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小説|左の窓 #7

「ガラス地獄」


アパートの引っ越しの片付けが済んでいない自分の部屋に戻っていた。内田は結城不動産屋のことを考えていた。もうしばらくはあのビルに行ってもしょうがないと。結城不動産屋の関連会社に連絡するか、窓を修理して請求してきた会社に連絡するか……。でも今日はあの不動産屋の光景を目撃してしまったばかりに全身力が入らず、抜け殻の様に床に転がる。

「何もしたくない……もう疲れた」

「俺、ちょっと今日、不運過ぎじゃね……?」

床に大の字になって、天井を仰ぐ。そして例の修理されたであろう窓をじっくりと眺める。改めて窓をまじまじと見ると、確かに左右で窓のガラスの細かい柄が微妙に違っていることに気づく。左右でガラス窓の柄が違うのは、無理やり修理した為か、もしくはどちらかを新品に取り換えたのか、疑問に思う。

「…左の窓の方が若干新しく見えるな、雑な修理だな……」

観察していると、突然左の窓がガタガタと音を立てる。外の風が強いのか…。いや、さっきまで内田は外にいたが、風はたいして強くなかったはずだ。

「ピシッ」

突然、左の窓の端に割れ目が入った。そこだけではない、他の箇所にもどんどん割れ目が入っていく。

「ピシッ」

「パキッ」

異変に気付いた内田は横になっていた体を起こす。そして左の窓に視線が集中する。

「なっ……なんだ、なんだ!?窓が……!!」

「「ガシャン!!」」

そして窓の割れ目が重なった入った箇所は、ガラスの破片となり床に散らばってゆく。慌てた内田は怪我しないように窓から距離を取った。数秒して、左の窓の異変がおさまった。

「なんで急に窓が割れたんだ……」

大きなガラスの破片は床の板に突き刺さり、小さい穴がいくつも空いてしまった。今、窓側へ行くのはとても危険な行為。ガラスの破片は太陽の赤い光を一杯に浴びて反射する。影の色とマーブルに混ざり、赤黒い色で輝きを放っていた。まるで地獄の針山のような、内田に対してそんな風に見せていた。

こんなにあっさりと割れてしまう窓なのか。せっかくの引っ越ししたのに、新居が台無しになってしまった。

「普通じゃない…!」




「そうだよ、この窓は特別なんだ」



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