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No.1スイッチ

スマホに速報の通知が入った。

「No.1スイッチの運用、可決」

内容を見てみると、有識者が集まる国際会議での発言が記載されていた。

「『世界で一番』を持っている者以外は消します。No.2以下は無価値です。有能な人材だけを残して、地球上の人口過多を緩和させましょう」

とのことだ。

状況が良く分からないが、少なからず「消す」という表現はふさわしくないと思った。せっかくの日曜なのに気も休まらない。

数分後、スマホから異様な音が流れはじめた。

(ブ〜〜〜ウ〜〜〜ウ〜〜〜)

「国民保護サイレン」だ。

以前、動画配信サイトで聴いたことがある。
緊急地震速報の音も胸くそが悪いが、この音はいわゆる「終わり」を彷彿させる絶望的なものだ。
まさか、生きている間にこの音を聴くことになるなんて思ってもいなかった。

追って日本政府から速報が入る。

「No.1スイッチ、間もなく決行」

続いて記事にはこう書かれていた。

「逝去される前には、残された時間をご家族やご友人と共に、有意義に過ごしていただきたい」

投げやりか。もう、どうしようもないのか、、。

凡人の俺ですら状況は分かった。むしろ凡人だからこそ直ぐに分かるのかもしれない。
学生時代に同じように考えた事もあった。
学年順位、全国偏差値、、No.1がいるのなら、その下の人間は生きる意味があるのか?と。
どうにか自分の価値を見出そうと、こう思ったこともある。No.1と違うことをしよう。違う畑で活躍しよう。そうすればそのジャンルの中ではNo.1になれるかもしれない。ところがだ。
別の畑に行ったら行ったでことごとく「バケモノ」がいるのだ。そんなもんだ。にわかにNo.1になんかなれやしない。すでにその筋で多くの時間を費やし、努力を重ね、そもそも才能すら備えたバケモノが君臨しているのだ。

俺みたいな凡人はNo.1になんかなれない。

それでいいんだ。「No.1スイッチ」とやらを押してもらって、俺みたいな中途半端に惰性で生きてるようなやつは死んでしまえばいいんだ。生きる価値なんてない。至極当然の話だ。

「スイッチのカウントダウンが始まります」

いよいよか。思っていたよりも早かった。きっとパニックが起きる時間を最小限にするためなのだろうと感じたが、もはやそんなことはどうでもいい。

あぁ、もっとちゃんと生きてれば良かったなぁ、、

「10.9.8....…3.2.1…ON!」


ん?あれ?死んでない。なぜ?
あれ?時間差でじわじわ消えるパターン?
なになに!

(トゥルルル〜♪トゥルルル〜♪)

こんな時に母親から電話が。

「もしもし、、どうしたの?」

「どうしたのじゃないでしょ!最近連絡もよこさかいから死んでんじゃないかって心配してたのよ〜。お仕事は順調なの?ご飯もちゃんと食べてるの?」

「まぁ、それなりにやってるよ」

「そうなの?なら良かった♪」

「で、何の用だよ」

「いやぁね、さっきポチの散歩をしてたんだけど、いきなりワンワン!って吠え出してね、町内会のスピーカーからも変な音がなってて。あら、地震かしらって思ったの。そしたら地震も何も来なくてね、、」

「母ちゃん、多分うちら死ぬよ?」

「何言ってんのよ。死なないわよ。5年前にお父さんが亡くなる時だって、お前は100歳まで人生楽しんでなって言ってたし、私はまだまだ死なないわよ♪で、あなたのところは地震、大丈夫?」

「まぁ、地震なんて来ないよ」

「そうなの?なら良かった♪今日はお休みなんでしょ?ゆっくり好きなことやって休んで、ちゃんと栄養あるもの食べなさいね♪」

「あぁ、分かったよ」

「そのうちこっちにも顔出しなさいよ♪ポチだってあなたに会いたがってるんだから。じゃ、またね」

「はいはい」


母ちゃんは状況が分かってないのか?まぁ、スマホの操作もままならないし、速報も読んでないんだろう、、そんなもんか。

で、何で死なないんだ?
俺は「世界でNo.1」になれることなんて何一つないぞ。スイッチがうまく機能しなかったのか?それならそれでいいんだけど。

新たに通知が入った。
何だこれ?俺宛てか?

「No.1スイッチの結果、貴方は生存しました。これからも『世界一』の人間として、社会貢献していってください。」

続きがある、、、。

何の「世界一」かって?

「貴方は世界で一番『お母様より愛されています』頑張ってください」

なるほどねぇ、、、。
「親の心子知らず」ってことか。母ちゃんには心配ばっかりかけてるよなぁ。大人になった今でも、、。いい加減ちゃんと生きなきゃダメだな。
母ちゃん、、俺いろいろ頑張るよ。

しばらくして、ふと思った。
そう言えば母ちゃんも生きてたな。俺、母ちゃんに今まで何も親孝行なんてできてないし、「世界一」って言えるほどの感謝の気持も注げてなかったし、、母ちゃんは、何の世界一だったんだろう、、

あ、、。

───5年前、雨の中で路上に捨てられていたポチを拾いあげ、びしょ濡れになりながら抱きしめていた母ちゃんの姿が頭をよぎった。











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