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【映画×クチコミ後編】映画への意欲を突き動かす「高濃度なクチコミ」の作り方

こんにちは。モダンエイジの映画大好きマーケター栗原健也です。

前編では、映画を観に来てもらうには、「クチコミ」が重要で、とりわけ鑑賞者の主観的熱量に基づく「高濃度なクチコミ」がZMOTに影響を及ぼすというお話をしてきました。

高濃度なクチコミについての誤解

ただこの「高濃度なクチコミ」ですが、作品を観た後のクチコミとなるため、映画自体の満足度が高ければクチコんでもらえるものである、つまり「作品力」に依存するものである、という風に考えられがちです。

高濃度なクチコミはこちらからコントロールすることができず、その発生には作品が良いか悪いか、作品のクオリティが全てである…。

果たしてそれだけでしょうか。

「作品力」が高い作品の方が高濃度なクチコミを生み出しやすいのは間違いありません。ただしマーケティングの力で、その発生を後押しすることも可能だと思います。

高濃度なクチコミを生み出しやすい人

例えば前編でも少し紹介した『トップガン マーヴィリック』を想像してみてください。本作には沢山の高濃度なクチコミが集まりましたが、それを投稿してくれる確率はどんな鑑賞者も一定なわけではありません。

例えば『トップガン』シリーズに何の思い入れがない人よりも、前作を80年代にリアルタイムで鑑賞した層、戦闘機や軍隊などミリタリー要素が好きな層の方が、高濃度なクチコミをしてくれる可能性は高いのは自明でしょう。

そのため、どんな人にコミュニケーションをとり、どんな人を連れてくるかによって、高濃度なクチコミの発生確率は変わる。つまり、ターゲット設定が非常に大切ということになります。

とりわけ映画の最終興収は初動でどれどけ話題を起爆できるかによって左右されます。公開初週〜2週目の間に話題化できないと、すぐさま劇場側に上映本数を減らされてしまいますから、しっかりと作品に紐づき、高濃度なクチコミをしてくれやすいターゲットをまずは連れてくることが非常に大切と言えるでしょう。

映画におけるターゲット設定の考え方については、過去に記事にまとめているので、こちらも併せてご覧ください。作品の強み=アセットとターゲットを確実に連動させて検討することが非常に大切です。

さらに高濃度なクチコミをブーストするには

しっかりと作品のアセットに紐づくターゲットを連れてくるだけでも、高濃度なクチコミの発生確率を高めることはできますが、もう一歩ブーストできるとなお良いのかなと思っています。

というのも現代人は非常に忙しいですし、長文だったり熱量が高い高濃度なクチコミを投稿するのは、まあまあ時間がかかるもの。作品のターゲットの中には、映画に多くの可処分時間を割いてくれる人も一部はいるものの(こういう方は映画を観てクチコむまでが鑑賞体験になっていることも多い)、そうではない人が大半だと考えられるからです。

映画を観終わった後、デートであればそのままランチやディナーに出かけたり、家族で観に来ていたら子どもの面倒を見たり、仕事の合間を縫って観に来た方は、そのまま仕事を続けなければいけないかもしれません。

こうした忙しさの中で、5-10分くらいだとしても観終わった映画のために時間を使ってもらうことは意外と難しいものです。

映画鑑賞後、落ち着いて時間がとれるころには、「観に行った」という報告めいた投稿しかできなかったり、それならまだマシで、クチこむことをもはや忘れている、クチコミを書くことすら脳裏に浮かばない、といった人が大半を占めるのが現実でしょう。

こうしたハードルを、「映画持続時間の分断」とでも呼びましょうか。映画を観ている最中、観終わった後には心を動かされているものの、その後の忙しさによって、その感情が持続せず、高濃度なクチコミにまで至らないという「分断」。

この分断を乗り越えるために、次節で紹介する「琴線スイッチ」の考え方を取り入れましょう。

映画における「琴線スイッチ」

これは映画に限らずですが、私たちは意外と単純で、「期待値」が大きく、その期待値に十二分に応えられる体験をした時に、非常にポジティブな感情が増幅されるものです。

例えば、大笑いするテンションで観に来た映画はツボが浅くより笑えることが多いですし、泣くつもりで観に来た映画はいつも以上に涙腺が緩んで割と簡単に号泣してしまったりするものです。

このように体験価値を増幅させる「期待値」を作る上で有効なのが、「琴線スイッチ」の考え方です。

映画を観た際に生じる感情はそれこそ沢山ありますが、自分の実体験や多くのクチコミを分析する中で、普遍性のあると考えられる要素を、5つ抽出しました。それが下記です。

※今回紹介している「琴線スイッチ」は、弊社トライバルメディアハウス社長、

池田の提唱するフレームを、映画に最適化してリフレーミングしたものです。

〇感動・共感
映画を観て、登場人物の心情やシチュエーションに感情移入をしたり、その結果強く感動して、涙を流してしまったり、強い感情を伴う琴線スイッチ。例:「自分も主人公と同じような経験をしたことがあって、共感しすぎて号泣してしまった」

〇興奮
映画を観て、無心になって楽しんだり、怖がったり、笑ったり、思わず興奮して「面白かった」と口ずさんでしまうような、アトラクション的琴線スイッチ。例:「頭を空っぽにして楽しめる最高のコメディ映画!超笑える!」

〇予想外
映画を観て、いい意味で騙されたり、予想外の仕掛けに翻弄されたり、「やられた感」だったり、そのインパクトを共有したくなるような琴線スイッチ。例:「前半のシーンが、ちゃんと後半の伏線になっていて、見事な回収に鳥肌が立った」

〇示唆・考察
映画を観て、社会問題を考えるきっかけになったり、暗喩的な描写を考察したくなったり、観客の頭を悩ませ、心をかき乱すような琴線スイッチ。例:「こういった地域に住んでいる人が、こんな問題を抱えているとは知らなかった。」

〇驚嘆
映画を観て、その映画の他の要素がどうであれ、ある突出した要素を「凄い」と讃えたくなるような琴線スイッチ。例:「ストーリーは微妙だけど、あのシーンのワンカットのアクションは凄すぎた!」

ここから派生して、言語化が難しいものも含めて多岐にわたる感情が生まれうるので、あくまで考えやすいように、可能な限りMECEで5つに抽象化したものだと捉えてください。

しっかりとアセットと関連したターゲットへのコミュニケーションを設計しつつ、上記のような琴線スイッチのどれが押されるのかを「期待値」として醸成する。ターゲットと期待値の相乗効果によって、映画を観ている最中の体験だけでなく、映画を観終わった後も語りたくなるような、熱烈な感情を揺さぶる

そうしたコミュニケーションによって、どんなに忙しくても、どんなに鑑賞から時間が経っても、その映画について「なにがなんでも語りたいんだ!」と思ってもらいやすい状態、つまり高濃度なクチコミをしてもらいやすい熱狂を作れると思います。

どんな施策を実施する際にも、根底に通じるコンセプトとして、そうしたターゲットと琴線スイッチの相乗効果を意識しておくことが重要です。

何度も引き合いに出してしまって恐縮ですが、『トップガン マーヴェリック』は、まさに「興奮」の琴線スイッチを刺激するようなコミュニケーションを行ってましたね。

トム・クルーズの体を張った熱演、マーヴェリックが教官として戻ってくる展開、訓練生たちの競争と友情、大迫力の戦闘機アクション、教官と生徒の熱い関係性…。それらを「胸熱」というコンセプトのもと期待値醸成を行っていました。

『RRR』の例

ここからはいくつか例を見てみましょう。

公開当初からスマッシュヒットを記録し、日本におけるインド映画史上、最高のオープニング成績を叩き出した本作。非常に熱量ある高濃度なクチコミが沢山観られてますね。

・人生で1番楽しい3時間
・神がかった映画
・正気ですか?(褒め言葉)

本作は下記の記事にあるように、S・S・ラージャマウリ監督の前作、『バーフバリ』シリーズに連なるインド映画、テルグ語映画のファンを狙ったコミュニケーションをしつつ、「興奮」「驚嘆」の琴線スイッチで期待値を盛り上げていました。

最近こうした局所的な熱狂が注目されて、ようやくマスメディアにも取り上げられ始めてますね。

『ある男』

こちらもまだまだ公開されたばかりの新作映画ですが、公開初週に興収1億2,900万円と好調な滑り出しで、強力な競合作品がある中でも、初登場3位に躍り出た作品です。

本作においても、以下のような高濃度なクチコミがみられています。

「邦画ってこんなに凄いんや」
「話運びのうまさに脱帽」
「妻夫木聡、誰ってなった・・(こんな妻夫木君見たことない)」

豪華キャストの稼働が多く見られ、彼らのアセットを生かした演技力への「驚嘆」、そして作品が持つ強いメッセージ性への「示唆・考察」が琴線スイッチとして前面に押し出されており、こうした一貫性が、ヒットを飛ばしづらい重めのドラマジャンルでありながら、本作が一定のスマッシュヒットを挙げることができている一因でしょう。

まとめ

これまでも述べている通り、高濃度なクチコミは主観に基づくので、完全なコントロールをすることはできません。ただし上記で観てきた作品のように、しっかりとターゲット×琴線スイッチを意識することで、そのポジティブな文脈での発生を後押しすることはできそうです。

言っていることは当たり前だと思われるかもしれませんが、作品自体のポテンシャルは高いのに、間違ったターゲットの、間違った期待値を醸成してしまったばかりに、逆にネガティブな文脈でクチコミが上がってしまう、といった作品の例も何度も見てきました。

そうした勿体ない事態をなるべく避けるべく、フレームとして施策を検討する際、「誰のどの琴線スイッチを動かすべきか」、といった視点に立ち返ってみることも重要だと思います。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!!
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