「マーベル疲れ」ってどうして起こってる?MCUを会社に例えてモチベーション軸で考えるとわかりやすかった!
マーベル疲れ??
こんにちは、モダンエイジの映画大好きマーケター、栗原健也です。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー :VOLUM3』最高でしたよね!!生命倫理を扱っていたりなど、個人的にMCUの中で一番重たい作品かなと思いました。でも1作目から通じるテーマ、「はみ出し者たちの連帯」に、気が付いたら涙腺決壊。近々2回目を観に行く予定です。
そんなMCU(Marvel Cinematic Universe)と言えば、最近(5月)『アントマン&ワスプ:クアントマニア』がディズニープラスで配信されましたよね。(2月に公開されたばかりなのに相変わらずディズニー早すぎる!)
自分は劇場で観て、本作もかなり楽しめたのですが、Twitterを見ると結構賛否両論分かれているみたいです。「世界観に既視感があった」「悪役が微妙(弱い)」「CGがいまいち」などなど、ネガティブな声も目立ちます。
昨年くらいからよく耳にするようになった「マーベル疲れ」(MCU疲れ)と絡めてネガなクチコミをしている方もチラホラ。というのも、昨年少し話題になりましたが、米国で行われた調査によると、アメリカのMCUファンの3人に1人が、「疲れ」を感じているんだとか。
たしかに、自分も『アイアンマン』から追っている古参ファンだと自負してますが、最近は配信ドラマが続々とリリースされ、すべて追い切れているとは言えない状況だったりします。自分の周囲でも、いままで熱心にMCUを観ていてたのに、今は全く追いついていないという人は結構いる印象…。
どれだけのレベルか(一部か大半か)は測りかねますが、「マーベル疲れ」という現象は、確実に起きていると考えて良さそうです。
「マーベル疲れ」の要因とされているもの
「マーベル疲れ」の理由として挙げられている仮説としては、記事を色々と参照すると概ね下記に集約できそうです。
①フェーズ4以降の作品供給数があまりにも多すぎる
コロナ禍で新作リリースがストップした2020年を挟み、2021年からスタートしたフェーズ4。ディズニープラスでの配信も本格的に始まり、ほんの2年間に長編映画7作にテレビシリーズ9作、ミニシリーズ2作と、物凄いペースで作品が供給されています。
ただでさえ、可処分時間の奪い合いが激しくなっている現代において、この本数をすべて見切るのは、かなりのハードルです…。ましてやファンは「MCUは、すべての作品を観ていた方が絶対に楽しめる」ということを熟知しているため、この膨大な作品をすべて追わなければいけない、というプレッシャーが大きいのも頷けます。
②作品のクオリティが低下している
もし「クオリティ」を単純に評価やレビューで測るとすれば、アメリカで最も影響力があるとされるRotten Tomatoesを参照すると一目瞭然かもしれません。
上記にMCUの作品群の評価が一覧でまとまっているのですが、『ワンダビジョン』から始まるフェーズ4以降、もちろん高評価の作品も多くありますが、評価のばらつきが目立つようになっています。中にはトマトメーター(Rotten Tomatoes内の批評家指標)が、腐ってしまっている、「ガッカリ」評価をつけられてしまっている作品もチラホラ。
評価が今までに比べて安定しなくなってきたことを考えれば、クオリティの低下もたしかに言えるのかもしれません。
③MCU含め、ヒーローが「コモディティ化」している
これはMCUに限らずですが、ヒーロー映画があまりにも多すぎて飽和状態になっていることも指摘されています。まあ、最近本当に多いですよね、、
バットマンやスーパーマン、今度公開するフラッシュを擁するDCコミックスのユニバース、DCEU(DC Extended Universe)があったり(近々方針転換しましたが)、マーベル内でも、スパイダーマンを中心として、ヴェノムやモービウスを擁するSSU(Sonys Spiderman Universe)があったりと、本当にヒーロー映画が、半ば「量産」されているような状況です。
アメコミのヒーローが特別な存在ではなく、一般的でありふれた王道のものになってしまった=「コモディティ化」、つまり「飽きられてしまった」ことも、「マーベル疲れ」の一因と言えるのかもしれません。
■参照元
ボトルネックはモチベーション(?)
いま上に挙げた原因について、たしかになとも思いつつ、少し引っかかる気持ちもあります。この作品数が『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の直前くらいだったら自分も熱心に全部観ていたんじゃないか…、クオリティ低下とは言いつつ、いまも十分面白いけどな…。
もしかしたら、それぞれ独立した問題なのではなく、すべて関連していて、諸問題に通じる「ボトルネック」がどっかにあるのではないか?
そんなことを思いながら、4年前くらいの自分と現在の自分とを、MCUに向ける態度で比較したときに、今までほど「ワクワクしてないな」という部分が大きいことに気が付きました。
新しい作品が発表されると、あんなにウキウキしていたのに今は「ふーん」程度に…(もちろん楽しみな作品はあるけど)、大好きだったエンドロール後の映像は半ば観ることが義務感に…。あれ?
ワクワクしていたならば、いくら作品が多くても可処分時間を削ってでも観るだろうし、予習復習だってしたかもしれない。「期待値」は作品の評価にも影響するので、事前にワクワクしていた方が評価も高くなる。MCUにワクワクしていたからこそ、DCEUよりもMCUを常に優先してきた。
つまり元をたどると、「マーベル疲れ」の要因は、ワクワクのキープ=「モチベーションマネジメント」の問題なのではないだろうか?
「株式会社MCU」
ジャストアイデアですが、ファンのモチベーションを考える上で、MCUを会社として、ファンを社員として見立て、会社経営に例えるとわかりやすいなと思いました。というのも、今は会社の経営でも、「社員のモチベーション」が最も重要な資源と言われている時代だからです。
その社員のモチベーションに大きく影響する代表的な要素として、下記を上げてみたいと思います。
以下この2点から、「マーベル疲れ」を考察していければと思います。
フェーズ3まで会社と社員間で共有されていたビジョン
「ビジョン」とは、会社の目指すべき目標や、そこに至るまでの道筋のことを言います。それが社員に浸透していればいるほど、自分が向き合う業務に対する目的意識が上がり、モチベーションを高く持って働けるようになると言われています。
フェーズ3までのMCUは、このビジョンメイキングが本当に秀逸だったと思います。
フェーズ1〜フェーズ3=「インフィニティ・サーガ」は、「インフィニティストーン」を巡る「大きな物語」として、多様なヒーローが登場する沢山の作品が独立しながらも、横でがっちりとつながっていました。
そしてサーガを通して、サノスという最強の敵の存在が影を落とし、インフィニティ・ストーンを巡り、いずれはサノスと直接対決をしなければいけないということが示唆されていました。
その「最終決戦」に向けて、これまで登場したたくさんのヒーローが結集して、力を合わせて立ち向かうという未来の道筋=「ビジョン」が共有され、そこに向けた期待値が醸成されていましたよね。
「あのヒーローはどんな活躍を見せてくれるんだろう」、「あのキャラとあのキャラが絡んだら絶対楽しいに違いない」、「あの二人が戦ったら、どっちが勝っちゃうんだろう?」、そんな期待値で、ワクワクが止まらなかったことを思い出します。
この究極の「アベンジャーズ、アッセンブル」という、未来のビジョンがあったからこそ、MCUファンたちはモチベーション高く一つ一つの作品に向き合い、熱心に追いかけることができていたのではないでしょうか。
ビジョン不在のフェーズ4以降
『エンドゲーム』で大団円を迎えたフェーズ3ですが、これ以降MCUは「マルチバース・サーガ」と呼ばれるコンセプトを掲げようとしています。
我々がフェーズ3まで観測してきた「宇宙」(ユニバース)以外にも、無数の宇宙がパラレルワールドのように存在し、その多元宇宙(マルチバース)を縦横無尽に飛び越えながら、ユニバースを跨いだヒーロー同士の共演を目指していく…。
原則として、ビジョンは社員が自分ゴト化できて初めて、「ビジョン」足りえるものです。その観点で行くと、このフェーズ4以降は弱点があると考えられます。
一つは、マルチバースの概念があまりにも入り組んでいて複雑過ぎること。
私の理解力が乏しい可能性は大いにありますが、同じキャラクターが別のバックボーンで登場したり、出身ユニバースとキャラクターの対照がわかりづらかったり、特に配信シリーズの『ロキ』では「変異体」などの概念が登場して余計に複雑になったり……、
ちんぷんかんぷんで頭がついていけていない、という方も多いのではないでしょうか、、(私だけだったらすみません)。
加えて『クアントマニア』のレビューでも多くの方が指摘していますが、「マルチバース・サーガ」のラスボスであるはずの「征服者カーン」の存在感が薄いこと。これも自分ゴト化を阻害する部分です。
フェーズ3以前は、前述の通り、サノスという強大なラスボスが確固として存在し、そこに立ち向かうアベンジャーズという、単純明快で、自分ゴト化しやすい未来像(ビジョン)がありました。
それに対して、「マルチバース・サーガ」は、マルチバースそのものがわかりづらい概念である上、アベンジャーズが戦うラスボスの存在感も弱いため、一体どこに着地していくのか、ビジョンが不明瞭になっています。
こうしたビジョンの不在が、モチベーションの低下を招いている可能性が高いのではないでしょうか。
少し余談ですが、これは記憶に粘り、行動を促すアイデアのつくりかたについてまとめたハース兄弟の名著「アイデアのちから」のSUCCESs(サクセス)の法則とも符合します。インフィニティ・サーガでは、アイデアとしてこれらの要素が巧妙に満たされ、ファンの自分ゴト化を促しやすかった、と言えるかもしれません。
フェーズ3までの「カリスマ的経営者」の二人
モチベーションを考える上で、このビジョンの不在に拍車をかけているのが、カリスマ的経営者=「MCUを代表する絶対的ヒーロー」の不在です。ビジョンやパーパスともセットですが、未来を示し、社員を導くような経営者の存在は、現場の社員のモチベーションに大きく影響します。
フェーズ3までのインフィニティ・サーガでは多くのヒーローが登場しましたが、その中でもアイアンマンとキャプテン・アメリカ、この2人が突出してサーガ全体の中心となっていました。(異論はあるかもしれませんが)
MCUの最初を飾り、この作品・キャラクターの成功なくしてアベンジャーズの成功はなかったといっても過言ではない、人間的魅力に溢れたアイアンマンことトニー・スターク。(文字通りの経営者ですね)
名実ともに「ファースト・アベンジャーズ」と呼ばれ、ヒーロー中のヒーローであるキャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャー。
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で対立し、それぞれチームを率いて戦った二人のカリスマ的リーダーですが、この二人に引っ張られた他のヒーローたちと同様、我々MCUファンも彼らカリスマ的経営者たる代表的ヒーローに導かれ、ビジョンを共有してきた側面が強いと思います。
彼らが再度一致団結し、サノスと最終決戦に挑む『アベンジャーズ/エンドゲーム』はインフィニティ・サーガの終焉であり、それはアイアンマンとキャプテン・アメリカ、この二人の物語の終焉も意味していました。彼らがエンドゲームで揃って離脱してしまったことは、MCUの物語内だけでなく、我々MCUファンのモチベーションにも強い影響があったのではないでしょうか。
絶対的なヒーローの不在
では、彼らが引退したフェーズ4以降では、誰がカリスマ経営者として、ビジョンを引っ張っていくのでしょうか?あくまで私の所感ですが、結論として、誰も彼らに代わるヒーローを擁立できていないように思います。
彼らの後継者として最も有力だったのは、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』でも描かれましたが、スパイダーマンではないでしょうか。彼もマーベルを代表するヒーローであり、元々MCUが始まる以前から単独で実写作品を成功させています。彼もMCUが躍進するための道を開いたという点で、マーベルにとって非常に重要なヒーローです。
ただし、続く『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』で、スパイダーマンはスパイダーマンで大団円を迎え、MCUにこれからも登場するかどうかは確定していない状況です。(一応出る予定ではあるらしいですが、、)
そもそも、スパイダーマンの映画化権は、マーベルの親会社であるディズニーではなく、ソニー・ピクチャーズ(コロンビア)が持っており、こちらはこちらで前述のSSUがあるので、このハードルも一応存在します。
あと他に群を抜いて人気なのは、いま公開されている『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズでしょうかね・・?ただこちらもVOL3で大団円を迎えてしまいました。立役者のジェームズ・ガン監督もMCUを離れ、DCの共同代表を務めています。
「MCUを代表する」という軸で考えると、他にこれといったヒーローがなかなか思いつかず、、そのためフェーズ4以降では、「マルチバース・サーガ」の中心となる「カリスマ的経営者」=絶対的なヒーローがいない状況だと個人的には考えています。
「マーベル疲れ」の正体
ここまでの内容をまとめると、フェーズ4以降のマルチバース・サーガでは、ビジョンの不在に加え、カリスマ的経営者の不在によって、MCUという会社に勤める、我々ファンという名の社員は、作品を熱心に追いかけるモチベーションが湧きづらくなってしまっていると考えられます。
モチベーションが湧かないまま、作品がただただ供給され続けると、作品を追いかけ続けることは、MCUファンにとって消化すべき「タスク」となってしまいます。(会社の業務に例えて考えてみてください)
そしてもともとワクワクや期待値が湧かない作品を観ても、よほどの大逆転がない限りは高評価を付けるのはハードルが高いと思います。
そうしてMCUを純粋に楽しめず、「タスク化」してしまったファンたちが、作品のクオリティ低下を嘆き、MCUから少し距離を置き始め、「マーベル疲れ」と呼ばれる状況が発生しているのではないでしょうか。
上記のように、全ての事象が個別に起きているものではなく、モチベーション低下というボトルネックに紐づいているように思えてなりません。
「マーベル疲れ」の解消に向けて
停滞した組織に活力を与えるためには、ビジョンを見直したり、新しい人を社員に引き入れて、組織に新陳代謝を起こす必要があります。
ただ、これまで既にフェーズ一つ以上をフルで使って、マルチバースサーガを準備してきたため、このビジョンを今から軌道修正するのはなかなか難しいと思います。(カーンが不評だったり、演じるジョナサン・メジャーズの不祥事だったり、現在様々な問題が噴出している状況ではありますが)
そのため、テコ入れできるとしたら、「カリスマ的経営者」の方、いままでMCUという「ユニバース全体」で集客してきた方針を、個別ヒーロー中心に変えていくのは可能性としてはありうるかもしれません。
古参ファンを自負する自分ですが、実はディズニープラスオリジナルのドラマは追い切れていないので、もうユニバースではなく、個別ヒーローの作品を、その作品単体として楽しむ方向に切り替えています。作品単体で考えれば、評価が芳しくない『エターナルズ』も、クロエ・ジャオの監督作として楽しめたし、『クアントマニア』だって、アントマンらしさがあふれていて普通に面白かった。
MCUにある意味では関係なく、単独で面白い作品としてヒーロー作品を生み出し、ファンをつけ育てていく。そしてその過程の中で、MCU全体にも興味関心を波及させていくという順序。
そうして「カリスマ経営者」を立てていかないと、いつまでも中心軸のないサーガとなり、既存ファンのモチベーションも上がらないし、新規ファンが入ってこないので、活力も生まれないのではないでしょうか。
そういう意味では、ちょっと先ではありますが、『ファンタスティック・フォー』や『ブレイド』はめちゃくちゃ楽しみだったりします。実際にインタビューでも、ケヴィン・ファイギ社長は、「『Fantastic Four』がMCUの「大きな柱」になる予定だ」と述べていますね。
『ブレイド』も、スパイダーマンと並び、2000年代前半に、アメコミ映画がマネタイズできることを証明した、マーベルにとって大切な作品の一つです。今から期待値が上がります。
最後になりますが、今後もこの規模を維持したまま存続することができるのか、今がMCUにとっての正念場なのではないかと思います。最近はなかなか追いきれてないのですが、一人のMCUファンとして、社員として、引き続き応援していきたいと思っています!!
以上ファンのモチベーション低下で「マーベル疲れ」は説明できるのでは?といった趣旨の記事でした!
かなりの長文になってしまいましたが、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!よかったらフォローもお願いします!ご意見もお待ちしております!
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