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牛乳飲んだら骨折しやすくなる?

ある日の栄養指導。
「牛乳は体に悪いって聞いたわよ。骨が折れやすくなるって。」と患者さんがひとこと。

「牛乳に含まれるカルシウム、ビタミンDが骨を丈夫にするんですよ。タンパク質もとれるので1日1杯くらい飲むのがおススメです。」って日ごろから言っているわけですから、そんなことあっちゃ困るわけです。


栄養指導をしているとテレビやインターネットの真偽不明の栄養情報を持ってくる患者さんは沢山いらっしゃいます。

「そんなことないと思うけどな~」と思いつつ、そう言うには栄養のプロとして根拠が必要。



今回は【牛乳を飲むと骨折しやすくなる】という噂の真偽を管理栄養士の目線で解説します。

論文を読む際のコツについても書いていますので学生さんもぜひ読んでいってください!

検索窓に牛乳 骨折 と入力すると、、、


噂の出どころは、、、

牛乳を飲むと骨折しやすくなる説を唱えているサイトを見ているとどうやら一つの論文を根拠としているものが多いようでした。

それがこちら↓
Milk intake and risk of mortality and fractures in women and men: cohort studies | The BMJ

すっごく簡単に要約すると

研究方法
スウェーデンのある地域に住んでいる女性61,433人、男性45,339人について20年間の追跡調査をした。
その間、食事の内容と病気の頻度や死亡数を調べて関連があるか調べた。

結果
牛乳を3杯/日(600ml)以上飲んでいた女性は1杯/日未満の女性と比較して死亡率が1.93倍!
骨折する人の割合も牛乳を沢山飲む人のほうが15%も多かった!


論文の信憑性

まず論文を読む際にはその論文の信憑性を考えます。
信憑性を確認する簡単なポイントがこちら↓

  • 論文の掲載されているのはBMJ(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)→権威ある有名な医療雑誌。信憑性高い!

  • 研究方法はコホート研究→詳しくは調べてみてね!信頼性高い!!

  • 実験の対象者数は男女合わせて約10万人→大規模実験!信憑性高い!!!

というわけで牛乳飲んだら骨折しやすくなる→信憑性高い!!!!!


、、、、とはならないんじゃないか!!!というところで、
やっと今回の本題へ。



疑いの目で見てみる

数字は嘘をつきませんが、研究者も人間ですから、期待する結果に合わせて変な数字の読み方をしてしまうことがあります。

さらに論文は正しくとも、それをまとめたサイトは特に平気で嘘つきます。

一般のウェブサイトは信用しすぎてはいけません。
論文も信用し過ぎず、「そうはならんだろ!」っていうような突っ込みを入れながら読みましょう。


論文を読む際に気を付ける疑いポイント

〇人種、文化の違い


日本の栄養学はまだまだ発展途上な部分も多く、多くの論文は外国で書かれていることに注意が必要です。われわれ日本人とは異なる体格をした人種を対象とした実験結果をそのまま日本人にあてはめると誤った判断をしてしまうことになりかねません。

今回の論文では実験の対象はスウェーデン在住の男女。
体格の差、文化の差などあるんだろうな、ということは頭の中に入れて読みましょう。

身長体重ともにスウェーデン人大きめ

論文によると被験者(男性)の牛乳の平均摂取量は240ml~280ml/日だったとのこと。日本人男性は143ml/日なので、文化の差も歴然。


スウェーデン人に比較して小柄で、牛乳を沢山飲む文化もない。
そもそも日本人の7割は乳糖不耐症(牛乳飲んで下痢するタイプ)。


もし牛乳の摂取が体に悪影響を与えるとするなら、日本人は特に気を付ける必要があるかもしれませんね。
(まだ結論付けるのは早いぞ!)


〇交絡因子の検討

牛乳の多量摂取をすると骨折しやすくなるのではなく、そのほかの原因で骨折しやすくなっているというパターンも考えなくてはなりません。

例えば
もともと骨が折れやすい体質だから注意して沢山牛乳を飲むようにしていた。けど結局折れた。

これは一番ありえるかなと思います。

骨粗しょう症の栄養指導でもまず第一に牛乳勧められますからね。


研究結果を見ると、牛乳を沢山飲む人たちはそうでない人に比べて、ビタミンD、カルシウムのサプリメントをのむ割合が少ないのが見て取れます。

Milk intake and risk of mortality and fractures in women and men: cohort studiesより引用

サプリメントに頼らず、牛乳だけで頑張ろうとしたけど結果的には無理だったという感じなのでしょうか?


ちなみにカルシウムサプリメントはほとんど骨に吸収されないという研究結果もあり、僕はおススメしていません。
カルシウムだけ摂取すると心筋梗塞のリスクがあがるという研究もあるのでどうしても飲みたい場合はマグネシウムも一緒に入ったものがよいと思います。




話がそれましたが、その他の原因としては
やはり食事バランスの乱れがあるかと思います。

研究によると
牛乳1杯/日未満の人の摂取エネルギー量1412kcalに対して
牛乳3杯/日以上の人の摂取エネルギー1965kcalと550kcalの差があります。
牛乳600mlのエネルギーが366kcalであることを考えると、その差分の多くを牛乳が占めていることになります。

一日の摂取エネルギーの1/5が牛乳と考えると、その異常さも際立ちますね。


終わりに

これだけ長く語ってきましたが、
結局牛乳は体に良いのか、この論文だけではわかりません。

今回の論文を読んで興味がわいた方は牛乳に関して沢山の論文があるので読んでみてください。その多くが牛乳の良い効果を示しています。中には牛乳の摂取で大腸がんのリスクが低減というようなものまで存在します。

ただ、今回の論文を信用するにしても600mlなど過度に摂取しない限りは問題ないわけです。

栄養指導ではいつも言っていますが、体にいいものも取り過ぎれば毒になる。なにごとも、ほどほどに。


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