えた。また、TV討論の最後の場面で、ル・ペン氏の反多様性、反イスラムの姿勢が浮き彫りにされ、これをみたランション支持者のうち、コア層である若者や移民系有権者のあいだでは、逆にル・ペン氏阻止のためにマクロン氏への投票を考える動きも出たはずだ。これらの要素を差し引きした状況が数字の流れに出ているものと思われる。

 第1回投票の結果をみると、マクロン氏の得票は9,783,058票であったが、ル・ペン氏の得票8,133,828票に、決選投票でル・ペン氏に大部分の支持者票が流れると予想される極右ゼムール氏の2,485,226票を加えると、既にマクロン氏を83万票以上超えている。第1回投票で3位につけたメランション氏の得票は7,712,520票と非常に大きく、この層の動向が決戦投票の行方を左右するが、20日のTV討論の内容をみたうえでもメランション氏支持者の中でマクロン氏への投票を考える動きが積極的に広がっているとは言い難い状況だ。このままでは、4月24日の決選投票では、特にメランション支持者の間では、棄権や白票の投票という抗議の意思表示に動く割合が大きくなる可能性がある。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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