たぶん、きっと、そういう運命
今日、
私は約4年間着ていたコートとお別れした。
きっかけは、今朝、牛乳を飲んだ娘が、部屋を歩き回っている途中に何やら咳き込み、その勢いで嘔吐したことだった。
不幸中の幸いと言っていいのか、或いはその逆か。
ソファーに置かれていた私のコートが、娘の”それ”を見事に受け止めてくれたのだ。
ソファーは守られ、娘の服も汚れていない。
ただ、私のコートだけが犠牲になった。
もう、このコートとは今日でお別れしよう。
すぐに洗ってクリーニングとか、そんな風には思わなかった。
冷静に、さよならしようと思ったのには、訳があった。
◇◇◇
遡ること、約一年数ヶ月前。
私は雨に打たれながら、横断歩道で信号待ちをしていた。
当時、2歳だった息子はベビーカーの帆で雨をしのぎ、生後半年の娘は抱っこ紐だった為、濡れないように防寒カバーのフードをかぶせていた。
少し風も吹いていた為、ベビーカーを押しながら傘をさすのは難しく、雨に濡れていたのは私だけだった。
すると、スーツ姿の男性が、傘を差しだしてくれた。
私は咄嗟に、
「あ、大丈夫ですよ。子どもたちは濡れてないので。ありがとうございます」
と断り気味に言うと、
「いえいえ、お母さんが濡れて風邪ひいたら大変ですよ。ベビーカー押しながら傘さすのって難しいですよね。」
と言って、私の頭の上に傘をさしてくれた。
な、な、何というジェントルマン!涙
男性の厚意に甘え、傘に入れてもらっていたが、私寄りでさしてくれていため、傘を持っていた男性はほぼ濡れていた。
きっと男性から見た私は、赤ちゃんを抱っこし、ベビーカーを押しながら雨に濡れているママだったに違いない。
しかし、パッと見では分からない真実がそこにはあった。
あの日の私は、そんな普通のママではなかった。
実は、このとき私が着ていたコートの下は、
エガちゃんスタイルだったのだ。
(エガちゃんスタイルはこちら↓ 江頭2:50さん)
コートを着ていても、正直、寒くて仕方がなかった。
ーエガちゃんスタイルになった理由ー
さらに、遡ること数十分前。
私は子ども2人を連れて、上の子(息子)の歯科検診に来ていた。
保育園帰りに寄って、歯科検診を受けて帰る。そんなありきたりの日常のはずだった。
しかし、待合室で待っている時、息子が急に神妙な面持ちで、
「ママ、抱っこ」と言ってきたのだ。
私は、抱っこしていた娘を床に座らせ、息子を抱っこした。
その瞬間、息子は嘔吐。
向かい合って息子を抱っこしていた私は、見事に息子の嘔吐物まみれとなった。
あまりの出来事に一瞬、時が止まったようだった。
ハッと我に返り、受付の方に向かって、「す、すみません、息子が吐いてしまって。何か拭くものとビニール袋をいただけますか」と声をかけた。
その私の声で、待合室で少し離れて座っていたママらしき人、2人がバッとこちらに注目した。
と、その瞬間、座っていた娘がひっくり返り、泣き出した。
しかし、私は息子を抱っこしたまま動けなかった。動けば下のカーペットも汚れるし、何より私もかなり汚れている。とてもこんな状況では娘を抱き上げられない。
すると、近くにいたママが、
「大丈夫ですか?とりあえず、赤ちゃん抱っこしますね?」と娘を抱っこしてくれた。
そして、もう一人のママが、
「何か必要な物ありますか?」と聞いてくれたので、息子の着替えの入った保育園バックを取ってもらった。
その後ほどなくして、歯科医院のスタッフの方が、ティッシュやごみ袋を持ってきてくれた。幸い保育園の帰りだったこともあり、息子の着替えも難なく済ませられた。
しかし、着替えが必要だったのは私の方だった。
胸元から下にかけて、息子の嘔吐で汚れてしまった。その日は、薄手のニットワンピースを着ていて、その下に黒のレギンスをはいていた。
ワンピースはもちろん、ワンピースの下に来ていた薄手の長袖までも濡れていた。
私は、仕方なしに、濡れ汚れたものを全て脱いで、袋にいれた。
着替え中、スタッフの方が、「お母さん、お洋服大丈夫ですか?」とトイレのドア越しに聞いてくれたのだが、
これ以上迷惑はかけられないと思い、
「コートがあるので大丈夫です!」と強がって答えてしまった。
結局、息子が嘔吐した事で、歯科検診も受けられず、本当に何しにここに来たんだろう…と、かなり落ち込んでいた。
結果、私は、エガちゃんスタイル(ブラジャーとレギンス)の上から、コートを着ることになった。
そんなバタバタ劇を終え、歯医者を出ると、外は想像以上に寒かった。
そして、ベビーカーを押し歩き始めると、追い打ちをかけるような雨。
うわぁ。なんて日だ…。
そんなとき、優しく傘をさしてくれた男性に出会った。
男性は、私が着ているコートの下がエガちゃんスタイルになっていることも、数十分前に歯医者で起きた惨劇ももちろん知らない。
ただ雨に濡れている人に傘をさしてくれた通りすがりの優しい人。
それでも何だか救われた気持ちになった。
(しかし、歯医者での一件で、傘をさして貰っている間、私臭くないかな?とちょっと気になっていた。)
人の優しさに気付くのは、自分がツライ時なのかもしれない。(クリニックにいた皆さん、傘をさしてくださった男性、ありがとうございました!)
エガちゃんの偉大さに気づくのは、寒い日なのかもしれない。(やっぱりエガちゃんは凄い!)
◇◇◇
そんな散々だったあの日も、
今朝、娘に”やられた”このコートを着ていた。
うん、たぶん、きっと、そういう事象と縁があるコートなんだな。
色々、守ってくれてありがとう。
そんな気持ちで、コートをゴミ袋にいれた。
もう春だ。