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真っ赤な口紅と「まだその世界」。ガブリエル・シャネル展に寄せて

ごあいさつ

こんにちは、株式会社RelicでUIデザイナーをしている、きむかなです。ポートフォリオ的な記事はこちら

ガブリエル・シャネル展に行って来たよ

私の母は出かける時、必ずシャネルの真っ赤な口紅をつけます。 若い頃にとある新聞社でアルバイトをしていて、「年配の女性がきれいな白髪に、シャネルの真っ赤な口紅をつけていてかっこよかった」とよく話してくれました。

このエピソードが好きな私は、母の日にカーネーションではなく、シャネルの真っ赤なリップをプレゼントしています。もちろん他のものをあげることもあるんですけど、なんか粋でしょ。

その人は、想像するだけで素敵な女性です。でもなんで、シャネルのリップだったんだろう。
きっとあのかっこいい女性は、シャネルのようになりたかったのかも。

そんなことを考えながら、三菱一号館美術館で開催しているガブリエル・シャネル展へ行ってきたレポートです。

日本では実に32年ぶりの回顧展ということで、大変な賑わいでした。
本展示は帽子デザイナーからキャリアをスタートさせた彼女の1920年〜1970年に渡るアーカイブコレクションを見ることができます。

ファッションのことは門外漢ですが、歴史の流れを見ると彼女がどのような思想で洋服をデザインして来たのか…というのは考察ができると思います。

シャネルは1800年代後半に生まれました。
産業革命以降、欧州諸国で巻き起こる女性参政権運動によって、人権運動が盛んになった時代です。

彼女が男性向けの素材であった絹ジャージーを使用した、ウェストをまったく締め付けないドレス(コルセットでギュッとウェストを絞るドレスが主流であった)は、第一次世界大戦勃発によって男性を徴兵に取られ、労働力として社会進出した女性たちの賛同を得たはずです。

第一次世界大戦はそれまで小規模な戦争しか経験のないヨーロッパに悲惨な結果をもたらしました。長距離移動が可能になった鉄道技術の普及に加えて、重火器の発達もあったのです。彼らは1914年7月に起こったこの戦争がクリスマスまでに終わると思っていましたが、蓋を開けば集結まで実に4年も続き、戦死者は900万人。非戦闘員の死亡者は500万人に登ります。
戦争未亡人は大量に生まれたと思います。

家族のために働くことを余儀なくされた女性たちにとって、動きにくいコルセットなんて邪魔でしかなかったでしょう。そこにシャネルの登場です。
(余談ですけど、ハイヒールなんてものは歩かないことを想定されて作られたものです。「私が一歩も動かなくても生きていける財力の殿方にしか靡きませんの」という貴婦人たちのスティールハートで履かれたのですね。違う理由もあるけど、ワタクシは淑女なのでよう言いません。う●こ避けなんて…そんな下品な…)

しかもシャネルのデザインは貴族的な装飾を外した洗練され美しいシルエット。こんなの搾取されて虐げられた庶民(と言っても裕福な商家が中心だったと思う)にとってはゲキ刺さるはずです。
華美なものを排除してもなお美しい、いやそれが逆に美しい。まさに革命的だったと思います。
展示を見ていても、シャネルはジュエリーデザインにおいて貴族的なデザインを嫌悪していたようです。

さて、時代は1960〜70年代に下ります。歴史的に何が起こるかと言えば、ウーマンリブ運動です。
1920年代から50年近く、シャネルは紆余曲折経て今なお現役でした。そこで誕生したのが、ツイード生地などを使用した女性向けスーツデザインでした。私の中でシャネルと言えば、このツイード生地のスーツです。
男性がビジネスシーンにおいて纏うスーツを、鮮やかに着彩したツイード生地を使って女性向けに仕立てる…めちゃくちゃロックですね。

ここで私は着目したいのが、シャネルはあくまでも「女性を美しく見せるシルエット」にこだわっていたことです。
それが良い悪いではありません。「まだその世界」だったのです。

女性が女性として美しくあり、かつ社会の第一線で活躍していることを示していく、価値を高めていく。そういうことが必要だった時代でした

現在だとジェンダーレスとかボーダーレスとかSDGsとかとか、多様な価値観を認めて行こうよというムーブメントが認知されています。
それでも私にとっては「まだその世界」と思うことが多い。
母の憧れだった女性はちょうどウーマンリブが沸き起こる時代にキャリアウーマンと呼ばれ、まあまあ苦しいことがあったはずです。だからこそ時代の流れに合わせて新しい価値観をぶつけていったシャネルの思想には、シンパシーを抱いたのかもしれません。

あと単純にコスメのデザインが素敵だし、テンション上がるよね。まじかっこいいもんね。
ファーストリリースの「No.5」のパッケージとか展示されていましたけど、そりゃ美しかったですよ。マリリン・モンローも裸一貫であれだけ着けて寝るでしょう。マリリンなら許されるでしょう!!いや、私たちもやってもいいんだけど…なんかこう、あるだろう!な!!

シャネル展では図録を二冊買いました。
一冊はもちろん自分用で、もう一冊は母にあげます。そういえば、今年の母の日をスルーしていました(さらに言うと父の日も。あ、父にはちょっと良いお酒を毎年あげてます!)
娘は母にいつまでも憧れを持って生きてほしいと願ってしまいます。「推し」がいると輝くからね!
きっと私たちは人類として繁栄していく限り、「まだその世界」をずっと繰り返すでしょう。

完成とは成熟であり、熟したものは朽ちるしかありません。「まだ」であることは、良い部分もあると思うのです。
つらいこともあるけど、どんな人もそりゃつらい。生き物なんだから、だいたいつらい。
こんなにつらいのになんで生まれてきたんだ…と思い悩めるほどに余計な知恵を与えられたのが人間でございますが、50年前に非常識だったことが今は常識になったように、社会は移り変わり価値観も変わります。

次はどんなデザインがスタンダードになって、社会を変えるのでしょうか。
服飾の歴史は長いので情報があり、このように蚊帳の外の人間も考察ができるのですが、Webデザインの歴史はまだまだ浅いです。

私のWebデザインという仕事も、きっと社会を変える何かのきっかけになっている。そう思うと、勝手に誇らしい気持ちになったりします。歴史という大きなデータベースの一つのデータになれるのは光栄です。

次回はオタクの義務としてセーラームーン展と冨樫義博展レポートをお届けしたいです。

さて突然の方向転換で恐縮ですが、私が所属する会社でオンラインイベントが開催されます。

沖縄のIT企業Re:Buildさんとの共催となっておりまして、ぜひご参加ください!デザイナーにとってもフロントエンドエンジニアにとっても良い情報が得られるのでは…と思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
スキをしてくださった方には私のどうでもいい情報をお知らせします。

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